調査記録①

調査記録

記録:〇〇大学三年北窓友也

日時:2 0 2 4 / 8 / 1 3

場所:O 県某所

目的:" 夜に口笛を吹いてはいけない理由" を探る


 本調査は、調査者の叔父が手に入れた文書(以下手帳と記述する)を参考に、

" 夜に口笛を吹いてはいけない理由" を探ることを目的としている。

該当文章、" なぜ夜に口笛を吹いてはいけないのか" は手帳の1 ページ目に、

O 県某所の住所とともに記述されており、当該住所との関連を探るため実地調査を行った。以下はその記録である。

 

8 / 1 3

午後8 時2 0 分

 叔父とともに現場に到着。

 現場は住宅街外れの山道であり、人や車の通りはなかった。

 最寄りの民家も廃虚になっているようで、

 総じて人気のない山道といった印象を受けた。


午後8 時3 0 分

 叔父が口笛を吹く。

 すると程なくして、道端の草藪から一般的なサイズのヘビが飛び出で、

 こちらを威嚇するかのようにとぐろを巻いた。

 ヘビはこちらと1 0 メートル程度の距離をとりつつ数秒にわたりこちらを観察

 していたが、その後興味を無くしたかのように藪へと消えていった。


午後8 時3 1 分

 調査者が口笛を吹く。

 数秒の後、先ほどと同じ見てくれのヘビが先ほどと同じ草藪から飛び出た。

 ヘビは前と同じ距離を保ちながらとぐろを巻きこちらを威嚇し、

 そして同じように藪へと消えた。

 その後すぐに叔父が藪に分け入り捜索を行ったが、

 ヘビはおろか虫一匹発見できなかったという。

 

午後8 時3 5 分

 録画による記録を開始し、再び叔父が口笛を吹く。

 ヘビは再び現れたが、前と異なり一直線にこちらに距離を詰めてきた。

 ヘビは退避する我々を追いかけ続けたが、1 0 秒ほど追いかけた後静止。

 その後藪へと姿を消した。


午後8 時4 5 分

 危険性を鑑み十分に距離をとり、調査者が口笛を吹く。

 前回と同じようにこちらとの距離を詰め、そして1 0 秒後姿を消した。


午後9 時2 分

 十分に距離を取った上で、今度は調査者と叔父の二人同時に口笛を吹く。

 再びヘビは現れたが、以前までと異なりそのサイズは増大しており

 おおよそ腰に達する程度の大きさに変わっていた。

 後に映像記録を確認したところ柄にも変異が発生しており、生理的に不快感を抱く 

 見た目に変貌していた。

 ヘビはこちらに向かい襲いかかってきたが、実害がある前に退避に成功。

 記録の物音などから判断するにヘビは十数秒後藪へと消えたものと思われる。


調査結果

 当該地域で累計5 回" 夜に口笛を吹いた" ところ、例外なくヘビに遭遇。

およそ正常な個体とも思えないような大蛇にも遭遇したため、我々の身の安全を鑑み調査をここで打ち切った。


・ヘビについて

 映像記録を照会したところ、今回の調査で出現したヘビは西日本で多く見られる

毒蛇、ヤマカガシのように見えた。

しかし自治体等に問い合わせたところ、当該地域では毒蛇の出現は報告されておらず、付近に水場もない。水辺に棲むと言われるヤマカガシの生態を鑑みても疑問の残る結果となった。

 また、出現したヘビは最後の大蛇を除き全て同一個体のように見え、出現したあとの行動についても叔父が口笛を吹いた時と調査者が口笛を吹いたときで全く同じ行動を取っていることが確認できた。全く同じ藪から飛び出て、全く体の動きで、全く同じコースを辿りこちらに襲いかかってきたのである。そうした同一性の理由を解き明かす手立てはないが、我々共通の認識として、機械などの作り物からは感じない、リアルな恐怖を覚えたことは付け加えておく。


・最後の大蛇について

 種としては変わらずヤマカガシのように見えるが、サイズは決定的に異なる。

ヤマカガシは一般的に1 . 3 m 前後であるのに対し、我々が遭遇した大蛇は優に5 メートルは超えているように見えた。また、柄に関しても一般的なそれとは異なり

斑点がまるで人の顔を思わせるような不気味なものに変貌していた。

我々は遭遇してすぐに遁走したためそれがどのような行動をとり、どうやって帰っていったかは確認できなかった。


・当該地域について

 事後調査として地域に伝わる伝承や文献を調査したが、関連性のある話は発見できなかった。近隣住民へのインタビューも試みたが、これといって決定的な情報を得ることも叶わなかった。しかしインタビューを試みる際" 夜口笛を吹いたらどうなる?" と質問したところ、全ての住民が例外なく" 蛇が出る" と回答した点は気になった。


考察

 " 夜に口笛を吹いてはいけない" という言い伝えは、ある種の教訓として全国的に広く知られている。近所迷惑を避けるため、邪なものを呼びつけないためなどその目的については諸説あり、今でも決定的なルーツの証明はされていない。言い伝えそのものも多種多様で、

" 夜に口笛を吹くとヘビが出る" " 夜に口笛を吹くと人さらいに会う"

" 夜に口笛を吹くと霊が出る" などバリエーションに富む。こうしたバリエーションの違いについても諸説あり、体系的な説明はされていない。

 今回の調査は、そうした疑問を解消する手がかりを探るため行ったものであるが、極めて多くの疑問が残る結果となった。我々が遭遇した現象の謎、なぜ口笛なのか、そしてあの大蛇の正体は何なのか。それら全てを解き明かすためにはより一層の調査が必要だが、


一つ確かなこととして言えるのは、

" 夜に口笛を吹くと、蛇が出る" ということであろう。

北窓

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