インタビュー文字起こし①

2 0 2 4 / 8 / 1 3 午後6 時2 6 分

インタビュワー:北窓友也

対象:北窓祐介氏


 インタビュー対象はインタビュワーの親類であり、O 県にて古物商を営んでいる。本インタビューは私が対象に課題レポートへの協力を要請したところ、

対象から" 面白い話がある" と持ちかけられたことをきっかけに行ったものである。


(録音開始)

「はい、開始しました」


「もう記録しとんの?ほな始めんで」


「あぁちょっと、前置きとかあるから… … 。

えーっと、〇〇大学3 年、北窓友也です。

今回は課題レポートの聞き取り調査として、

叔父である北窓祐介氏にお話をうかがいたいと思います。

叔父は古物商としてO 県に在住しており… … 」


「堅っ苦しいし長いで、ユウちゃん。

”僕は北窓友也、O 県で質屋やっとる叔父のユースケがおもろい話持っとるらしいから、帰省ついでに話聞きにきました”。これで前置きなんか終いやないか」


「いろいろとあるんですよ、アカデミックは」


「なんやよう知らんけど。もうええな?話して。… … よっしゃ、ほな始めんで」

「今から2 カ月くらい前の話なんやけど、

店におもろいもん持ってきたお客さんがおってな。

よれたスーツ着てえらい辛気臭い顔したおっちゃんやったんやけど、

入るや否や何も言わず懐からちっちゃい手帳みたいなもん手渡してきてん」


「手帳、ですか。そこまで珍しいんですか?」


「いや?手帳持ってくるお客さんはそこそこおるで。

まぁ使用済みのモンは買い取らんことにしとるし、値を付けるんは稀やけどな。

今回も御多分に洩れず使用済みやったし、見たとこそこまで値打ちモンでも無いんで普通に断ろうとしたんやけど、おもろい言うたんはその中身や、中身。ほれ」


(雑音)


「お。これが例のやつですか?」


「おぉ。読んでみた方が早いやろ。読んでみ読んでみ」


「えーっと、どれどれ… …

" なぜ夜に口笛を吹いてはいけないのか?

O 県S 市K 町2 - 1 3 - … … ”

って、なにこれ?」


「ようわからんやろ?

1 ページぶち抜きで”なぜ〜なのか?”って文章と、住所が書いとるだけや。

それが全3 0 ページ。手帳ってか自由帳みたいやな」


「これについて持ち主は何か言ってましたか?」


「それがなぁ、僕も気になって聞いたんやけど、何や急に変なこと言うててな」


「変な… … と言いますと?」


「おお。ずっと下見てたのにそれ聞いた瞬間ばって顔上げて、

" なぜ機を織っているとき、けして襖を開けてはいけないのですか?" ってな」


「えぇ… … ?それってなに、鶴の恩返しの話?」


「そうなんかな?まぁ結局今でも分からへんねんけど。

その場は何言うとんやろコイツ、って思って何も言わんかってん。したら、

" なぜ食事をする前は、いただきますと言わなくてはいけないのですか?"

" なぜエスカレーターには決まった乗り方があるのですか?"

" なぜ夜は口笛を吹いてはいけないのですか?"

" なぜ"

" なぜ"

" なぜ"

って連呼し始めてん」


「えぇ… … ?怖いね。あ違う、怖いですね。」


「ははっ。せやろ?俺もビビってもうてな。恐怖のあまり

" 何寝言言うとんねんボケ!売りに来たんやったらせめてまともに受け答えせんかい!!" って怒鳴りつけてもうたんよ。

したらあいつ、なんも言わずそのまま店出てどっか行ってもうてん」


「売りに来たのにそのまま帰ったんだ… … 変な人ですね」


「せやねん。話も何もできんかったし、見てくれも不健康。ずっと張り付けたような無表情で愛想も何もあったもんちゃうかったわ。

ありゃあなんかココに良くないモン持っとるんちゃうか?」


「ちょっと、録音中。… … ちなみにそのあと、何か後日談あったりします?」


「いんや、一切ナシや。音沙汰もないし、

正式に買い取った訳でもないからおっちゃんの連絡先もわからん。

やからどうしようも無かったんやけど…

ユウちゃんから今回連絡あって、エエこと思いついてな」


(紙をめくる音)


「この1 ページ目、さっきユウちゃんが読んだ口笛のやつ。ちょうどこの県やろ?」


「あー、確かに。他のはいろんな県にまたがってるけどこれはO 県だ」


「せやろ?ここで一つ提案なんやけど… … 今からココに書いとるとこ、

行ってみぃひん?なんで口笛吹いたらあかんのか解き明かしに行こうで。

時間ももうじき夜やしちょうどええやろ」


「え?ここ、そんなに近いの?」


「車で三十分、ってトコやな。飛び込みで色々やったほうが調査んなるやろ?」


「… … まぁ確かに。それなら叔父さん、運転お願いできる?」


「任しとき。ほな行こか〜」


(雑音)


「あ、そうだ。… … えーっと、以上で録音を終わり… … いや、まだ何か言わなきゃいけないことがあったような… … あ、叔父さん」


「んー?なんや?」


「この音声、録音しても大丈夫だった?」


「それ最初に聞くやつちゃうん?」

(録音終了)

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