夢の後先~涙のカノン

来夢来人

第1話 流星群~ソンジェとウィリー

僕はいつも君と

一緒にいたかった。


なぜ君は、本当のことを

言わなかったの?


あの写真の相手は

彼女ではなくて、

僕だって・・・。




 ソンジェとウィリーは同じ事務所の練習生で、ふたりともアイドルを夢見て、大都会へ出てきた少年だった。

 

 田舎出身だったことから、ウィリーには少しだが、話しことばに訛りがあった。

そのことでウィリーは最初の頃、練習生仲間から良くからかわれもした。もともと

内気なな性格だったのだが、ウィリーはますます殻にこもり、ひとりでいることが多くなった。


 その日、ウィリーは全てをあきらめ、田舎へ帰ろうとしていた。

 それほど多いとは言えない荷物を背に、重い足取りでウィリーは事務所の廊下を歩いていた。

 その時である。音楽が遠くから、微かに聞こえてきたのだ。


 連休で、ほとんどの練習生が自分の家へ帰っていた。

 だから宿舎には誰もいないとウィリーは思っていた。


 練習室で彼はひとり、黙々と踊っていた。

 ソンジェ・リー、次世代のエース・ダンサーと噂されていた、誰もが知る練習生だった。



 ソンジェと出会ったことがウィリーの運命を変えた。

 ソンジュも地方の出身で、話しことばに少し訛りがあったのだ。

 二人は急速に親しくなり、自然に特別な仲となった。


 二人は一緒にいるだけで、幸せだった。

 ふたりは同じ夢を見て、同じ夢を追いかけた。


 夢はかない、二人は同じグループのメンバーとしてデビューすることになった。

 しかし一人の女性職員が、その二人の夢を打ち砕いた。


 その有名アイドルにも負けない美貌の女性職員はとても野心家だった。

 彼女は先輩で、今はライバル事務所の敏腕プロデューサーとして活躍するミン・ヒジンのようになることを夢見た。


 その彼女が自分の夢を叶える未来のパートナーとして狙いを定めた練習生がソンジェだったのだ。


 ソンジェは事務所の公開練習生で、すでにその才能は業界でも知られていた。

 彼女はソンジェを伴い、ライバル事務所へ移籍し、成功することを夢見た。


 彼女は上司を誘惑して、ソンジェ担当の職員となり、ソンジェに近づいた。

 彼女はとうぜんソンジェを誘惑したのだが、ソンジェは事務所の上司や他の練習生と違い、なぜかその誘惑に乗ることは無かった。


 夢を追い求める美貌の女性職員は、どんな誘惑をしても落とせないソンジェに苛立ちながらも、決して夢をあきらめることはなかった。


 彼女はいつしかソンジェのストーカーとなり、自分の地位を利用してでも、ソンジェの全てを支配しようとした。


 そしてソンジェとその女性のスキャンダルが流出したのだ。

 証拠とされる写真も一緒に流出し、ソンジェはそのことについて一言も釈明をしなかった。


 実はその写真は捏造写真で事務所もそのことには気づいていた。

 しかし元写真のほうも危険な爆弾となる可能性があった。

 事務所に問い詰められたソンジェは、ついに元写真で後ろ姿しか映っていない人物がウィリ-であることを認めた。そしてその写真が撮られることになったいきさつも話した。


 その写真を撮られたとき、二人は宿舎で他の練習生と共にゲームをしていた。

 練習生たちはペアになってゲームをしていたのだが、ソンジェとウイリーのチームは最後の最後で負けてしまい、その罰ゲームとして、ふたりは練習生の前でそのとき話題となっていたあるドラマのある名シーンを演じることになったのだ。抱き合い、キスをする恋人たちの場面だった。それは将来、練習生たちが俳優の仕事やバラエティの仕事をしてラブシーンを演じることになったときのための予行訓練とも言えたのだが、オモシロおかしくラブシーンを演じることを要求された。ふたりはかなり頑張り、拍手喝采の爆笑ラブシーンを創りあげた。


 恋愛を禁止されている練習生たちは、そんなお遊びをしながら、日々たまっていく青春の悩みと欲望を発散させていた。

 そしてその様子を秘かに写真に撮り、女性職員に渡した練習生がいたのだ。

 彼女はデビュー話をちらつかせ、その練習生にソンジェの行動を逐一監視して報告するように命じていた。そして集めた写真を元に、問題の写真は捏造された。


 ソンジェはウィリーと練習生仲間をスキャンダルに巻き込みたくなかった。

 特に些細なことでも傷つきやすく、あまりに繊細な心の持ち主であるウィリーをネット・バッシングに晒すのだけは避けたかった。


 ウィリーを護りたい。

 それが彼のたったひとつの願いだった。


 ソンジェはひとり悪者になることを選んだ。

 何も知らないファンは、彼に素行不良の練習生というレッテル貼り、徹底的に弾圧に走るものも多かった。


 事情を知る事務所は、ソンジェを見捨てたりはせず、解雇するようなことこともしなかった。しかし一部の過激なファンはますます過激になり、事務所を悩ませた。

 そしてついに事務所は圧力に負け、ソンジェをグループから離脱させ、無期限の活動停止にすることを発表した。


 この不祥事に対して事務所が出来たことは、問題を引き起こした女性職員を解雇し、業界から追放したことだけだった。

 一方、解雇された女性職員は事務所を恨むと同時に、ソンジェへのストーカー行為をますますエスカレートさせていった。

 

 


 







 









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