第一章:商人の供物

……ある日、商人・湊屋儀兵衛みなとや ぎへえが密かに南冥を訪ねた。唐土から流れたという小箱を差し出す。


中には掌に収まる小さな古い金印。驚くほどの重みが、ずしりと南冥の掌に沈み込む。


「これは漢の時代の古き印にございます、先生の慧眼であれば、この品を歴史に値するものへと変じられましょう」


儀兵衛の言葉に南冥の心臓は早鐘を打った。

――天が我に試練を与えたか。


これはただの金印ではない。学問が虚空に響くことを恐れる己にとって、歴史を「完成」させる素材そのものだった。

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