第37.5話 瑞龍学園の話
◾️瑞龍学園 視点
「さてさて、大会の状況はどうなってるのやら…」
俺たち生徒会の者が他の生徒達とは違う部屋で大会の様子を見ていた。
他の学園の生徒会もいるが、当然、ピリついている。
(仲良くやらーいいのになー)
呑気にそんなことを思いながら、モニターを見ていた。
モニターには、各学園の生徒達が映っている。
戦っている者、倒れた者、逃げてる者など色々映っている。
「ふん!あの生徒逃げてるな…弱っちいなー!!」
「あら、あの子も倒されてますわよ?弱いですわねー」
強いカルムが残るこの大会……どの学園も自分達が強いと思っている。
(ま、俺は楽しめればいいだけだがな)
そう思いながら、映像を見ていた。
すると……
「あれは何だ?」
生徒の1人がモニターに向かってそう言った。見ると……
「ああ…俺の学園の生徒だな」
「あんたんとこの?!あんな巨体がいるの?!……呆れた」
「いいだろう!瑞龍学園は強さこそ全てだからな!!」
生徒会の人間どもも驚いていた。
「あれが言っていた……」
「おう!瑞龍学園の獣さ!俺じゃないと倒せない相手だな!」
「彼の名前……獣剛 凰牙……2年生」
「よく知ってるじゃねーかー!」
「……調べたから…ね」
「へぇ……」
何考えているか分からないが…まあ、敵を知ることは大事だと言うから、こいつは結構やるような気がした。
「あら?あれは…草薙学園の生徒ですわねー」
映像に獣剛と鉢合わせしたのだろう草薙学園の生徒がいた。
黄色のハンマーのようなものを持っていた。
「あら、なら瑞龍学園との勝負ですわね?」
草薙学園の生徒会長、ヴァイオラ・ローザが勝ち誇ったような表情で言って来た。
(こいつ、相手の技量が見えてないのか?まあ、バカっぽいし、見えてないのだろう)
俺は心の中でバカにしながら映像を見た。
獣剛に戦いを挑んだ生徒は獣剛にいい攻撃をしていたが、獣剛の硬い体にはあまり傷をつけることは出来なかった。そのまま、獣剛にボロボロにされていた。
「はっはっはっ…!!やっぱり強いなー!」
「なっ?!くっ……」
悔しそうなヴァイオラを見て、俺は愉快に笑った。
獣剛がとどめを刺そうとしたその時…
1人の生徒が獣剛の一撃を受け止めていた。
「なっ…?!」
その光景に思わず、声が出てしまった。
「ふっふっふっ…来てくださると思っていましたわ!」
また、勝ち誇ったような顔をするヴァイオラ。
(あの生徒が来るって分かってたのか?!ってか、あの生徒誰だよ?!)
獣剛の一撃はトラックを簡単に潰せるほどの威力だ。強いカルムでないと受け止めることなどできない。
(あの生徒……強いのか?)
獣剛との対決がとても気になった。
「………」
この部屋がさっきとは違って静かになった。
何せ、あの獣剛が生徒数人によって倒されてしまったから。
俺も何も言えなかった。瑞龍学園内でも2年生で2位を占めている獣剛がやられたから。
「……あの生徒達、何者?」
「あの獣剛を倒してしまいましたわ…」
「………ありえない」
生徒会長達もこの事実に驚愕していた。
「この結果は当然ですわー!」
ただ1人この空気を読まないバカがいた。ヴァイオラだ。
1人とても嬉しそうな顔で喜んでいた。
「貴方たちも彼らに倒されるのよ!」
「くっ……」
俺は獣剛がやられた事実を認めることができなかった。
(あの獣剛がやられるなんて…それに、あいつら獣剛の弱点に気づいていた?どうやって……)
獣剛は硬い体で武器の刃を通さない性質があるのだが、一つだけ弱点がある。
それは……
一点を集中的に攻撃されると、耐久力が低下し、刃が通りやすくなってしまうことだ。
全体的に硬いが、腕の一点、同じ箇所を何度も何度も傷つけられると耐えられなくなり、切られてしまうという欠点があった。
その欠点に奴らは気づいていたようだった。
(あの短時間で気づくなんて…並の戦闘経験がないとありえない……本当に奴らは一体……)
獣剛を倒した奴らが気になった。
「ふっふっふっ……この俺が相手してやるか……」
心の中で闘志を燃やした。奴らをボコボコにしてやろうと思った。
◾️春風(学園長) 視点
「始まったなー!」
大会が始まり、学園長全員が別室で待機していた。モニターに生徒達が映っている。
「ふん!今回は我が瑞龍学園が勝たせていただく!」
「何を言っているのか……勝つのは我々白嶺学園だ」
「あははは!!熱いわねー……でも、私たち朱炎学園も負けちゃいないわ!」
他の学園の学園長も気合が入っていた。
だが……
「やはり、お前達はバカだな」
「「あ?」」
ただ1人、泰山学園の学園長は静かに言った。
「どこの学園が勝つか……そんなのは分かりきっています…よね?」
圧のある声色で我々に聞いて来た。
確かに、今までのこの大会で勝ち続けて来たのは泰山学園だが……
「今年はどうなるのか分かりませんわよ?」
「と言うと?」
「瑞龍学園に獣がいるでしょ?」
瑞龍学園の獣……獣剛 凰牙は2年生でありながら、学年2位を取り続けている強者で、ほとんどの生徒が彼に負かされていると聞いている。
だから、彼が参加している瑞龍学園には勝ち目が確かにあった。
「まあ、私の学園に確かにいます。強者ですから、勝ち残ってくれると思っていますがね」
「へぇ……でも、我が学園、泰山学園にも強者は…」
「……海の麗人(れいじん)と獄炎の花蓮…か」
「その通りです!1年生にして学園の2位3位に当たる彼女達が、この大会で大いに活躍するでしょう!」
「………」
自慢げに話しているが、自分の学園の手札を簡単に曝け出すとは…よっぽど自信があるらしいな。
「ずっと黙っていますけれど……草薙学園はどうなんですの?」
不意に俺の学園のことを聞いて来やがった。1人だけ傍観してんじゃねーぞ!ってことだろう。
「私の学園でも、強い生徒はいますよ」
「草薙学園といえば、白嶺(はくれい)の巫女がいたか」
「ええ」
白嶺の巫女、名前は北條 可憐、白い髪の女子生徒だ。彼女が強い人物だとみんな認識しているらしい。
「まあ、誰がいようと泰山学園が、勝ちますけれどね?」
誇らしげに言う感じがとても嫌いだった?
「獣剛と、あれは草薙学園の生徒かな?」
「みたいねー」
「ほう……見ものだな」
他の学園長が興味を示している中、俺は心配していた。何せその映像に映っていたのは、西園寺だったからだ。
(今の彼では……勝てないかもしれない)
本来の力を持っていない彼では……きっと勝てない、そんなふうに思った。
案の定、西園寺は獣剛にボロボロにされてしまった。
(マズイ!!)
そう思ったその時だった。
「「は?」」
生徒が西園寺なら前に立ち、獣剛の一撃を受け止めていた。
その姿に、他の学園長が驚いていた。
「あの獣剛の一撃を止めているだと?!ありえん!」
瑞龍学園の学園長が驚きの声をあげていた。
(あいつは……零!!)
零が獣剛を止めているのだと分かった。
「春風学園長?あの生徒は一体誰なのですかね?」
「……いや、分かりませんなー顔が見えないもんで」
俺はここで敢えて知らないふりをした。勝手にこいつらにペラペラと話すわけにはいかなかったから。
「……へぇ、隠すんですの?」
「隠すも何も、知らないと言っているではないですか……それに、たとえ知っていたとしても教える義理はありませんから」
「くっ……!」
他の学園長が悔しそうな表情をしながら、モニターに向き直った。
(頼むぞ、零)
心の中で勝つことを願った。
「………」
「……おかしいですわね」
「あ、ありえない」
「ほう……」
獣剛と零、龍牙の対決となったが結果は零と龍牙の圧勝だった。
「あの者たちが草薙学園にいるなんて……とても勿体無いですわ!」
俺の学園にいることが不服だと言いたいそうだが、多分、こっちに引き入れたいと思っているのだろう。羨ましそうな顔をしていた。
「私は認めません!!獣剛があんな生徒に負けるなど!!あってはならない!」
流石の結果に、彼は取り乱していた。
「……一体どう言う不正を使ったのですか?」
私の不正を疑う人もいた。だが…
「全て彼らの実力ですよ」
俺はそう答えた。まあ、彼らに全部知られるわけにはいかないためであるが……
「実力だと?!なら、なぜ奴らは『結び』が使えているんだ?!あれは、普通のカルムには扱えないはずだ!それなりの実力がなければ……それも、生徒会や学年5位以内に入っている者しか!!」
「「「!!!!」」」
瑞龍学園の学園長は『結び』に気づいたようだ。
「……まあ、私の学園の隠し球と言うものですよ」
「………」
他の学園長も『結び』が使える生徒に興味があるようだった。
(この調子ならば、勝てるかもしれない……だが、零も龍牙もみんなも頼むから、『見つかる』なよ?見つかったら、戻されるんだからな)
そこが俺にとって心配だった。
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