第3話 ていうか、魔王殺したよな?
ひょんなことからはじまった
殺人鬼な俺は、ふと疑問に思ったことを口にする。
「ところで、さ。しらかば」
「ふぁーに?(なぁに?)」
しらかばはもぐもぐと口に何かを頬張っている。
「……なんか食ってるし」
リスみたいだな。愛らしいというか、撫でたくなる。
「新発売の
「え、マジ?あれ
「はいどうぞ」
「もぐもぐ……うま……。いや、じゃなくて!」
「?」
「
「……わかんない」
「ええ……」
「えへへ。でも、ずっと憧れてたんだよね。
「鶴の恩返しならぬ狐の恩返しですか……」
「えへへ。そうだよー」
彼はそう言って、照れくさそうにふわっと笑う。しっぽもふんわり、宙を揺らした。
「……君、どこまで善人なんだ。どうしてそんな考え方ができるんだ?この世には助けちゃいけない悪だって……いるだろ」
「……うーん」
「お前のやってることは、偽善なんじゃないのか。別に好きにすればいいと思うが、僕は悪人がいないって価値観は持てないな。……僕が、悪い子だから……」
「うーん。……悪い人間、か」
しらかばは、少し何かを考えるような仕草をした後、一息ついてから、こう言った。
「悪い人間、がいないと思ってるわけじゃ、ない」
「へぇ?」
「……でも、」
「……うん」
「世界は、『少しづつ良くなっていく』と思ってて。悪い人間は、いずれ淘汰されるから。……その、自浄作用って言うかさ」
「……ほぅ」
感心した。
私の、『殺人鬼』としての『悪人は存在する』という言葉に、ひとつの『回答』を用意できたこの妖狐に。……読者の皆様は、こんな上から目線の俺のことを『何様だ』と感じるかもしれない。でも、今まで
だから、物珍しかった。
みんな、悪人の存在から『目を逸らして』生きる。殺人をまるで『なかったこと』のようにして生きる。死体なんてまるで『見てなかったこと』にする。
でも……彼は、違った。
どころか、それが『いずれ忘れられること』だと。『無くなっていくもの』だと。そう言ったのだ。なんと現実的で、論理的な思考だろう?……彼には、勝てないかもしれないな。
「君、面白いね。面白いな。うん。やっぱり賢いんだね。私、感心しちゃったよ」
「いや、そんな……ぼく、ただのカラオケ店員だよ……?」
「ふふ。そこも良いね。とっても……気に入ったよ。魔王、絶対倒そう。一緒に」
殺人鬼はにっこりと微笑んだ。
*
影魔法が動く。
地下水道のパイプを伝って、流れる汚水の影が揺れる。"それ"は、殺し屋と妖狐の会話を聞いていた。
そして、通信魔術によって、"ある場所"へと転送されていた。
*
「ふーん。あの殺人鬼、……もう俺のことは忘れたって顔してやがる。……お前は殺人鬼の癖に、殺した人間を、ちっとも覚えてない……あぁ、ダメだな。殺して、やりたい」
大量の魔術書物。
全て殺人鬼を殺すためのものだ。
呪文を唱えると、彼の腕の吸血鬼の紋章が光る。大きな鷲と雀があしらわれた紋章だ。
魔力の流れが、彼の全身を脈動する。
「ははっ、……ははははは!!!!」
書斎で彼は不敵に笑った。
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