第3話 ていうか、魔王殺したよな?

 ひょんなことからはじまった勇者パーティゲームチーム集めも、早いものであと一人……というところで。


 殺人鬼な俺は、ふと疑問に思ったことを口にする。


「ところで、さ。しらかば」

「ふぁーに?(なぁに?)」


 しらかばはもぐもぐと口に何かを頬張っている。


「……なんか食ってるし」


 リスみたいだな。愛らしいというか、撫でたくなる。


「新発売の魔界スナックSt〇amゲーム枝切り鋏Minec〇aft味。美味しいよ。あかりちゃんも食べる?」


「え、マジ?あれ魔界の高級菓子数千円するゲームだよね?いいの?ちょうだい」

「はいどうぞ」


「もぐもぐ……うま……。いや、じゃなくて!」

「?」


魔王ジジイってもう俺が殺したじゃん?なんで勇者パーティプロチームなんか組んでるの?どっかに魔王がいるの?」


「……わかんない」

「ええ……」


「えへへ。でも、ずっと憧れてたんだよね。ヒーロー誰かを救う人になるの。勇者プロゲーマーって、ヒーローみんなの希望でしょ?ぼく、勇者救急隊に命を、助けられたから。今度は僕が、恩返し」


「鶴の恩返しならぬ狐の恩返しですか……」

「えへへ。そうだよー」


 彼はそう言って、照れくさそうにふわっと笑う。しっぽもふんわり、宙を揺らした。


「……君、どこまで善人なんだ。どうしてそんな考え方ができるんだ?この世には助けちゃいけない悪だって……いるだろ」

「……うーん」


「お前のやってることは、偽善なんじゃないのか。別に好きにすればいいと思うが、僕は悪人がいないって価値観は持てないな。……僕が、悪い子だから……」

「うーん。……悪い人間、か」


 しらかばは、少し何かを考えるような仕草をした後、一息ついてから、こう言った。


「悪い人間、がいないと思ってるわけじゃ、ない」

「へぇ?」


「……でも、」

「……うん」


「世界は、『少しづつ良くなっていく』と思ってて。悪い人間は、いずれ淘汰されるから。……その、自浄作用って言うかさ」

「……ほぅ」


 感心した。


 私の、『殺人鬼』としての『悪人は存在する』という言葉に、ひとつの『回答』を用意できたこの妖狐に。……読者の皆様は、こんな上から目線の俺のことを『何様だ』と感じるかもしれない。でも、今まで殺し屋晒し屋をしてきて、こんな回答をした者はいなかったのだ。


 だから、物珍しかった。


 みんな、悪人の存在から『目を逸らして』生きる。殺人をまるで『なかったこと』のようにして生きる。死体なんてまるで『見てなかったこと』にする。


 でも……彼は、違った。


 どころか、それが『いずれ忘れられること』だと。『無くなっていくもの』だと。そう言ったのだ。なんと現実的で、論理的な思考だろう?……彼には、勝てないかもしれないな。


「君、面白いね。面白いな。うん。やっぱり賢いんだね。私、感心しちゃったよ」


「いや、そんな……ぼく、ただのカラオケ店員だよ……?」


「ふふ。そこも良いね。とっても……気に入ったよ。魔王、絶対倒そう。一緒に」


 殺人鬼はにっこりと微笑んだ。


 *


 影魔法が動く。


 地下水道のパイプを伝って、流れる汚水の影が揺れる。"それ"は、殺し屋と妖狐の会話を聞いていた。


 そして、通信魔術によって、"ある場所"へと転送されていた。


 *


「ふーん。あの殺人鬼、……もう俺のことは忘れたって顔してやがる。……お前は殺人鬼の癖に、殺した人間を、ちっとも覚えてない……あぁ、ダメだな。殺して、やりたい」


 大量の魔術書物。

 全て殺人鬼を殺すためのものだ。


 呪文を唱えると、彼の腕の吸血鬼の紋章が光る。大きな鷲と雀があしらわれた紋章だ。


 魔力の流れが、彼の全身を脈動する。


「ははっ、……ははははは!!!!」


 書斎で彼は不敵に笑った。

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