第26話 陽菜との初体験
高校という名の、長くて短いモラトリアムが終わった。俺、山上健太の心の中には、早瀬葵先生との、あの燃えるような恋の記憶が、美しい傷跡のように深く刻まれている。しかし、それはもはや、俺の現実を支配する灼熱の太陽ではなかった。手の届かない夜空に輝く、一番星。時折見上げてはその輝きに胸を締め付けられながらも、俺は、俺自身の足で、光の差す地上の道を歩き始めなければならなかった。
その道を、隣で歩いてくれる人がいる。
春休み。桜の花が、ほころび始めた近所の公園。俺は、陽菜を呼び出していた。
「陽菜」
俺は、彼女の名前を呼んだ。そして、これまでの感謝と、俺が抱いている、どこまでも誠実な気持ちを、ありのままの言葉で伝えた。
「俺、お前のことが、ずっと大切だった。今まで、本当にありがとう。そして……これからも、俺の隣にいてほしい。俺と、付き合ってください」
俺は、深く頭を下げた。葵先生への想いが、完全に消え去ったわけではないのかもしれない。しかし、俺を信じ、支え、そして俺の歪んだ努力さえも肯定し続けてくれたこの温かい存在を、これからは俺が全力で支え、幸せにしたい。その想いは、一点の曇りもない、本物だった。
沈黙。やがて、ぽつり、ぽつりと、地面に小さな染みができた。顔を上げると、陽菜が、その大きな瞳から大粒の涙を零しながら、それでも、満開の桜のように、美しく微笑んでいた。
「……うん。……はいっ。……私も、健太君が好きです」
その返事だけで、十分だった。
俺たちの新しい関係は、驚くほど穏やかに、そして自然に始まった。
ある週末の午後、俺たちは、俺の自室で、大学の入学準備をしていた。山積みにされたパンフレットを仕分けしながら、俺たちは、これから始まる新しい生活や、教師になるという共通の夢について、とめどなく語り合った。
「健太君が先生になったら、きっと人気者になるだろうね。厳しいけど、本当は優しいとこ、生徒はちゃんと分かってくれるよ」
「ばーか。お前こそ、絶対いい先生になるって。優しすぎて、生徒になめられそうだけどな」
「もう、失礼だなあ」
そんな、気楽で、幸せな会話。部屋には、春の柔らかな日差しが差し込み、穏やかな空気が流れている。ふとした瞬間に、俺たちの視線が絡み合い、言葉が途切れる。どちらからともなく、俺たちは顔を寄せ、唇を重ねた。それは、ごく自然な、当たり前の帰結だった。
キスは、次第に熱を帯びていく。俺は、陽菜をそっとベッドに押し倒した。
「陽菜……いいか?」
俺の問いかけに、彼女は何も言わず、ただ、潤んだ瞳で俺を見つめ返すと、こくりと小さく頷いた。その表情には、緊張と、少しの恐怖、そしてそれを上回る、俺への絶対的な信頼の色が浮かんでいた。
俺は、その想いに応えるように、ゆっくりと彼女のブラウスのボタンに手をかけた。一つ、また一つとボタンを外していく。白い肌が露わになるたびに、陽菜の身体が、びくりと可愛らしく震えた。
「……健太君の、ばか」
「なんでだよ」
「だって……こんなの、ずるいよ。ずっと、好きだったんだから……」
途切れ途切れの言葉と共に、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。俺は、その涙を舌でそっと拭うと、初めて見る彼女の華奢な裸体を、壊れ物を扱うように、優しく抱きしめた。
葵先生との、全てを焼き尽くすような激しい交わりとは、全く違う。そこにあったのは、炎ではなく、陽だまりのような温かさだった。
俺は、彼女が初めてなのだということを、その身体の強張りで感じ取っていた。時間をかけて、焦らずに、彼女の身体を丁寧に愛撫していく。俺の指が、彼女の最も敏感な場所に触れた瞬間、陽菜の唇から、甘い喘ぎが漏れた。
「ん……っ、ぁ……け、んた、く……」
「陽菜……気持ちいいか?」
「……わかん、ない……でも、健太君が触ってくれるとこ、全部、熱い……」
彼女が、心と身体を、ゆっくりと俺に開いていくのが分かる。そして、いよいよ、その時が来た。俺は、彼女の未知の場所に、自分の全てを捧げる覚悟を決めた。
「陽菜。……少し、痛いかもしれない。ごめんな」
「……うん。健太君のなら、全部、受け止めるから……」
その健気な言葉に、俺の愛おしさは頂点に達した。俺は、ゆっくりと、しかし確実に、彼女の聖域へと分け入っていく。確かな抵抗感と、膜が破れる、生々しい感触。
「いっ……!」
陽菜の身体が、弓なりにしなる。その唇から、痛みに耐える、短い悲鳴が漏れた。俺は動きを止め、涙を浮かべる彼女の額に、何度も、何度もキスを落とした。
「ごめんな、陽菜……痛かったよな」
「……大丈夫。……大丈夫だから……続けて……。健太君の、全部、ちょうだい……」
俺は、その言葉に応え、ゆっくりと、そして深く、動き始めた。やがて、彼女の表情から痛みの色が消え、未知の快感に戸惑うような、甘い表情へと変わっていく。
葵先生とのセックスが、俺に未知の世界と、大人の興奮を教えてくれたのだとすれば、陽菜とのセックスは、俺に、愛する人と結ばれることの、純粋な喜びと、心が満たされるような安らぎを教えてくれた。
俺は、陽菜の温かい身体を抱きしめながら、心の中で、葵先生との記憶を、そっと整理していた。あの恋は、俺を成長させてくれた、かけがえのない経験だった。しかし、それはもう、過去の物語なのだと。俺の現実は、今、この腕の中にあるのだと。
全てを終え、俺たちは、ベッドの中で寄り添っていた。窓から差し込む西日が、部屋をオレンジ色に染めている。穏やかで、満ち足りた時間。
長年の友情は、この日、この瞬間、本物の愛情となって、一つの身体に結ばれた。そこには、罪悪感も、背徳感も、何一つない。ただ、互いを大切に想う、どこまでも透明で、そして確かな気持ちだけが存在していた。
俺たちの新しい物語が、この温かい陽だまりの中で、静かに始まった。
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