第2話 二人のハンター

 夢洲にある韓国系焼肉屋『檀君食堂』


そこの主人、金平一キムピョンイルは韓国出身の移民だと言っているが、実は生まれも育ちも大阪鶴橋である


韓国系のいわゆる在日コリアンの家系だが、キムの祖父の代で日本に完全に帰化を果たしているので、ほぼ日本人だ


金本平一かねもとへいいちという日本人としての本名もある


なぜ、彼が自分を移民と名乗って夢洲に住んでいるか?


彼は大阪府警所属の潜入捜査官だからである


キムは網を取り替えながらテーブル席でビールを飲んでいる二人の男たちを見た


一人はサングラスを掛けた20代半ばの男


よく見ると童顔の顔つきをしている中肉中背の自称香港人で、ジバンシイの黒いコートとスーツを着ている


男の名前は『マックス=チョウ』


女好きで陽気な男だが夢洲では『アイリス・アイズ』という異名をとる凄腕のハンターだ


「屍食鬼に連れ去られたレディたちが心配だ。紳士として救出しなければならん」


「ふん、お前っちゅうやつはなあ〜、女となればすぐに鼻の下、伸ばしおる」


もう一人の男、耳に護符アミュレットのピアスをつけた牛革製のジャケットを着た190cm越えの大男は呆れたようにいう


年齢は30代前後、鋼のように鍛え抜かれた肉体、傷だらけの顔、無精髭を生やしたこの男は『リボルバー・イモータル』の異名を持つ『荒海アラミトツカ』


日本人のような名前をしているが、日本国の戸籍はない


カジノリゾートを支配するエルフ系のマフィア『エアリエル』の女ボス『ヘップバーン』が連れてきた粗暴な男だ


二人ともまともな方法で日本に入国してきていない、戸籍も不明な不法移民、大阪府警が危険視している男たちである


(一体、この二人が、俺の店で何をやるんだ?どうでもいいが、店を壊さないでくれよ)


扉が開かれて、十名の若い男女たちが入店してくる


「おい、親父さん、とりあえず、全員にナマ頼むわ」


日本人と黒人とハーフ『諸味坂ラシード』が上座に腰掛けてキムに注文する


地下格闘技で鍛えた筋肉隆々の腕に毒蛇のハブの刺青を入れている


左右に並べた仲間の女の胸ぐらに手を突っ込み無骨な指で乳房を弄っている


こいつらは、中国人がやっている闇バイトの指示役だった奴らで、インターネットで接触したガキどもを脅して年寄りに詐欺電話を掛けさせていた奴らだ


しかし、大阪府警の半年前の手入れで、掛け子たちが根こそぎ捕まり、しばらく大人しくしていたはずなのだが、どうも、身なりなどを見ていると、ロレックスやグッチ、アルマーニなどブランド品を身につけており羽振りが良さそうだ


「さあ、みんな、じゃんじゃん頼んでくれよ。俺の奢りだ!仕事の成功を祝って乾杯

!」


「乾杯!諸味坂君、ゴチになりまーす!」


「中国人より、屍食鬼グールの方が羽振りいいっすね」


「当たり前だよ、あいつらは食うこと以外興味ないんだ」


「おかげで、俺たちは牛の焼き肉を、あいつらは女の肉を・・・」


「おい!」


諸味坂が一括する


「すまねえ、諸味坂君、口が滑っちまった」



 諸味坂の前に荒海トツカが酒瓶を持って立つ


「なんだい、おじさん。圧迫感すごいんだけど、俺ら楽しんでいるからからみ酒ならば、どっか行ってくれねえか」


「そうだ、諸味坂君は難波の地下闘技場のチャンピオンなんやど!ぶっ飛ばされんうちに消えろや、おっさん!」


「ガキが、やかましいわ!」


ばりいいいいんん!!


トツカは諸味坂の頭に酒瓶を叩きつけた


酒瓶は割れて諸味坂の頭から血が噴き出す


「てめえ!!」


諸味坂の仲間たちは一斉にトツカに飛びかかるが、振るわれたトツカの拳に前歯をへし折られて沈んでゆく


「調子に乗りやがって!俺は俺を舐めたやつは、ぶちのめさねえと気が済まねえんだ」


「おう、奇遇やな。俺もや」


諸味坂は立ち上がりトツカに向かって拳を振り上げた


トツカはその拳をかわすと、諸味坂の耳を掴んだ


(こいつ、なんつー力だ。120kgある俺が、この手を引き離せねえ)


「ちょっと熱いで」


トツカは諸味坂を焼けた網に押し付けた


ジュウうううううう!!


音をたてて諸味坂の頬が焼ける


「あち、あちち!!」


「カルビになる前に言わんかい、己らが拉致った女たちはどこや?」


トツカは冷たい瞳で諸味坂を見下しながら、さらに腕の力を強める



「おい!!」


遅れて店に入ってきた男がチマチョゴリの制服を着たウェイトレスを人質に取った


その手にはトカレフが握られており、銃口はウェイトレスの頭に突きつけられていた


「おい、諸味坂君を離せ」


「それはこちらの、セリフだぜ。お宅。女の子は、もっと大切に扱うもんだ」


マックス=チョウは客席から立ち上がってサングラスを外した


銃を持つ男はマックスの目を見た


虹色に輝く不思議な瞳だ


その瞳を見ていると、なぜか体が勝手に動く


男は自分の意思と関係なく、トカレフの銃口を口に咥えていた


「ん、んー!!」


「気をつけな。お宅、間違って引き金を引いたら天国に行くからよ」



 マックス=チョウの目は仙道の奥義の一つである『通天眼』と呼ばれ、1分だけ1人の相手の行動を操作することができる



「全く、恐ろしい連中だぜ」


 仙術を操るマックスと暴力の権化のトツカ


キムは二人を見て背筋が強張るのを感じるのだった



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