シーン16 ロミアス
ロミアスは森を進んだ。先頭を半ば走るように歩いた。
ろくな警戒も払わず、ひたすら早く目的地を目指した。逸る気持ちを抑えることはできなかった。そのおかげもあって丘の麓へは予定よりも早くに到着する。
すでに戦列は展開された。前衛の真ん中を重装兵が固め、後ろを魔術兵が支援する。エイドの伝統的な戦列だ。幾度となく勝利をもたらしたその構えだが、今は盤石とは言えない。慣れているからすぐに使える。だから使う。それだけだ。
あとはロミアスの一言さえあればすぐに行動に移れる。開戦の一時間。そこに全力を注ぎ込む。これなら『写本』の書き換えが終わる時間までに決着はついている。
「いるな?」
「何用でしょうか、旦那様」
ロミアスは虚空に向けてつぶやくと何もない暗闇から答えが返って来た。
「王女を殺し、『写本』を奪え」
「承りました」
冷たい鋼のように無機質な声。
暗がりから気配が消えたのを確認し、ロミアスは生唾を飲み込んだ。
森の中で数度光が点滅するのを確認する。
遠距離魔術部隊が配置に着いた合図だ。この部隊には火力と飛距離に優れた魔術士を選りすぐって集めてある。これは本来、丘の安全を確保してから敵本隊を一方的に攻撃するために使う部隊のはずだった。
魔力を使い果たせば敵本隊を攻撃できなくなるとわかっていても今、ここで、確実に勝つことを優先する。たとえ、兵力が尽きてもいい。後で何を言われようが『写本』を回収すれば相手に未来を読む手段はなくなる。それで勝ちだ。
「今より攻撃を開始する!」
持てる戦力すべてを投入し、切り札が王女を討てば良し。
負けを取り返すには使えるものは全て使う(オールイン)しかなかった。
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