航跡2:「その少女たち、変貌せし護衛艦」

「――ここは本土に近すぎる。影響がシャレにならない、手早く終わらせてもらう!」


 上空の要塞型ハームを、海上を旋回するような航路を取りつつ見上げ。そしてそんな言葉を零す[はたかぜ]。


 そして次には彼女は、格納していた防空ミサイル発射機を。

 「スタンダード・システム」のハードデバイスであるMk.13発射機を、展開して突き出し構え。

 攻撃の「意志」を念じ。

 その意識そのものをトリガーとして。発射機にセットされるスタンダード・ミサイルを、点火の轟音を立てて撃ち放った。


 撃ち放たれたスタンダード・ミサイルは。噴煙の軌跡を描いて瞬く間に上空へ、要塞型ハームに目掛けて飛び上がって行き。

 そして要塞型ハームのどてっ腹に、容易く直撃。

 爆炎の大花火を見せ、要塞型ハームのその巨体を大きく削ぎ損傷させて見せた。


「――ッ!チッ、用心棒か」


 ミサイルの直撃からの損傷に。悲鳴なのか、低い唸り越えのような音声を響かせ寄越す要塞型ハームは。

 しかし次には損壊のそれとは別には、何か小さな破片のようなものをばら撒き落とす様子を見せる。

 否。それは破片では無く、小型の飛行ハーム。

 要塞型などの大型ハームが抱える「子機」。護衛などを担う、「艦載機」の類とみられるそれであった。


 その出現した複数体の小型飛行ハームは、すぐさま機敏な動きで進路を揃え。

 そして次には、[はたかぜ]に向けて殺到した。


「邪魔立てをしてくれるなッ!」


 そんな小型飛行ハームの襲来に、しかし[はたかぜ]は臆しなどしない。

 次にまた[はたかぜ]は攻撃の意志を念じ。それに応じ動いたのは、携えるフレーム装備のスポンソンに搭載される、高性能20mm機関砲 CIWS。

 CIWSは仰角を取って、その砲口をハーム向け――そして、けたたましい唸りを上げた。


 上空に、雨あられの如きで撃ち上げばらまかれた火線は。

 殺到して来た小型飛行ハームの群れに、しかしそれを押し流す勢いで浴びせられ。

 小型飛行ハームの群れは、悉くボロ切れの様となって叩き落とされた。


「時間を与えると思うなッ!」


 要塞型ハームは、小型飛行ハームを放ちこちらを妨害し。損傷を負ったその身を立て直す、時間を稼ぐ企みだったのだろう。

 しかし放たれた小型飛行ハームは、片手間の如きで退けられそれは叶わなかった


 [はたかぜ]はその要塞型ハームの企みを挫き、告げる声を張り上げながら。

 次には航路を、進路を変え。飛ぶように海面を滑り、間もなく要塞型ハームの直下まで接近。


 ハームの生態構造は、いや生物なのかどうかも現在でも不明だなのが。共通して観測されているのは、その動力源たる「コア」の存在。

 先のスタンダードの一撃で、要塞型ハームはその胴体の外部表面を大きく削ぎ失っており。そこにはコアが露出し出現。


 そして今。要塞型ハームの直下、懐に潜り込んだ[はたかぜ]の眼前に晒していた。


「悪いな――」


 重要かつ、脆弱なコアをさらし。まるで焦り呻くような様子に音声を寄越す要塞型ハームに向けて。

 しかし[はたかぜ]は、端的にそんな言葉だけを紡いで投げ。


 次には、速射砲。主砲たる、73式54口径5インチ単装速射砲をコアに突き出し向けて。

 攻撃の意志を念じ――咆哮を轟かせた。


 撃ち上げられた砲弾は、瞬間直後には吸い込まれるようにコアへと飛び込み――直撃。

 炸裂が巻き起こり。次には連鎖反応を起こすように、コアが大きく爆散。


 間もなく要塞型ハームの巨体全体が崩壊を招き。

 しかし、ここまでで観測されていたケースと違わぬように。その最中で大小問わず破片は霧散していき。


 程なくして、要塞型ハームの姿形は跡形もなく消え去り。

 荒れていた海面は収まりを見せ、禍々しく巨大な影に覆われていた上空には快晴が戻った。




「――ふぅぁ」


 脅威が、要塞型ハームの「撃破」が成され。戻った快晴の空を見え上げながら。

 彼女、護衛艦少女の[はたかぜ]は、緊張が解けた影響か。凛と透る声色ながらも、しかしなにか同時に渋い倦怠の見える吐息を零す。


「――やったな!はたかぜ!」


 そこに彼女に、背後の向こうより声が掛かる。

 振り向けば向こうの海上に見えたのは。海面をやはり飛ぶように滑り、近づいて来るまた別の護衛艦少女だ。


 外見年齢は[はたかぜ]とそう変わらぬ、十代後半程度。

 明るい茶髪のショートカットの元に、愛らしくも凛とした顔立ちが映える

 受ける印象は、「快活な幼馴染」みたいなキャラ。


 そして纏うその服装はと言えば。デザインにいくらかの差異こそ見られど。軍服の特徴を織り込んだ女学生制服のようなもの。

 ……なのだがやはり。胸元やら腹やら太腿やら、妙に多い露出が発育の良いその身体を主張している。


 やはりその身を囲い飾るように携えるは。身に接続するフレームからの、少女の身に不釣り合いな速射砲にミサイルなどの武器装備に、構造物に装甲の数々。


 その一点に記されるは、白色の文字での101の数字。そして[むらさめ]という名称。


 ――むらさめ型護衛艦 DD-101 むらさめ。

 彼女は呼び起こされた、その[むらさめ]の力を携える護衛艦少女だ。


「――ぷぁっ、やりましたね!」


 そこへ、さらに立て続けに。

 今度は水中、海面から別の少女が飛沫を上げて姿を現した。

 

 健康的に日焼けした、黒髪ショートカットに気の強そうな顔立ちが映える少女。

 その容姿は「水泳部のエース」といったキャラを思わせる。


 そしてその彼女にあっては。

 そのキャラに合わせたように、その発育の良い身体に纏うは、黒寄りの色調の競泳水着。

 艶やかに主張するその身体に。やはり接続されたフレームから、魚雷発射管や操舵翼、装甲の類が取り巻き付随している。


 おやしお型潜水艦 SS-590 おやしお。

 彼女はその[おやしお]の力を携える、「潜水艦少女」であった。


 それぞれ現れ、二人が掛けてきたのは。[はたかぜ]の今の要塞型ハームの撃破を称える旨。


「みんなのサポートの甲斐あってだよ、[むらさめ]、[おやしお]」


 その二人の言葉に、しかし、[はたかぜ]は奢らず、二人を称え労う言葉をまた返す。

 二人は此度の、要塞型ハーム撃破のための「任務」を共にしていた仲間。ここまでにあってはそれぞれ別働し、要塞型ハームに付随していた中小型の別ハーム個体を引き剥がしてくれていたのだ。


「謙遜するな。可憐な「乙女」の一撃、見事だったぞ!」

「かっこ可愛かったっすよっ!」


 そんな[むらさめ]に[おやしお]は、だが此度の一番の功績者である[はたかぜ]を囲い。

 そして称えつつも揶揄い茶化すような、そんな言葉を今度はまた掛けて来た。


「はぁ……二人は良く、恥ずかし気もなくそういう事を言えるな……」


 しかしその掛けられた言葉にあっては、[はたかぜ]は少し、いや大分気恥ずかしそうに。

 微かに頬を赤らめ、面映ゆそうにそう零す。


「ははっ、まだまだ恥ずかしさが先に来るか。「日本男児」のお手本メンタルな[はたかぜ]チャンは」

「可憐な見た目と、質実剛健メンズな中身とのギャップがフェチを擽るんすね~っ。司令が惚れ込むのも分かります」


 そんな[はたかぜ]のいじらしい反応に。

 [むらさめ]に[おやしお]は。何かニヤニヤとした怪しい笑みで、揶揄い愉しむような色に言葉をまた向けてくる。


「まったく……この姿を拒絶してるワケじゃないが、心まで染まり切る必要も無いと思ってるんでね」


 そんな意地悪い様子を寄越してくる二人を、しかしもう[はたかぜ]はあまり真面目に相手はせず。

 そんな自身のスタンスを告げ、面映ゆいやり取りをお開きとする。


「ほら、帰投するぞ――」


 そして二人に告げ。

 役目、任務を完了した[はたかぜ]らは。帰還の途に就いた。




 ――人類の敵、「ハーム」に抗いうる「力」を携えるに伴い。人類は同時に、「大きな変貌」の特性を得る事となった。

 それは兵器、武器の「力」を呼び起こすことができる「事象」そのものから。巨大兵器を、人個人が装備武器として携えることを可能とする「技術」まで。多岐に至るが。

 その内でも、最も人々を驚かせた特性があった。


 それは、人の「身体」そのものを変貌させるもの。

 それは「性」の垣根を越える、驚きの体現――


 強く可憐な護衛艦彼女たちの、その正体は――「彼ら」。

 見つけ、呼び起こされた奇跡の力が伴ったのは、携えた者の「性」を変化させる特性。


 護衛艦少女たちは、性転換によりその姿を変貌させた、「男性」海上自衛官なのであった――

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