異世界転生×ユニークスキル 【ワールド・アーカイブ】で無双する!?

月神世一

EP 1

焼き鳥と理不尽な死、そして産声

人生とは、かくも呆気ないものらしい。

「相馬三尉、昇進おめでとうございます!」

「よせやい、まだ慣れないんだから『少尉』って呼ぶな」

居酒屋の安っぽい座敷に、仲間たちの快活な声が響く。

俺、相馬 譲(そうま ゆずる)、25歳。この度、陸上自衛隊三等陸尉の階級章を拝命した。防衛大学校を卒業後、人より少しだけ真面目に、そして必死に訓練に明け暮れた結果だ。

同期が俺の肩を叩く。

「エリート街道まっしぐらだな、ソウマ。次は中尉か?」

「気が早い。それより、今度の休みは川釣りにでも行かないか? 俺が釣った魚で鍋を作ってやる。日曜大工で燻製器も作ったんだ、期待していいぞ」

「お前は本当に多趣味だなあ」

国を守る覚悟も、厳しい訓練も、築き上げた信頼も、この瞬間だけは心地よいアルコールに溶けていく。俺は差し出された焼き鳥の盛り合わせから、一番美味そうな「ねぎま」に手を伸ばした。香ばしいタレの匂いが鼻をくすぐる。

それが、間違いだった。

宴の翌日から、俺の体は悲鳴を上げた。

猛烈な腹痛、吐き気、そして高熱。診断結果は、カンピロバクターによる食中毒。そして運の悪いことに、俺は稀な合併症を引き起こした。

白い天井、無機質な電子音。意識が朦朧とする中で、俺は思った。

戦場で死ぬ覚悟はできていた。国民の盾となり、名誉の負傷を負うことも想像していた。だが、まさか。

(俺の人生は……たった一本の、半生の焼き鳥に負けるのか……?)

必死に勉強して、厳しい訓練を乗り越えて、ようやく掴んだ少尉という地位も、仲間と交わした未来の約束も、あまりにも理不尽に、そしてあっけなく奪われていく。

ああ、なんだ。人生なんて、こんなものか。

権力も、出世も、死んでしまえば何の意味もない。

どうせなら、もっと……もっとのんびり、穏やかに、生きてみたかった。

ゆっくりと、俺の意識は深い闇に沈んでいった。

――どれほどの時間が経っただろうか。

感覚のない暗闇の中で、ふと、音が聞こえた。

温かくて、優しい響きを持つ、女性の声。

次に、光を感じた。ぼやけた視界に、柔らかな光が差し込んでくる。

そして、温もり。何か大きな、温かいものに包まれている感覚。

(ここは……天国、か? いや、だとしたら少し騒がしいな……)

意識を集中させると、視界が徐々にはっきりとしてくる。

そこに映ったのは――巨大な人間の顔だった。

「まあ、可愛い。あなた、本当に私たちの赤ちゃんなのね、アレン」

栗色の髪を持つ、美しい女性が俺を覗き込んでいる。その瞳は、慈愛に満ちていた。

状況が理解できない。

俺は何かを伝えようと口を開いた。

「あー、うー」

赤ん坊のような声しか出なかった。

自分の手を見ようとするが、それも上手くいかない。視界の端に映ったのは、まるでクリームパンのような、小さくて丸々とした手。

(待て、待て待て待て! 冷静になれ、相馬 譲! まずは状況分析だ!)

一、俺は死んだはずだ。

二、目の前には巨大な女性。

三、俺の身体は思うように動かず、赤ん坊のような声しか出ない。

導き出される結論は、一つ。

(……これが俗に言う、『赤ちゃん転生』ってやつかぁぁぁぁっ!)

内面の絶叫とは裏腹に、俺の口から漏れたのは「おぎゃあ」という情けない産声だけだった。

女性――俺の新しい母親らしい――は、そんな俺を優しく抱きしめる。

「ふふ、元気な子ね。私の可愛いアレン…」

アレン。それが俺の新しい名前らしい。

前世の記憶を持つ赤ん坊、アレンとしての新しい人生が、今、最悪の自覚と共に幕を開けた。

俺はこれからどうすればいいのか。途方に暮れる俺の耳に、優しく、しかし力強い男の声が響いた。

「アンナ、ありがとう。俺たちの宝物だ」

どうやら父親もいるらしい。

これから始まるであろう新しい生活に、俺はひとまず、思考を放棄することにした。

なにせ、なんだかとても眠いのだから。

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