異世界転生×ユニークスキル 【ワールド・アーカイブ】で無双する!?
月神世一
EP 1
焼き鳥と理不尽な死、そして産声
人生とは、かくも呆気ないものらしい。
「相馬三尉、昇進おめでとうございます!」
「よせやい、まだ慣れないんだから『少尉』って呼ぶな」
居酒屋の安っぽい座敷に、仲間たちの快活な声が響く。
俺、相馬 譲(そうま ゆずる)、25歳。この度、陸上自衛隊三等陸尉の階級章を拝命した。防衛大学校を卒業後、人より少しだけ真面目に、そして必死に訓練に明け暮れた結果だ。
同期が俺の肩を叩く。
「エリート街道まっしぐらだな、ソウマ。次は中尉か?」
「気が早い。それより、今度の休みは川釣りにでも行かないか? 俺が釣った魚で鍋を作ってやる。日曜大工で燻製器も作ったんだ、期待していいぞ」
「お前は本当に多趣味だなあ」
国を守る覚悟も、厳しい訓練も、築き上げた信頼も、この瞬間だけは心地よいアルコールに溶けていく。俺は差し出された焼き鳥の盛り合わせから、一番美味そうな「ねぎま」に手を伸ばした。香ばしいタレの匂いが鼻をくすぐる。
それが、間違いだった。
宴の翌日から、俺の体は悲鳴を上げた。
猛烈な腹痛、吐き気、そして高熱。診断結果は、カンピロバクターによる食中毒。そして運の悪いことに、俺は稀な合併症を引き起こした。
白い天井、無機質な電子音。意識が朦朧とする中で、俺は思った。
戦場で死ぬ覚悟はできていた。国民の盾となり、名誉の負傷を負うことも想像していた。だが、まさか。
(俺の人生は……たった一本の、半生の焼き鳥に負けるのか……?)
必死に勉強して、厳しい訓練を乗り越えて、ようやく掴んだ少尉という地位も、仲間と交わした未来の約束も、あまりにも理不尽に、そしてあっけなく奪われていく。
ああ、なんだ。人生なんて、こんなものか。
権力も、出世も、死んでしまえば何の意味もない。
どうせなら、もっと……もっとのんびり、穏やかに、生きてみたかった。
ゆっくりと、俺の意識は深い闇に沈んでいった。
◇
――どれほどの時間が経っただろうか。
感覚のない暗闇の中で、ふと、音が聞こえた。
温かくて、優しい響きを持つ、女性の声。
次に、光を感じた。ぼやけた視界に、柔らかな光が差し込んでくる。
そして、温もり。何か大きな、温かいものに包まれている感覚。
(ここは……天国、か? いや、だとしたら少し騒がしいな……)
意識を集中させると、視界が徐々にはっきりとしてくる。
そこに映ったのは――巨大な人間の顔だった。
「まあ、可愛い。あなた、本当に私たちの赤ちゃんなのね、アレン」
栗色の髪を持つ、美しい女性が俺を覗き込んでいる。その瞳は、慈愛に満ちていた。
状況が理解できない。
俺は何かを伝えようと口を開いた。
「あー、うー」
赤ん坊のような声しか出なかった。
自分の手を見ようとするが、それも上手くいかない。視界の端に映ったのは、まるでクリームパンのような、小さくて丸々とした手。
(待て、待て待て待て! 冷静になれ、相馬 譲! まずは状況分析だ!)
一、俺は死んだはずだ。
二、目の前には巨大な女性。
三、俺の身体は思うように動かず、赤ん坊のような声しか出ない。
導き出される結論は、一つ。
(……これが俗に言う、『赤ちゃん転生』ってやつかぁぁぁぁっ!)
内面の絶叫とは裏腹に、俺の口から漏れたのは「おぎゃあ」という情けない産声だけだった。
女性――俺の新しい母親らしい――は、そんな俺を優しく抱きしめる。
「ふふ、元気な子ね。私の可愛いアレン…」
アレン。それが俺の新しい名前らしい。
前世の記憶を持つ赤ん坊、アレンとしての新しい人生が、今、最悪の自覚と共に幕を開けた。
俺はこれからどうすればいいのか。途方に暮れる俺の耳に、優しく、しかし力強い男の声が響いた。
「アンナ、ありがとう。俺たちの宝物だ」
どうやら父親もいるらしい。
これから始まるであろう新しい生活に、俺はひとまず、思考を放棄することにした。
なにせ、なんだかとても眠いのだから。
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