異世界転生して帰ってきたので記録を記す

@sabuya

第1話 異世界からの帰還報告

 数々の星を見聞きした光景をつらねるSF作品は数多あると聞くけれども、この星、あるいはそれを地球と呼ぶのか、私は紀元2025年においては惑星02と呼んでいるけれども、この星ほどよい星はないのである。


 いい/悪い関数を合わせないと話が合わないのは当たり前だが、別の星の人というのもまた存在する。この星に住む人にとって、この星がいいのは、『良い』の定義にしてもいいくらいのことだと思う。


 これを記すことにより、自分の生々しい体験というか経験というか、を失ってしまうのが怖いというのが今の正直な告白だが、それでも書くと、三度ほど死んだ経験に近い状態で最後に望んだのは、2018年ころからでいい、星に帰らせてくれという願いだった。


 そう、よく聞くことがある質問に、「死んだら人はどうなるの?」というものがある。私の三度程の経験上、どれも同じで、ごろんと横になった状態で、朝になっており、Game Over とでも言わんかぎりのしずけさで、近くにぽつりぽつりと人が歩いている。その時に、明らかにこの世のものではないといった声色の方とお話しでき、願いをお伝えする時間があるのである。そして、それだけである。足があるのだから、そのまま立って歩いて、とにかく考えながら歩くだけであって、何も、状況が変なこと以外は、元の地球と変わらないと言えば変わらないのかもしれない。

こんなときにトークの芸の一つでも、試される立ち位置にいたならば、なぜか割とスルスルと、移動できるのかもしれない。


 神様はきっと、楽しい話と美味しいものが好きである。



 — 思い出す。すこし湿った芝の上でいつまでも寝転びながら、今日目覚めた状況を。スタート地点は、そうサギヌマという、なんだかよく分からない駅から、ここでいいんだと言い聞かせるようにして地上に出、念のためタクシーの列がなくなるのを見送ってから、都心に来て、なぜかこの場所を守ろうと思った。それで昨日、ここで寝たのだった。このあたりで芝のある公園は、見渡す限りというかどんなに望んでも、ここだけだった。


 これが、自分が言う所のサギヌマENDの終わりである。しかし、今目の前にある状況を見て、そして奇蹟的に見ることができて、明らかなように、人がぽつりぽつりと歩いているのだ。そして段々と気付き始める。今、朝つゆに濡れた芝の上というロケーション的には最高のスタートとなる一日を始めることができたことに。


 だが、死ぬのは今回で確か三度目だ。死んでないということは奇蹟なのだが、このとき「お前は魔術師に殺されたぞ」と、この世のものとは思えない声の方から教えられた気もする。「で、どうする?」「2018年頃まで戻っても、あの場所、自分が住んでいた池袋の周りとよく行っていた秋葉原の周りだけでもいい、帰りたい。」「わかった。難しいけどね。」そう、告げられた気がする。


 ゆっくり起き上がると、歩けることを確認した。心臓に手をやっては、いけない気がした。そのまま歩いて大通りに出ると、茅場町の十字路だった。一角に目がいく。なぜかデカイ廃墟のビルだったからだ。もしかしたらこのビル持てるようになるのか?などとRPG的なことを考えたりしながら、通りに沿って歩く。どうやら、昔働いていたところに飛ばされるらしい。タクシーで帰ったことがある、帰り道の方ではなく、反対側に沿って歩く。なんかおしゃれなカフェが見えてきた。フリーランスのエンジニアとして面談したカフェだ。ここは無事。そう、お世話になった場所は、意外とそのまま残っていたりする。おしゃれすぎるのでスルー。あとで行く。なんか吉野家が見えてきた。うまそうな燈色の看板。パチもんなどではない。本物だ。この世で吉野家に出会えるとは。ひらひらマントの看板メニューを見ると、ねばり3食丼がおすすめらしい。


 こんな回想をしながら、そう、自分にとってのセーブポイントは、ミスドではなくて、吉野家かもしれない、そう思った。

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