とある編集部

「……これ、どう思いますか?」

「内部告発? F社の黒い噂の」

「いや……むしろ遺書?」


 とある出版社では、売れっ子作家の波風ことはが行方をくらませ、右往左往していた。

 波風ことはが新刊を出したとき、なんとしても波風ことはの居場所を掴もうと、担当編集を探し回ったが、なぜか担当編集が捕まらない。

 そこに唐突に送られてきたのが、日記帳にたくさんの印刷された紙。紙に印刷されていたのは、匿名チャットのログで、そこでは信じられないようなF社の黒い噂やネット上で消されたデータを保管するサービス画像ばかりだった。


「これ、どうしますか?」

「……裏付けを取ろう。週刊誌の記者に連絡して。このマンションに遺体があるかどうか。そして波風ことはは……」

「日記の内容が編集を刺したところで終わってるんですよね。普通に考えたら逃げ出したんでは」

「この内容はノンフィクション作家に連絡して全部渡して。これ出版するから」

「マジですか?」

「マジですよ。これをそのまんま腐らせてなるものか」


 まともな人間はそもそも出版界で働かない。

 波風ことはが嘆いたように、ここにはまともな人間なんてひとりも存在しないのだから。


<了>

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虚ろの告白 石田空 @soraisida

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