虚ろの告白

石田空

7月8日

これは私の回想で書いていますので、断片的におかしいところがあります。

思い出しながら書いてはいますが、記憶喪失だと証言されてから書いていますから、矛盾しているかもしれませんね。

私が気付けばこの部屋にいたのは7月8日でした。

部屋にあるパソコンにそう表示されていたので、パソコンが間違ってない限りはそうなのだと思います。

部屋は真っ白であり、ベッドもシーツもカーテンすらも真っ白でした。こんな殺風景なところでどうして眠っているのかが、私にはわかりませんでした。


「ようやく目が覚めたんだね……!」


私がベッドから身を起こした途端に涙ぐんでいたのは、精悍な顔つきの男性でした。

髪は清潔感漂うストレートのショートで、白いシャツにカーゴパンツと、シンプルな服装をしていても野暮ったく見えない人です。


「ここはどこですか、あなたは誰ですか」

「……記憶を失ってしまったんだね、可哀想に」

「あのう?」

「落ち着いて聞いてほしい。君は一週間起きなかったんだよ。でももう大丈夫。君は起きたのだからね。ちなみに僕は咲人。君の恋人さ」

「恋人……」


この部屋は殺風景で、花ひとつ生けられていません。これは単純に私が目が覚めないから、花を生けても無駄だと思ったのか、はたまた動転し過ぎて花を買う余裕がなかったのかがわかりません。

私は「そうなんですか」と言うと、「でも困ったね」と彼は返すのです。


「君は実は小説家であり、僕は君の編集だったんだ。まさか君が記憶喪失だなんて、言える訳にもいかないし、どうしようか」

「……私が小説家だったんですか?」


小説家と言われても、いまいちピンと来ませんでした。

咲人さんが続けます。


「そうだよ、君は有名なベストセラー作家だったんだ。君の作品を待ち望んでいる人も大勢いる。君の才能が記憶喪失なんて形で失われてしまうのは実に惜しいんだ。そこでどうだろうか?」

「どう、とは?」

「君が記憶喪失になったことを、日記として綴ってはくれないだろうか? もしかすると、そこから君の記憶が取り戻せるかもしれないし、君の腕も戻るかもしれない」


そう言われてもと思いましたし、物は試しでした。

でも不思議なことに、私が文字を書き連ねると勝手に文章になっていくのです。それが私の本来の才能だったと言われると納得できます。

でも私の日記なんかを読んで誰が面白がるんでしょうか。それにベストセラー作家だったと言われてもなにを書いていたのかを知りません。

私は私を取り戻すべきなのかも、今はわからないのです。

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