「俺、転生したら魔術マニアだった件」

カイ・センパイ

残酷な世界

王宮の広い中庭には、緊張が張り詰めていた。

普段は暖かいはずの太陽も、この時ばかりは残酷に感じられ、粗末な木の柱に縛り付けられた若者の体を容赦なく照らしていた。


アキラの体は震えていた。あまりにもきつく縛られた縄が皮膚を擦り、痛みを走らせる。呼吸は荒く、冷たい汗がこめかみを伝う。手を動かそうとしたが、無駄だった。


重い足音が近づく。――王だ。かつて敬愛していたその人物が、威厳をもって歩み寄ってくる。壮麗なマントが翻るが、その威容の裏にある瞳は、鋭い憎悪だけを宿していた。


「アキラ……」

王の声は平坦で冷たく、まるで心を持たないかのようだった。


若者はゆっくりと顔を上げた。疲れ切った目が真っ直ぐに向けられる。そこには隠しきれない傷と空虚さが映っていた。

「陛下……あなたは一体、私に何をなさるおつもりですか?」

声はかすれ、壊れたように震えていた。


王の口元に薄い笑みが浮かぶ。それは温かさではなく、嘲笑の笑みだった。

「私が望むのはただ一つ……お前の死だ。」

その声は鋭く響き、胸を突き刺す刃のようだった。


「魔力を持たぬ者など、この国に生きる資格はない! お前はこの偉大なる名を汚す汚点に過ぎぬ。」


その言葉が響き渡り、見守る兵士や侍女たちは恐怖に顔を伏せた。誰一人として声を上げようとはしなかった。


王の視線はさらに鋭くなる。

「アキラ、お前はただの重荷だ。生まれてくるべきではなかったのだ。」


アキラの顔は一瞬にして青ざめた。その言葉は雷鳴のように心を引き裂いた。唇が震え、返事もままならない。

「重荷……?」彼はかすかにささやいた。


涙が目ににじむが、必死にこらえた。肩は震え、心は悲鳴をあげる。

――私は、生まれたいと願ったわけじゃない……。彼は苦々しく思う。ただ、生きたかっただけなのに……。


だが、世界は沈黙したまま。答えは静寂だけだった。


王は背を向け、マントを揺らす。右手を高く掲げた。それは絶対の命令だった。

「すぐに殺せ! これ以上、無用な者を私の前に置くな!」


兵士たちは一斉に姿勢を正し、剣が太陽に反射してきらめいた。


アキラは平然と歩き去る王の背中を睨みつけた。心は炎のように燃え上がる。

「くそっ……!!」声が裂けるように響いた。「もし俺に魔力があれば……必ずお前を殺してやる!! 畜生ッ!!」


その叫びがこだまし、侍女たちは恐怖で身を震わせた。だが王はほんの一瞬足を止めただけで、軽蔑に満ちた視線を横に投げた。

「夢を見るな、アキラ。たとえ生まれ変わったとしても、お前に魔力など決して宿らぬ。神々は最初からお前を憎んでおられるのだ。」


その言葉はどんな剣よりも深く胸を抉った。アキラは凍りつき、胸は虚無で満たされた。

「神が……俺を憎んでいる……?」心でつぶやく。本当に……最初から神にすら見捨てられていたのか?


兵士たちの足音が迫る。二人が進み出て、剣を抜いた。金属が風を裂く音が、死の到来を告げていた。


そのうちの一人が一瞬こちらを見て、顔に迷いを浮かべる。唇が震え、かすかにささやいた。

「……恨まないでくれ、アキラ。」


アキラは振り向く。その声を聞いた瞬間、目を見開いた。

「……ジャック……?」


ジャック。かつて兄弟のように思っていた親友。その彼が、今は処刑人として立っている。


アキラの心は、縛られた肉体よりも深く打ち砕かれた。虚ろな瞳は苦渋に変わる。

――お前まで……ジャック……?


ジャックは短く目を閉じ、手に力を込めた。

「すまない……」と彼はささやいた。


剣閃が走る。


一瞬にして、すべてが終わった。


アキラの世界は暗転し、代わりにまばゆい白光が広がった。暖かく、しかし見知らぬ光。怒りも傷も絶望も、すべてを飲み込む光だった。


――俺の人生は……ここで終わるのか。心の中で彼はつぶやいた。


だが、その光の中から現れたのは、輝く人影だった。顔はなく、ただ威厳と畏怖を放つ光のシルエット。


「ここは……どこだ!?」アキラは叫び、光に抗うように目を見開いた。


答えはなかった。ただ、目の前に光の扉がゆっくりと開いていく。脈打つように輝き、彼を誘うようだった。


心は揺れたが、運命の力が背を押すかのようだった。

「これは……新たな始まりなのか?」彼はつぶやいた。


彼は一歩を踏み出し、光に触れた。その温もりが体中に広がり、心を和らげる。アキラは目を閉じ、扉をくぐった。


――突然、赤子の泣き声が響いた。


アキラは目を開く。そこに広がるのは別の光景だった。金色の装飾が施された豪華な天井、柔らかな白いカーテン、そして誰かの温かい抱擁。


「……俺は……赤ん坊に……?」彼は衝撃に打たれた。


堂々とした風格を持つ男が豪奢な王衣を纏い、朝日のように優しい笑みを浮かべながら近づいた。彼は赤子を抱き上げる。

「カイル……」男は愛おしそうに言った。


その赤子――新たな魂を宿したアキラは、ただ呆然と見つめるしかなかった。

――新しい……父親……?


間もなく、黄金と白のドレスを纏った気品ある女性が現れる。声は甘やかでありながら、嫉妬を含んでいた。

「まあ、あなたばかり抱いてずるいわ。私だって抱きたいのに。」


男はくすくす笑った。

「エレノラ……また嫉妬しているのか?」


その女性、王妃エレノラ・ニジマは小さく頬を膨らませ、赤子を抱き取った。王アルデン・ニジマは微笑ましげにそれを見て小さく笑った。


「この子は……いつか偉大な王子となるだろう。」アルデンは希望に満ちた瞳で語った。


赤子の小さな泣き声が響き、部屋を温かさで包む。


その瞬間、アキラは悟った。

かつての名は前世の肉体と共に死んだのだ。


今の彼は――カイル・ニジマ。異世界ジィルーにおける王国の第三王子。


だが心の奥底には、燃えるような決意が宿っていた。

「今度こそ……力を持って生きる。俺がずっと夢見た魔法と共に。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る