へりくつ18 鶴の謎

 秋も深まり、少し肌寒くなってきた休日の午後。僕はリビングの暖かいカーペットの上で、日本の昔話が載っている本を読んでいた。綺麗な挿絵さしえがたくさんあって、見ているだけでも楽しい。特に、優雅に羽を広げる鶴の絵は、なんだか神様みたいで、僕のお気に入りだ。


 僕は、その真っ白な体と、てっぺんだけが赤く染まった頭をじっと見つめた。どうしてここだけ、帽子をかぶったみたいに赤くなっているんだろう。


 僕は本を抱えたまま、ソファでくつろいでいる父さんのところに持って行った。


「ねえ、お父さん。鶴ってどうして頭のてっぺんだけが赤いの?」


 僕が絵を指さしながら尋ねると、父さんはちらりとそれを見て、さも当たり前だという顔で言った。


「ああ、それはな。夜、暗闇の中でも仲間とはぐれずに、ちゃんとまっすぐ飛べるようにするためさ」

「頭が赤いと、なんで暗闇で飛べるの?」


 僕が不思議そうに聞くと、父さんは僕の耳元に顔を寄せて、こっそりと教えてくれた。


「簡単なことだよ。サンタクロースを乗せたトナカイの、あの真っ赤なお鼻と一緒の原理さ。鶴の頭もな、暗くなるとピカーッと光るんだ」


 そうだったのか! 鶴の頭は、夜空を照らすライトだったんだ! 僕はすっかり感心してしまった。どんな図鑑にも載っていない、特別な秘密。


 僕が目を輝かせていると、父さんは急に何かを思いついたように、にやりと笑った。そして、近くのテーブルから、赤色のマジックペンを手に取った。


 カチッ、とペンのキャップを開ける音が、やけに大きく部屋に響く。


「どうだ、空。お前の鼻の頭も、このペンで赤くしてやろうか?」

「え?」

「そうすれば、夜中にトイレに起きたときも、電気をつけずに廊下を歩けるから便利だぞ。ほら、やってやるから、じっとしてろ」


 父さんが、赤いペン先を僕の顔にゆっくりと近づけてくる。僕は自分の鼻が、トナカイみたいに真っ赤に光るのを想像して、ぶるっと体を震わせた。


「ぜ、絶対に嫌だーっ!」


 僕は叫ぶと、大急ぎで自分の部屋に逃げ込んだ。後ろから聞こえてくる父さんの楽しそうな笑い声は、僕が大切にしていた鶴の神聖なイメージを、少しだけ台無しにするのだった。

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