へりくつ7 給食の謎
ほかほかと湯気が立つ、甘辛い匂い。今日の給食は、僕の大好きな肉じゃがだ。ホクホクのじゃがいもを頬張りながら、僕は向かいの席の直樹くんと、昨日見たテレビの話で盛り上がっていた。教室はみんなの「おいしい」という気持ちで、ぽかぽかと暖かい。
ふと、窓の外に広がる住宅街を眺めながら、僕はあることを思った。僕がこうして学校で温かい給食を食べている間、お父さんは家で何をしているんだろう? いつも家にいるみたいだけど、お昼ごはんは一人で食べているのかな。
その素朴な疑問は、家に帰るまで僕の頭の中をぐるぐると回っていた。
「ただいまー!」
勢いよく玄関のドアを開けると、リビングから「おかえり」という父さんの気の抜けた声が聞こえてくる。父さんは、ソファの上で雑誌を読みながら寝転がっていた。僕はランドセルを床に放り出すと、さっそく今日の疑問をぶつけてみた。
「ねえ、お父さん。お父さんは、お昼ごはんいつも何を食べてるの?」
父さんは読んでいた雑誌から顔を上げると、僕を見てにやりと笑った。ああ、またあの顔だ。でも、もう僕は疑ったりしない。お父さんは、僕の知らないことを何でも知っているんだから。
「ん? お父さんか? お父さんは、空と同じものを食べてるぞ」
「え?」
同じもの? どういうことだろう。
「空と同じ、給食だよ」
「給食!? でも、ここはお父さんの家だよ?」
僕が目を丸くして聞き返すと、父さんは当然だという顔で続けた。
「ああ。学校の給食室の人がな、お父さんの分だけ特別に、ここまでバイクで届けてくれるんだよ」
やっぱり! 父さんの話はいつも僕の想像を超えてくる。でも、前の『おおみそ』の花のこともある。ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ、確かめてみたい気持ちが湧いてきた。
「……じゃあさ、今日の給食、何だったか言える?」
我ながら、ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。でも、父さんは少しも動じなかった。天井をちらっと見上げて、何かを思い出すように少し考えると、こともなげにこう言った。
「もちろん。今日は肉じゃがだったろ? じゃがいもに
その瞬間、僕の心にあった最後の小さな疑いの雲は、さっと消え去った。
「そう! 肉じゃが! 僕と同じだ! おいしかったよね!」
やっぱりお父さんは、僕と同じ時間を生きているんだ。遠く離れた場所にいても、同じごはんを食べて、同じ「おいしい」を感じている。そのことが、なんだか無性に嬉しかった。僕は父さんの隣に駆け寄ると、今日の給食がいかに美味しかったか、夢中で話し始めた。
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