へりくつ2 石垣の謎

 秋晴れの空の下、僕と父さんは、そびえ立つお城の前にいた。見上げるほどに巨大な石垣は、まるで巨人が積み上げたブロックの壁のようだ。僕はその一つ一つの石の大きさに圧倒されて、思わず口をぽかんと開けてしまった。


「すごいね、お父さん」


 僕が感嘆の声を漏らすと、隣で父さんが「おう」と短く返事をした。その横顔は、いつもより少しだけ賢そうに見える。


「ねえ、これってどうやって作ったの? こんなに大きな石、どうやって運んで、どうやって積んだんだろう?」


 純粋な疑問だった。学校の先生も、クレーンなんてない時代によく作ったものだと褒めていたけれど、具体的な方法は誰も教えてくれなかった。父さんは僕の問いに、待ってましたとばかりににやりと笑う。


「いいところに気がついたな、空。実はな、これは人間が作ったんじゃないんだよ」

「え? じゃあ誰が?」


 父さんは僕の肩をぐっと抱き寄せ、声をひそめた。


「これはな、もともとこういう形をした巨大な一つの岩だったんだ。人間は、この形に石の線を彫って、それっぽく見せているだけなのさ」

「ええ!? 一つの岩!?」


 あまりに突拍子もない父さんの説明に、僕は目を丸くした。でも、父さんは大真面目な顔で続ける。


「そうだ。その証拠に、石と石の間にほとんど隙間がないだろ? 別々の石を積んだなら、こうはいかない。全部つながってるから、こんなにぴったりなんだ」


 なるほど、と僕は思った。確かに、カミソリの刃一枚通さないほどに、石同士は密着している。父さんの言う通りなら、すべての謎が解ける。すごい、お父さんは何でも知っているんだ!


 僕がすっかり感心していると、父さんは満足げに頷き、いたずらっぽく僕の頬をつねった。


「ちなみにだぞ、空」

「なあに?」

「お前だって、もとはただの細胞が積み上がっただけの大きな肉の塊だったんだ。そこからお父さんが、今の空の形に、丁寧に削り出してやったんだぞ」


 その言葉に、僕は思わず吹き出してしまった。


「それは流石に嘘でしょ?」


 いくら僕でも、そんな話は信じない。けれど、父さんは僕の目を見つめて、にやりと笑いながらこう言った。


「どうかな?」


 その一言は、僕の心の中に小さな、でも消えない石ころを投げ込んだ。もしかしたら、僕の知らないところで、父さんは彫刻家みたいに僕を…? 石垣の謎は、僕自身の謎へと姿を変えて、頭の中をぐるぐると回り始めたのだった。

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