第37話 冬休み編 買い物
地獄の定期試験が終わり、やっと冬休みがやってきた。
まあ、冬休みだからって何かあるわけではないけれど…
「冬休み……何しよう」
昔はライブがあって、よくツアーとかに連れ出されていたから、忙しい感じだったのだが…
「何にもないなー予定がー……はぁ…」
何も埋まっていないカレンダーを見て、少しため息を吐いた。
コンコンコン……
俺の部屋を叩く音がした。
「どうぞー」
扉が開いて、入ってきたのは…
「瑠奈?」
瑠奈だった。
「どうかしたか?」
「………」
「瑠奈?」
「手伝って……」
「え?」
瑠奈が手を差し出してきたから、手を握って一緒に向かったら…
「これ……スイーツ?」
コクンと頷いた瑠奈。キッチンでクッキーを作ろうとしていたらしい。ただ、上手くできなくて、俺に頼ってきたと言うことらしい。
「作ってみたけれど…上手くできなかった。だから、手伝って」
静かにそう言ってきた。
瑠奈はまだ、心の感情を表に出すことが難しいようで…ちょっと冷たい雰囲気が出ていた。
でも…
(この症状は家族にだけなんだよなー、友達とかには昔のように元気に笑顔で接しているらしいが……)
「了解」
俺も瑠奈と一緒にクッキーを作ることにした。
「ふむふむ、良くこねることが大事……綺麗に伸ばすには、片栗粉、もしくは、小麦粉をまぶす……ふむふむ」
レシピを見ながら、少しずつ進めて行った。
「よし!あとは型抜きだけだな」
「……うん」
円形や四角形、ひし形、ハート形など様々な形のクッキーにするために型取っていった。
「あとは、これらをプレートに乗せて…オーブンで焼くっと」
オーブンに入れて、スイッチを入れた。
「上手くできると良いなー」
「……うん」
俺たちは焼けるまで待ち続けた。
「おおーーー!!」
「………!!」
焼けたクッキーはこんがり茶色になっていて、とても美味しそうだった。
「やったな!」
「……!」
瑠奈の方を見ると、瑠奈が少し笑った。
「ほれ!味見してみ?」
クッキーを差し出すと、瑠奈はパクッとそのクッキーを食べた。
「どうだ?美味しいか?」
「………」
目を瞑って、クッキーの味を噛み締めているようだった。
「……美味しい」
「!!!そっかー!良かったー!」
安心した俺は、焼けたクッキーを口に入れた。
ザクザク……
「うん!美味い!」
「………」
じーっと俺を見ていた瑠奈は少し笑った。
「懐かしいなーこんな感じで昔も一緒にいたなー」
俺は不意に昔のことを思い出した。瑠奈と一緒に頑張っていたこと、一緒に遊んでいたこと…
色んなことを。
「………」
黙って俺を見続けていた瑠奈は少しだけ悲しそうな顔をした。
「また、戻れるかな?俺たち」
「………」
下を向いてしまった瑠奈。まだ、心の傷は癒えていないようだった。
(そりゃ、そうだよな……神城だって、癒てないんだから)
13歳の少年が癒えてないんだ…11歳も難しいはずだ。
「よし!買い物行こうぜー!瑠奈!」
「!!!」
俺は瑠奈を外に連れ出すことにした。
「やっぱり人が多いなー」
「………」
少し遠いところにあるショッピングモールにやって来た俺たちは、冬休みであるため、人がとても多いことにちょっとだけ嫌に思っていた。
「……今日はやめとくか」
こんなに人がいたら、瑠奈が怖がってしまう、そう思った俺は帰ろうとした。けれど…
「…………」
「?瑠奈?」
ずっと入り口で立ち続けている瑠奈に気づいた。じーっとショッピングモールを行き来する人を見ていた。
「瑠奈…」
その姿が昔とは違っていて、少し悲しくなった。昔はショッピングモールに来たら真っ先に店内へ入って行ってしまっていたから。
でも、今は、入るのに気合や勇気を出そうとしている感じだった。
パシッ……
「………!!」
瑠奈が驚いた表情で俺を見て来た。
「こうしてれば、大丈夫だろ?俺がいるしさ?」
「………」
俺は瑠奈の手を握った。瑠奈もそれに応えるように手を握り返してくれた。
「じゃあ……行くか」
コクンと頷いた瑠奈は俺と共に歩き始めた。
久々に来たショッピングモールは色んな店で賑わっていた。
「凄いなー」
「………!!」
瑠奈もショッピングモールの人の数と店数に驚いていた。
「行きたいところあるか?」
マップを見ながら聞くと…
「………」
瑠奈が指を指した。
「ここか?」
コクンと頷いた。
「よし、行こー」
着いた場所は、服屋だった。最近の小学生の服は大人びたような物が多いらしい。
瑠奈は店内をぐるぐると回りながら服を選び始めた。
ちなみに、買い物代は叔母さんからもらっていた。だから、欲しいものは高くなければ買えるのだ。
タッタッタッと走って来た瑠奈の手には色んな服があった。
「これらを買うのか?」
「………」
スッと渡して来た。だから…
「了解」
会計のところへ向かった。
「さて、次どこ行こっか…」
ショッピングモール内を歩きながら聞くと…
瑠奈が何かをずっと見ていた。
「ん?」
俺もそれをみると、可愛いクマのオルゴールだった。
「……可愛いな」
コクンと頷いた瑠奈。昔、瑠奈はよくオルゴールを部屋に飾っていた。可愛いもの、良い音が鳴るもの、大きいものなど、色んな種類があった。
「欲しいのか?これ」
聞くと、瑠奈はこっちを見たあと、首を横に振った。
「じゃあ、どうして…」
「……だ…ら」
「え?」
「……だったから」
「ん?」
本当に小さな声で言うもんだから、耳を近づけてもう一度聞くと…
「思い出だったから…」
「!!!」
俺は驚いた。瑠奈はまっすぐな目で俺を見て来た。
そして、話し始めた。今度は聞こえる声で…
「思い出だったから……お兄ちゃんと母様、父様、兄様、姉様との……」
「………瑠奈」
悲しげな表情でそう言って来た。俺も悲しくなって来た。ずっと、お互いに見ようとしなかった。過去のこと……でも…
「瑠奈は向き合うのか?過去に……」
「………」
俺の問いに瑠奈は黙ってしまった。でも…しっかりした目で…
「向き合いたい」
「………」
いつの間に瑠奈はこんなにしっかりとした人になったんだろう……と俺は思った。6年間ずっと一緒にいた。神城に関しては11年だ。
母さん達が亡くなった後、神城も瑠奈も塞ぎ込んでしまっていた。俺は、2人にどうにか元気を出して欲しかったが、2人とも心を閉ざしたままだった。
だから、必死に笑顔になるように努力を重ねた。心の中にいる神城に声をかけて、部屋に閉じこもっていた瑠奈に話しかけ続けて……
そして…
(瑠奈はここまで成長したんだな……)
「向き合うか……あの日を」
俺は歩いてオルゴールがあった店に入ると、クマのオルゴールを購入した。
「!!!お兄ちゃん!!」
流石に俺の行動に瑠奈は驚いたようだった。
「向き合おう……もう一度進むためにさ」
「……向き合える?私たち」
「向き合える…かは分からない…確信はないからな……でも、向き合わないといけない気がするんだ。……それに、きっと、姉さん達も向き合えてないと思う。」
「………」
「あの2人も忘れ去るために音楽を奏で続けているんだから……」
「……そうだね」
「だから、みんなで向き合おう…やってみなくちゃ分からないから」
コクンと頷いた瑠奈。
買い物に来たはずだったが、俺たちは自分たちを見つめ直すという大きな目標を決めるために来たみたいな感じになってしまった。
「向き合えよ…お前も」
俺は心にいるあいつにも伝えた。
家に帰って買って来たオルゴールを置いた。
「可愛いな」
「……うん」
「あら、帰って来てたの?って何それ」
俺たちに声をかけて来たのは、姉さんだった。
「…オルゴールだよ、昔、よく瑠奈が持ってただろ?」
「あーなるほどね……オルゴールね…」
姉さんは目を細めてそのオルゴールを見て来た。
「姉さんこそ何してたんだよ」
「前に話した歌手の人のところに行ってたの、どうにか曲にして、歌ってもらえるようにね」
「……そうか」
相変わらず忙しそうにしている姉さん。瑠奈はまだ、話すことはできないみたいだった。
姉さんがいなくなってから、クマのオルゴールの音を響かせてみた。
♪〜〜♪♪♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜〜♪♪♪〜〜
綺麗で優しい音色が俺たちの耳に届いた。
「本当に綺麗だね」
「うん」
何度も何度も聞いてしまう。だって、昔に戻ったみたいだったから。
「瑠奈」
「ん?」
「これからも兄ちゃんと話してくれるか?」
「……うん、もちろん」
そう言った時の瑠奈の顔は…
昔のような無邪気な笑顔になっていた。
※あとがき
第37話でしたー
いやー、ちょっと兄妹の楽しそうな幸せそうなお話でしたねー
2人が、いや、3人が笑顔になれる日は来るのか……
次回、冬休み編 クリスマスパーティー
お楽しみにー
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