第4章 クリスマス、冬休み、大晦日

第34話 男同士の話

最近、不安になることがある。それは何かというと……

「おはよう」

「お!おはよう!玲!」

「おはよう…玲」

学校に着いてから新崎と国光に挨拶した。文化祭が終わって、みんな文化祭ほど元気がある感じではなかった。新崎を除いて…

で、教室に入ったんだけれど…すごく嫌な気配がしていた。その気配がする方を見ると…

「……翔」

めっちゃこっちを睨んでいる翔がいた。まあ、不安になることというのは、翔のことだ。あれからずっと俺を睨んでくるようになった。まあ、その理由が分かっているから、俺から何か言うことはない。ないんだけれど……

(ずっとこっちを見てくるのはやめて欲しいんだが……気まずすぎるし…)

さらに言うと……もう1人ときどき見てくる人がいる。

まあ、想像できると思うが、花宮さんだ。

さっきからチラチラこっちを見てきている。何か言いたそうな聞きたそうな顔をしているから、多分文化祭のとかのことを言いたいんじゃないかと思うが…俺は話すつもりはないため、話しかけられないようにしている。

このように、今、俺は不安なことばかりだ。

(平穏に過ごしたいんだけれど……2人ともこえーわ)

俺は机に突っ伏して、話しかけられないように過ごした。


「なあ!玲!一緒に行こうぜーご飯食べに」

「新崎…ああ、いいよ」

「よし!光輝!行くぞー」

「ああ」

俺は新崎と国光と共に屋上に向かった。

「だーれもいないやーありがたいなー」

「そうだな…」

「??」

2人が誰もいないことを望んでいるような口ぶりだった。

「さて、玲…大丈夫か?」

「ん?何がだ?」

「いやー、花宮さんと翔に見られてるだろ?ずっと…」

「………まあ、な」

「どうするんだ?あいつら2人を傷つけたんだろ?」

「……そう、だな」

空気が重くなった。

「翔、相当イラついているみたいだった。玲だけを睨んでたし……」

「うん……」

「どうするつもりだ?」

「…………」

俺は自分がどうしたいのか、翔や花宮さんとどうなりたいのかを考えた。

(翔とは仲良くなりたい。主人公とはいえ、良いやつなのは分かってるから…花宮さんとも仲良くなりたい。友達だし…でも、花宮さんと付き合うことは出来ない……彼女はこのゲームの中のヒロインだから、翔と結ばれるべき……ってこれ、言い訳か…自分のゲームでの立ち位置を守りたいが故の……)

俺はずっとそうやって言い訳を述べてきたのだと気づいた。

「なあ、お前、花宮さんの気持ち、気づいてるんじゃねーの?」

「!!!!」

新崎が唐突にそう言ってきた。

「やっぱり……ちゃんと向き合ってやれよー」

「…だめなんだ…花宮さんの気持ちを受け入れたら……」

「何でだめなんだよ…」

「……翔に申し訳ない」

「!!!……お前、翔のこと気にしてるのか?!」

「翔は……花宮さんや他のみんなと幸せにならないといけない……そうじゃないと……」

(バッドエンドになっちまう……ヒロイン達が次々と苦しんで、結局、翔と共に消えちまう。それだけは……それだけは避けないと!!)

俺が苦しそうな顔をしていたからだろう…新崎は黙ったまま心配そうに俺を見ていた。

「……翔がどうなるか……それは俺たちには分からない」

国光が話し始めた。

「ただ、翔が苦しんで、やばい状態になったら、俺たちで止めてやるって決めているんだ……だから、翔のことを思いすぎて、他の人の気持ちを無視するのはやめた方がいい」

「国光……」

「ま、翔はちょっとやばそうだからなー助けないとな」

新崎も国光と同じ気持ちなのだと分かった。


教室に戻った時だった。

「玲!」

「……翔」

凄く怒ったような顔をしながら俺のところに来た。クラスのみんなが心配そうに見てきた。

「ちょっと来い!」

「え!いや…ちょ、ちょっと?!」

翔が問答無用で俺の腕を引っ張っていった。


「おい!どこまで行くんだよ!」

「………」

翔は黙ったまま引っ張ってきた。廊下を通り、階段を登り、着いたのは…屋上だった。

そこで手を離してくれた翔は俺の方を見てこう言った。

「お前、やっぱりクソだったんだな」

「はぁ?」

「……お前さえ……お前さえいなければ!!」

「へ?……ぐぁっ…!!」

突然、翔が俺の首に手をかけた。そして、力一杯握ってきたのだ。突然のことだったため、反応が遅れて首を絞められてしまった。

「ガッ……ガハッ!!……ぐっ…」

「お前さえ!!いなければな!!俺は、俺は花宮さんと一緒にいられたんだ!!」

さらに首を絞める力が強くなった。息ができなくて苦しくなった。

(あ、あ……またか…この顔、見たことがある……母さんと…同じ顔だ)

俺を恨み、憎しみに囚われた表情をしていた母と同じだった。

(……いろんなことがあって、俺は……少しこの世界を好きになれたような気がしたけれど……ここで終わりなんだな…)

自分が死ぬことを悟った俺は、もう、抵抗する気力が湧かなかった。

すると…

「だめぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

ドンッ!!

「ぐぁっ…!!」

翔が吹っ飛ばされたのだ。

「げほっ!!げほっ……ゴホゴホ……ぐっ…な、何だ?」

むせながら、声がした方を見ると、

「大丈夫?!白鳥くん!」

「……花宮、さん?」

花宮さんが心配そうに見てきたのだ。

「大丈夫か?!玲!」

「白鳥くん!!しっかり!」

花宮さんの後ろに、若葉さんと神楽坂さん、新崎、国光の4人もいた。

「みんな……げほっごほっ……ど、どうして?」

「翔がお前を呼んだ時に嫌な予感がしたから、ついていったんだ。良かったー尾行しておいて…」

「そ、そうか……」

俺は花宮さんを見た。凄く心配そうに俺を見てきた。

「白鳥くん……ごめんね?」

「え?」

「白鳥くんに言いたいこと、伝えたいこと、聞きたいこと、いっぱいあるんだ!だから、待ってて!」

花宮さんがゆっくり立ち上がると、翔に向かって歩き出した。

俺は今の翔が花宮さんの声を、言葉を聞くことがあるのか心配になった。

「轟くん……」

「は、花宮さん…ど、とうして、邪魔するの?そいつは君を傷つけたんだよ?」

「………」

「だ、だから、俺がこいつを倒そうとしているのに……どうして?!」

「私は……確かに傷ついたよ、白鳥くんにああ言われて……でも、それは、私が白鳥くんに何も言ってなかったから、私が勝手に傷ついただけ…だから、白鳥くんは悪くない」

「なんで……そんなわけない!!こいつは君の気持ちに気づいていたんだ!だから、わざとそんなことを言って、傷つけようとしたんだ!傷ついた姿を笑おうとしたんだ!!」

「……そうなの?白鳥くん」

花宮さんが俺の方を見てきた。

「……気持ちには気づいてた」

「!!!!」

「けれど、花宮さんを傷つけたくて言ったんじゃない、俺よりも翔の方がいいって思ったから、そう言っただけだ」

「………」

「決してわざと苦しめたくて言ったわけじゃない!」

「嘘だ!!花宮さん!!騙されちゃダメだ!!」

翔が必死に花宮さんに訴えていた。俺は悪いやつだって。

「俺は、玲の言ってることが正しいと思うぜ」

「なっ……新崎」

「玲は、人を傷つけることを嫌ってるやつだから、お前もそれは分かるだろ?」

「………ふざけるな!!」

怒りの籠った表情で怒鳴った。


「轟くん……私ね」

花宮さんが静かに口を開いた。


「白鳥くんが好きなの」


「!!!!」

みんなが驚いていた。当然、翔も。

「私は白鳥くんが好き!だから、彼を傷つけないで!!」

「な、なんで……そんな…」

翔がガクッと地面に膝をつけて、項垂れていた。

「白鳥くん!」

「は、はい…!!」

名前を呼ばれて、俺はビクッとした。

「白鳥くんが好きだから!だから、私、頑張るね?貴方に好きになってもらえるように!」

「!!!!」

凄く嬉しそうな表情ではっきりと言ってきた。

新崎達も驚いていたけれど、俺と花宮さんを交互に見た後、満面の笑みになった。


「みんな…ありがとう、助けてくれて」

「大丈夫!大丈夫!ってか、お前こそ首大丈夫か?」

「ああ、なんとか」

あの後、翔は国光に連れられてどこかに行ってしまった。

「若葉さん達も行かなくて良かったのか?翔のところに」

「……うん」

若葉さんは何か考えているようなそんな様子だった。

「よし!戻ろうぜー、翔のことはまあ、俺たちに任せろ!」

新崎が笑顔でそう言った。

「……ああ、頼む」

俺たちは教室に戻った。


帰り道を若葉さんと神楽坂さんの2人と歩いていた。若葉さんと神楽坂さんの2人が俺を誘ってくれたから。

でも、3人とも気まずい雰囲気が漂っていた。

最初に言葉を発したのは、若葉さんだった。

「私ね?翔くんが好きだった。だから、振られた時凄く辛くてさ、苦しかったんだ。でもね、みんなとそのまま過ごしていくうちに、翔くんへの気持ちが少しずつ薄れていったの。不思議だよねーあんなに好きだったのにさ、振られたら気持ちが冷めていくんだ」

「………」

若葉さんはずっと前を向いたまま話し続けた。

「だから、きっと翔くんも花宮さんへの気持ちが冷めていくと思うんだー」

「そんなうまくいくかしらね?」

「梓ちゃん…」

「今日の翔を見ていたけれど、凄く愛が重そうに見えたわ、白鳥くんのことをずっと睨んでいたし」

「た、確かに……」

「白鳥くん、しばらく翔のことを見ておくから、貴方も気をつけて」

神楽坂さんが真剣な目でそう言ってくれた。

「ありがとう、2人とも」

「あ、あとね?」

若葉さんが一歩二歩と前を歩き、立ち止まると振り返ってきた。

「白鳥くんの気持ちも大事だけれど、桜ちゃんのこと考えてあげて?本気で貴方のことが好きなんだと思うから」

真剣な目で俺にそう伝えてきた。俺は下を向いた。自分の気持ち…それを考えるために…

「……やっぱり」

「??」

「やっぱり、分かんねぇや」

「白鳥くん……」


「人を好きになるって何だ?」


「「え?」」

2人とも驚いた表情でこっちを見てきた。

「俺には分からないよ、人を好きになるってどういうことなのか…どういう感情なのか…」

俺も、そして、『あいつ』もよく分からない感情だった。

何せ、俺たちは……


人に愛されることがなかったから。


※あとがき

花宮さんが告白したーーー!!

でも、玲は分からないみたい……

一体どうなるのか……2人の関係、そして、これから先の翔との関係は……


次回、翔…暴走

お楽しみに

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