第31話 文化祭編 事故

昔を思い出していた。

殴られたこと、蹴られたこと、暴言を吐かれたこと……色々あったなって、そんなことを思っていた。

(俺は……)

その時、何かに引き込まれる感覚がした。

(な、何だ?!)

その方向を見ると、光のようなものが見えた。

(何なんだ?ってうぉぉぉぉおおおおお!!)

さらに引っ張る力が強くなり、俺はその光に引きずり込まれた。

(あ、俺、死んだ?い、意識が……)

光に包まれた瞬間、クラッとする感覚がした。そして、意識を失った。


「………て」

何だか声が聞こえてくるようなそんな感じがした。

「……お……て」

(何だか心地いい、このままでいたいなー)

「…起きて!!……くん!」

また、誰かに呼ばれた。さっきよりも大きな声で。

(何だ?誰だ?)

重たい瞼を開けようとした。

「起きて!!白鳥くん!!」

「……ん?」

また、大きな声が聞こえた。それも、はっきりと。俺の名前を呼ぶ声が。

目を開けると、真っ白な天井が見えた。

「玲!!」

「白鳥さん!!」

声がする方を見ると、新崎と先生がいた。

「……あ、おはよう……ございます」

「おはようございます。じゃねーよ!!呑気に挨拶してんじゃねーよ!……はぁ……安心した」

新崎がホッとした顔をしながら、ツッコミを入れてきた。

「ここは……」

「保健室です。白鳥さん、事故に巻き込まれたの覚えてますか?」

「えっと……あ、確か、誰かにぶつかったような……気が……」

「神楽坂さんを庇って、強く頭を打ちつけたのよ…頭、痛い?まだ」

「えっと……いたっ…」

動かしてみると、ズキズキ痛むところがあった。

「まだ、痛むところがあるようね、もう少し安静にしていなさい」

「は、はい」

先生はその場から去って行った。

「マジで心配したからな!」

「ごめん……あ、新崎、今の先生は?」

「ん?あの人?保健の先生だぞ」

「そうか…」

(誰か知らない人がいるーって思ってたけれど、保健の先生か)

周りを見渡すと、普通に保健室みたいだった。

「お前、目が覚めないからみんな慌ててたんだぞ!どうすればいいのか分からなくてよ。神楽坂さんめっちゃ顔真っ青になってたからな!心配していた人たちにちゃんと言っとけよ!」

「お、おう…」

何故かずっと新崎が怒っていた。

(神楽坂さんが落ちてきたからこうなったんだけれど…そうだ!)

「神楽坂さんは?無事か?」

「ああ、無事だよ。今、劇の練習に参加してると思うぞ」

「そうか…」

「まあ、動けるようになったら、会いに行ってやれ」

「おう…」

「それじゃあな」

「あ、新崎!」

「ん?何だー?」

「文化祭大丈夫そうか?劇とか」

「ああ、お前が神楽坂さんを守ってくれたから、神楽坂さん、結構重要な役だからな、何とかなりそうだ。ありがとうな」

「そうか……なら、良かったよ」

「じゃあ、行くわ」

「おう」

新崎が立ち去って行った。


保健室のベットでゆっくりしていた。

(神楽坂さんは無事だったのか、なら、良かった…)

ホッと安心しながら俺は天井を見ていた。

(ヒロインが怪我するって嫌だしな、それにしても暇だなー)

頭がまだ痛いが、いつまでも寝ているわけにはいかない。

「よし!」

起き上がると、保健室を出て行った。


劇の練習をしているであろう場所に行ったら…

「お、やってたやってた」

演技の練習をしている者と、小道具を作っている者に分かれていた。

「よし!入るか」

ガラガラガラガラ……

部屋の扉を開けた。みんながその音に気づいてこっちを向いた。

「白鳥くん!!」

「白鳥!!」

「お、おう…みんなどうだ?調子は……」

「何、呑気なこと言ってんだよ、お前、どれだけ心配したと思って!!」

「わぁぁぁぁあああああ!!!ご、ごめんって!」

「この野郎〜〜〜〜〜〜!!」

クラスの男子にポカポカ…いや、ボカボカ叩かれた。女子も良かったーって安心したような顔をしていた。

「白鳥くん!もう、大丈夫なの?」

「あ、ああ、なんとかね」

「〜〜〜〜!!!良かったよ〜〜〜〜!!!」

泣きながら嬉しそうな顔をする若葉さん。結構心配させてしまったらしい。

「ごめん、心配かけた。みんな、俺、大丈夫だから、えっと、劇の練習、進めてくれ」

「ふん!そんなこと言わなくてもやってるわ!!!」

「いて!!いて!!痛いって!!」

ボカボカと男子に何度も殴られた。


◾️梓 視点

私は何でこうなんだろう……

「白鳥くん!!白鳥くん!!」

私が足を滑らせて、脚立から落ちてしまった。目を開けたら、私の下に白鳥くんがいて、私を庇ってくれたのだと気づいた。

何度も名前を呼んだけれど、返事がなくて、大きな音がなったから、クラスのみんなが集まってきた。

「白鳥くん!しっかりして!」

若鷺先生が白鳥くんを揺さぶった。でも、目を開けなかった。

「誰か白鳥くんを保健室へ!!急いで!」

「「は、はい!!」」

男子数名が白鳥くんを担いで保健室へ連れて行った。私は呆然としていた。自分のせいでこんなことになったと。


(私のせいで……白鳥くんが……どうしよう……このまま彼が目覚めなかったら……私)

手が震えた。怖かった。

「梓ちゃん!」

誰かに名前を呼ばれた。顔を上げると、風香だった。

「梓ちゃん!しっかり!!」

「風香……私…」

ずっと我慢していた涙がポロポロと溢れた。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

「梓ちゃん!!」

風香が私を抱きしめてきた。ぎゅっと固くしっかりと、私も風香の背中に手を回して泣き続けた。

「大丈夫…大丈夫だよ」

「うう……ふうか〜〜!!!」


涙が枯れるまで泣いた。あんなに泣いたのは、振られた時以来だ。

「落ち着いた?梓ちゃん」

「うん……」

「保健の先生がね、頭を少し打ち付けただけだから、酷い状態ではないらしい。」

「……そう…なの?」

「うん、もうすぐ目を覚ますだろうって」

「そう…なら、良かった」

私は少しホッとした。危険な状態だったら……そう思ったら、怖くて仕方がなかったから。

「梓ちゃん、みんなが待ってる、行こう?」

「………待ってなんかいないよ、私なんて」

「梓ちゃん!!」

ふにっ……

「ふぇ?」

風香にほっぺたを摘まれた。

「私なんかって言わない!!」

「!!!」

「たまたま、あーなっちゃっただけじゃん、わざとじゃないんだから」

「でも……」

「みんなも心配してる、白鳥くんのこともだけれど、梓ちゃんのことも」

「………」

「劇、やるんでしょ?なら、行こう!みんな待ってる」

「………」

「大丈夫!私がいる!」

「!!!」

「だから、行こう?」

「……うん」

私は立ち上がって、練習場に向かった。


「あ、神楽坂!」

みんながこっちを見ていた。

「えっと………その……」

(言わなきゃ!謝らなきゃ!!)

「ご、ごめ……!」

謝ろうとしたら、みんなが私をぎゅっと抱きしめてきた。

「良かった……無事で」

「みんな……」

「おかえり、梓!」

「おかえり!!神楽坂さん!」

みんなが笑顔でこっちを見ていた。

「どうして…」

「ふふ…!!謝る相手間違ってるよ?」

「!!!」

「その謝罪は、白鳥にしてやれ」

みんなが頷き合っていた。

「!!!……うん」

「よし!劇の練習しよう!!白鳥のためにも最高の劇にするぞ!!」

「おおおーーーーーー!!!」

みんなが私を責めなかった。

(ありがとう……みんな……)

私は劇に臨んだ。


ガラガラガラガラ……

練習場の扉が開いた。

「白鳥くん!」

みんなが駆け寄っていた。私も立ち上がって彼を見た。頭に包帯を巻いていたけれど、元気そうだった。

(良かった……本当に…)

私は安心した。それと共に、罪悪感が押し寄せてきた。みんなが集まっているところに行くことができなかった。

すると…

「神楽坂さん…怪我なかったか?」

「!!!」

白鳥くんがこっちに来た。

「怪我してなさそうだな」

「し、白鳥くん!」

「どうした?そんなびっくりした顔して」

「だ、だって……だって……ううう…」

「えっと……な、泣くなよ」

涙がポロポロ溢れてきた。泣きたいわけじゃないのに、安心したせいか止まらなかった。

「お、おい!大丈夫かよ?」

白鳥くんが心配してくれた。怪我をさせてしまったのに、なのに…

「ぐすっ……白鳥くん」

「ん?」

「……ごめんなさい、本当に」

「!!!」

私が頭を下げたことに驚いているようだった。

「怪我させて…本当に……ごめんなさい」

「神楽坂さん」

白鳥くんが私の肩を掴んだ。急だったからビクッとしてしまった。顔を上げると、真剣な目で私を見ていた。

「謝って欲しいわけじゃない。だから、そんなに謝らないで」

「……でも」

「謝るぐらいならさ、劇を成功させてよ、俺、楽しみにしてるからさ」

「!!!白鳥くん」

「な?」

ニッて笑いながらそう言ってきた。私にとってそれが救いだった。

「分かった。全力で頑張る」

「おう!」

私は前を向いた。劇を成功させるために…


白鳥くんやクラスのみんなのために…


※あとがき

白鳥くん無事だったー!!!

まあ、主人公が退場したら終わるよね?


さて、そろそろ劇が始まるようですよ?


次回、文化祭編 演劇開始

お楽しみにー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る