第28話 体育祭編

夏ほど日差しが強くないが、ちょっと暑い今日、体育祭が始まる。

「ああああああーーーーしんどいーーー」

新崎が扇風機に当たりながらそんなことを言っていた。

「新崎、今日は何種目出る予定なんだ?」

「えっとねー、5!」

「「やばー」」

「2人してひどくない?」

俺と国光の声が揃った。

「そう言う2人は何種目よ?」

「俺、2」

「俺、1」

「いや、少な!」

「俺たちそんなに活躍することできねぇーし」

「そうそう、俺はバスケの時だけ活躍したらいいんだよ」

「お前ら…もうちょい貢献してくれ!」

体育祭の真っ最中…俺たちは自分たちの種目が始まるまで、喋っていた。


「………何であんなに盛り上がれるんだろう…分かんねぇー」

自分のクラスのテントで休んでいると…

ピタッ…

「うわぁぁあああああ!!!つめた!!」

ほっぺたに冷たい何かがくっついた。振り返ると、若葉さんがジュースを両手に持って立っていた。

「………若葉さん」

「えへへ!びっくりした?……って大丈夫?おーーーい」

若葉さんが俺に向かって手を振ってくる。俺はジト目で若葉さんを見た。

「怖いってー、ごめんごめん!これ、ジュース渡そうと思って…」

「…絶対わざとだろ」

「……何のことかなー?」

若葉さんはそう言いながら俺の隣に座った。

「はい!」

「……ありがとう」

若葉さんからジュースを受け取ると、キャップを開けて、飲んだ。

「……うま!」

「本当?良かったー」

安心したような表情をしながら、みんなの競技を見ていた。


「そう言えば、あれから翔とは?」

俺は前から気になっていたことを聞いた。

「うん?あー翔と?うん…今まで通りに話してるよー、梓ちゃんも一緒だから、あんまりギクシャクしているわけじゃないから、大丈夫だよ?」

「……そうか、なら、良かったよ」

「ふふふ…心配してくれてありがとう!」

「いや、気にするな…俺がただ気になってただけだから……」

俺も競技を見ながらそう言った。

「優しいね?白鳥くんは……」

「そうか?…当たり前のことだと思うけれど…」

「その当たり前を普通に出来るのがすごいと思う!……私、他の人と話すの緊張するし、心配していても、そんなすぐに聞いたり、確かめたり出来ないから……」

少し遠くを見るようにしながらそう言った若葉さん。ゲームの中では、誰よりも人のことを思える女の子で、人見知りではあるけれど、友達のことを大事に思っている女の子だ。友達を大事に出来るってことが俺にとってはすごいことだと思った。

「……若葉さんはそのままでいいと思う」

「え?」

「若葉さんには若葉さんだけの良いところがあるはずだから、自分が気づいていないだけだよ」

「………そうかな?」

「うん」

「……そっか」

若葉さんがまた、競技の方を見た。

俺も競技で暴れている新崎を見た。楽しそうに走り回っていた。

(新崎も若葉さんも色々あると思う、他のみんなも、もちろん俺にも……けれど、きっとみんなが幸せになることができるルートが必ずあると思う。それまで、俺はサポートし続けないと…それが、俺の役目だし)

俺は真剣な目で競技を見ていた。


「いやー、疲れたー、マジ暴れたわー」

新崎が戻ってきた。

「おかえりーおつかれー」

「おい!玲!もうちょい心を込めて言ってくれ!何で棒読みなんだよ」

「いやー、普通に何となく」

「何となくかい!」

ツッコミを入れながら自分の席に座った新崎。だいぶ暴れたのだろう、体操服がドロドロだった。

「そう言えば、みんな中間大丈夫だったのか?」

「え……お、おう、た、多分」

新崎がすごくオドオドしながら答えた。

(ダメだった可能性が高いなーこりゃあ)

俺はやれやれと思いながら、周りを見回した。すると…

「……だって言ってるだろ!!」

「だから!?何それ!」

どこかで喧嘩しているような声が聞こえてきた。

「何だあれ?」

「…喧嘩?してるのかな?」

「行こうぜ!玲!若葉!」

3人でその喧嘩を見にいった。


「今のわざとだろ!」

「違うって言ってるじゃん!!」

喧嘩を見に行くと、翔と花宮さん、神楽坂さん、対して、相手は、数人のギャルっぽい女子だった。

「ん?翔?何があったんだ?」

新崎が混乱しているようだった。

俺も状況が分からなかったため、様子を見ることにした。

「今、わざとぶつかってきただろうが!」

「気のせいでしょ?そこの2人が邪魔なところにいたからじゃん、避ければぶつからなかったわよ!」

(なるほど、花宮さんと神楽坂さんの2人があのギャル達とぶつかったのか、それでそれを見ていた翔が怒っているってことらしい。

「こんの!!謝れよ!!」

「だから、あたしらじゃないって言ってるでしょ!!さっきから言いがかりつけてくんなし、大体何でお前が怒ってんだよ!怒るならそいつらにしろよ!ぶつかってきたのはそっちなんだからさ!」

「んだとこら!!」

翔がヒートアップして、女子に掴み掛かろうとしていた。

「やめて!翔!」

神楽坂さんが叫んだその時…

ガッ!

「なっ…!……玲」

「落ち着け、翔、お前が怒って、先に手を出したらダメだろう」

「けどよ!」

「お前が怒るのは分かるが、熱くなりすぎだ、花宮さんと神楽坂さんの方を見ろ」

「??……!!」

振り返った翔は、花宮さんと神楽坂さんの2人が怯えているような不安な表情をしていた。

スッ…

翔は勢いを失ったように、下を向いていた。

「何があったか分かんねぇけれど、こんなところで喧嘩するな」

俺は、ギャルの方を見た。

「わざとじゃないんだよ、だから、許してやってくれねぇかな?俺ら喧嘩したい訳じゃないからよ」

「………ふん!行こう!みんな」

そう言って、リーダーっぽい奴がみんなを連れて去っていった。


「花宮さん、神楽坂さん、2人とも大丈夫か?」

「う、うん…平気、轟くんは?」

「若葉さんに保健室連れていってもらってる、あの様子だとしばらくは戻ってこないと思う。」

「そう……ありがとう、翔を止めてくれて」

神楽坂さんが安心したように笑った。

「いやいや、流石に止めるだろう、あれは、てか、何があったんだ?」

一応状況確認をしようとした。

「それが、私と梓ちゃんでお話ししてたの、そしたら、さっきのギャルの人たちがぶつかってきて、それで、色々言われて…たまたま、そこに轟くんがいて、私たちの代わりに怒り出してって感じ……」

「なるほどな……まあ、ギャルの奴が悪いけれど、翔がそこまで怒る必要はないな」

「どうしたんだろうな?翔のやつ、あんなすぐに頭に血が昇るようなやつじゃなかったのに」

「……まあ、色々あるんだろうあいつにも」

「そうなんかなー?」

新崎はあまり気にしないようにするみたいだった。

「とにかく2人に怪我がなかったのなら良かった。俺たちが休んでいるテントに戻ろうぜ」

「……翔は大丈夫かしら…」

「……見に行くか、新崎!花宮さんを頼むわ!」

「え!おう…任せとけ!」

「白鳥くんは?どこに行くの?」

「翔が心配だから、神楽坂さんと一緒に見に行ってくるよ。花宮さんは戻ってて」

「え…なら、私も行くよ?」

「いや、大人数で行ったら、邪魔になると思うから、大丈夫」

「……分かった」

ちょっとしょんぼりしているような雰囲気があった。

(な、何で落ち込んでるんだろう……翔が心配だからなのかな?と、とにかく今は翔だな)

「行こう!神楽坂さん」

「ええ!」

俺たちは保健室に向かった。


「し、失礼しまーす…」

「失礼します…」

俺たちはそっと保健室のドアを開けた。中は静かだった。ただ、誰かの話し声が聞こえた。

「大丈夫?翔くん」

「あ、ああ……」

翔と若葉さんがいた。2人で話しているようだった。

俺たちはそっと翔達のそばにいった。

すると……


「翔くんは桜ちゃんが傷つけられたのに怒ったんだよね?」


「「!!!」」

俺と神楽坂さんは驚いていた。まさか、若葉さんからその言葉が出るとは思わなかったからだ。

「な、何言ってるんだよ…そんなんじゃあ……」

「嘘でしょ?何年翔くんの幼馴染してると思ってるの?私、分かるんだよ?」

「………」

翔は黙っていた。恥ずかしいからなのか、情けないと思っているのか分からないが、翔は何も言えないようだった。

「多分だけれど、梓ちゃんも気づいてるよ?翔くんの気持ち……誰に向いているのか、全部」

俺は神楽坂さんを見た。

少し辛そうな苦しそうな表情をしていた。

「梓もか……俺、そんなに分かりやすい?」

「うん……だから、辛かった」

「!!!風香…」

「だって、好きだから、翔くんのこと……」

若葉さんは下を向いた。

「風香……ごめん」

「ううん、桜ちゃんを思っているならさ……もっと考えてあげて。」

「か、考えているよ!誰よりも…」

「翔くんは一直線なところがあるからさ、周りが見えなくなって、桜ちゃんを傷つけないか心配なんだ……」

「風香…俺、そんなに一直線で周り見えてないのかな?」

「うん、見えてない」

「うっ……」

「桜ちゃんも今日は怖かったはずだよ、ギャルの子のこともそうだけれど、翔くんがあんなにも怒っている姿見たらさ…」

「……そうだよな」

「あとで、謝っときなよ!絶対!あと、梓ちゃんにも!」

「……うん、ありがとう風香」

「!!!」

翔が優しく笑って感謝を伝えていた。

若葉さんは顔を真っ赤にしていた。

「べ、別に……翔くんが笑顔でいてくれないと困るし……それじゃあね?」

若葉さんはそういうと保健室を出ていった。

俺と神楽坂さんは隠れていたため、バレなかった。


「神楽坂さん……」

「何?」

俺は神楽坂さんの方を見て、こう言った。

「言わないの?翔に」

「………どうして?」

「何ていうか、ちょっと、辛そうに見えたし、多分、ずっと心に残ってるよね?言ってないこと」

「………いやよ、翔と今まで通りにならないのは……」

「大丈夫だよ」

「どうして、そう言い切れるの?」

「だって……神楽坂さんは1人じゃないじゃん!ライバルで親友である若葉さんがいるし、新崎や国光もいる。当然俺も!みんながいる、翔と離れなくちゃいけない理由なんてないよ……不安なのは分かるけれど、多分、スッキリしないままだと、しんどいよ?」

「…………本当に戻せるの?関係を」

「戻してみせる!ってか、若葉さんが戻ってるじゃん!」

「………」

神楽坂さんは考え込んだ。自分の気持ちを伝えるかどうか……

「言ったら、責任取ってね?」

「こわっ!!まあ、頑張れ!」

神楽坂さんが翔の元に向かった。

俺は保健室を出た。


◾️梓 視点

「翔……」

「!!!あ、梓!どうして…あ、そうだ!」

翔は突然ベットから立ち上がると、私に向かって頭を下げてきた。

「ごめん!梓!怖がらせて…ごめん!」

「……ええ、とても怖かったわ、今まで見てきた翔の中で1番」

「………ごめん」

「まあ、花を思ってやってしまったことでしょ?まったく……本当に真っ直ぐなんだから…」

「うう……ごめん、何も言えないです。」

「そんな翔だから私は……」

「え?」

とぼけたような表情で私を見てきた。

私は静かに落ち着いて言った。


「好きよ……翔」


「え!」

驚いている翔に私は笑ってしまった。

「初めてあなたを驚かせたかしらね?ふふふ…!!好きよ!あなたが!」

「あ、梓……お、俺…」

「知ってる!翔が桜を好きなこと」

「!!!梓にもバレてるのか…」

「ええ…分かるわよ、だから、これが最初で最後に送る、私の好きな気持ちよ」

「え?」


ちゅっ…!


翔のほっぺにキスをした。

「少しくらい思い出もらってもいいでしょ?」

「ふぇぇぇぇえええええ!!!」

翔は顔を真っ赤にしていた。それが面白くって、笑ってしまった。

「ふふふっ……さあ!頑張ってよ?桜に振られたら、私たちが笑ってあげるわ」

「なっ……!!笑うなし!!」

「ふふふっ……それじゃあね?」

私は翔に背を向けて保健室を出た。


◾️玲 視点

(うおぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!泣ける!泣けるぞ!!)

俺は保健室のドアのそばで泣いていた。

「泣きすぎでしょ?……梓ちゃん大丈夫かな?」

若葉さんも俺のそばにいた。

2人で神楽坂さんの告白を見ていた。いや、影から応援していたんだ。

まあ、気になって仕方がなかったから、若葉さんと見ていたんだけれど……

(キスしたぞ!!神楽坂さん、意外と積極的なんだな……)

(………だ、だね…びっくりした)

若葉さんもあれは驚いたらしい。流石の幼馴染でも予想はできなかったようだ。

「あ、こっち来る!」

「い、一旦逃げよう!!」

俺と若葉さんはドアから離れて、隠れた。


「何してるのよ……2人とも」

「あははは………えっと……そのー」

「……ごめんなさい」

俺たちは速攻でバレた。

「まったく……」

「大丈夫か?神楽坂さん」

俺は心配になって聞いた。

「大丈夫かって……大丈夫なわけ……ないでしょ?」

涙がポロポロと溢れて落ちた。

「梓ちゃん!」

若葉さんがすぐに神楽坂さんを抱きしめた。

「ううう……大丈夫な、わけ、ひっぐ……ない、そんなわけ、ないわよ……辛いわよ!凄く!……」

「……ごめん」

俺はもう、何も言わないでおこうと決めた。

「謝らないでよ…私がそうしようって決めたから、私の意思だから………でも、やっぱり……苦しい…」

「梓ちゃん……」

「風香はこんな気持ちだったのね、あの時…」

「うん……うん」

2人してしばらく泣いていた。

俺は静かに泣き止むのを待った。


※あとがき

神楽坂さんも言ったーーー!!

2人とも……悲しすぎて涙が止まらない……


次回、復活

お楽しみにー



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