第23話 プールでライブ
◾️玲 視点
みんなのところに戻ると、翔と花宮さんが楽しそうに話していた。
「ただいま」
「あ!白鳥くん!おかえりー」
「………」
花宮さんがこっちに気づいて、手を振っていた。翔は少し不貞腐れた表情でこっちを見ていた。
(花宮さん、翔と仲良くなったかな?あと、翔、そんなに睨んでくんなよ)
「梓ちゃんと風香ちゃん見なかった?」
「?若葉さんなら見つけたけれど…え、神楽坂さんもいないの?」
「うん…さっきから見てなくて…」
「マジか…とりあえず、ほら…」
俺は若葉さんに促した。
「ご、ごめんなさい!急にいなくなって」
「ううん!大丈夫だよ?そっちこそなんともなかった?」
「えっと…」
「なんかあったのか?!」
翔が突然大きな声を上げてそう言った。
「あ…えっと、怖い人に声をかけられて連れていかれそうになったけれど…」
「なっ…!!」
「で、でも!白鳥くんが助けてくれて…無事です……」
「そっかー…良かったー何ともなくて…流石!白鳥くんだね?」
「俺はたまたまだ」
「……また、玲かよ…」
「なんか言ったか?翔」
「何でもねーよ」
なんか、また、翔が不貞腐れていた。
「じゃあ、神楽坂さん探してくるよ、若葉さんをよろしく」
「あ、私も探すよ!」
「え…」
「???ダメなの?」
「いや、いいけれど…」
チラッと翔の方を見ると、羨ましそうな表情で俺を見ていた。
(めっちゃ睨んでくる)
「な、なら、翔と2人で探してきてくれよ」
そういうと……
「うーん、翔くんと話したし、今度は白鳥くんと話したいかな?」
「うーーむ……」
俺は困ってしまった。花宮さんに一緒に探すと言われ、翔にめっちゃ睨まれている。この状況をどうにかしたいんだが……
「……分かったよ」
俺は渋々花宮さんと一緒に神楽坂さんを探すことにした。
(まあ、若葉さんにチャンスが来たってことで)
俺は若葉さんの方を見た。ちょっと嬉しそうな表情をしていた。
「じゃあ、若葉さん!翔をよろしく」
「あ!……う、うん!」
俺は若葉さんに近づくと…
「頑張って!」
「!!!!」
俺はすぐに花宮さんと歩いて行った。
◾️梓 視点
「うーーん、どうしようかしら」
私は今困ってます。何があったかというと……
「うぇぇぇぇぇぇえええええんん!!おかあさ〜〜〜〜〜〜〜んん!!どーーーこーーーー????」
迷子になってしまった子供と一緒にいるんです。
実は……
「剥がれてしまったわね、はぁ……何してるのかしら」
翔がずっと花宮さんを気にしていることに嫌気が刺して、彼から逃げてしまったのだけれど、自分が今どこにいるのか分からなくなってしまった。
(辛すぎて見ていられなかったけれど、離れる方が不味かったような……ううう、どうしよう)
みんなのところに帰りたいけれど、スマホはないし、誰かに聞くにも場所が分からないから聞けないし、どうすればいいのか……
「??何かしら」
途方に暮れていた時、プールの端っこでうずくまっている子供を見かけた。
「どうしたの?」
「ううう…うあぁぁぁぁぁん!!!!」
「えええええ?!?!?!」
その子供が泣き出してしまった。どうすることもできず、私はしゃがんでその子のそばにいることにした。
「ひっぐ…ぐすん……ひっぐ、ひっぐ……」
なんとか落ち着いてきたようだった。
「どうしようかしらねー」
私は子供との接し方が分からなくて困っていた。すると……
「なんだ…ここにいたのか」
「へ?」
顔を上げると、白鳥くんがいた。
「ど、どうしてここに!」
「心配して探しにきたんだよー若葉さんと共にいなくなっちゃったから…」
「花宮さん……」
白鳥くんと共に花宮さんも一緒にいた。
「その子は?」
「迷子らしいの…探そうにもどうやって見つければいいのか……」
「迷子センターとかに預ければいいのでは?」
「……あ」
「今気づいたっぽいね?」
花宮さんと白鳥くんが苦笑いしていた。
(ううう…恥ずかしい……)
「よし!預けに行くか」
私たちはその子を渡しに行った。
迷子のお呼び出しがされ、数分後にその子の母親が現れた。
母親に頭を下げられた後、その子を連れて去って行った。
「何とか見たかったな」
「そうだね!」
「2人ともご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
私は2人に謝った。
「いや、全然大丈夫だ。あとで、若葉さんと翔に謝罪しておけ。あの2人も心配していたから」
「うん…そうするわ」
「よし!戻ろっか!」
「だな!」
私たちは風香が待つ場所に戻った。
◾️玲 視点
何とか神楽坂さんを見つけることができ、翔達のところへ戻ることができた。
「あ!帰ってきたよ!翔くん!」
「……うん」
若葉さんが嬉しそうな表情をしていた。
(ちょっとは話が出来たのかな?)
俺は少し安心しながら、翔に声をかけた。
「ほれ!これあげる」
「え?」
ガサッ
翔に渡したものは…
「焼きそば……」
「ああ、前にプールに行ったら焼きそばは食べる!!絶対!!って言ってたから。今日、何も食ってなかっただろ?」
「!!!気づいていたのかよ」
「そりゃあ、荷物当番してたから、お前らの様子見てたし」
「…………」
翔はじっと焼きそばを見ていた。
「あれ?いらなかったか?」
「……いや、もらう」
そういうと、翔は箸を割って、焼きそばを食べ始めた。
(ふぅ、少し機嫌が良くなったかな?)
俺は少し安心していた。
ふと、女子の方を見ると、3人とも俺を見ていた。
「ん?どうかした?」
「いや、何でもないよー」
「大丈夫だよー」
「気にしないで」
3人とも嬉しそうな表情をしていた。
「そ、そうか…」
なんか誤魔化されたような気がするが、気にするなと言われたので、気にしないことにした。
「ふぅ、疲れたなー」
俺たちはプールの休憩スペースで休んでいた。
「だねー、ゆっくりまったりしよー」
みんな椅子に寝そべってゴロゴロしていた。
すると……
「ねぇ!あそこでなんかやってない?」
「え?」
若葉さんが指を指していた。その先には、人が集まっていた。
「何だろう?あそこだけ人が多くてさ」
「確かに、なんかあるのか?」
「行ってみる?」
「行っちゃおう!!」
「だな」
俺たちはその人達のところへ向かった。
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
すごく盛り上がっていた。男性が多くて、叫んでいる人がほとんどだった。
「何だ?」
「あ!!」
花宮さんが驚いた表情をしていた。
「どうした?」
「あそこでアイドルが踊ってるよー」
見ると、ステージが先の方にあって、そのステージで、5人のアイドル達が歌い踊っていた。
「みんなー!!今日のステージ見にきてくれてありがとう!!!最高のステージにするから!楽しんで行ってねー!!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
アイドルが声を出すと、男性達が叫んでいた。
「すごい盛り上がり!!」
「有名人かな?」
花宮さんと若葉さんが楽しそうだった。
俺はふとステージの様子を見た。
大人達が何か慌てている様子だった。
「4人ともごめん、用事思い出した。」
「え!白鳥くん?!」
俺はすぐに大人達のところへ向かった。
「おい!どうするんだ!音響の機械が壊れたぞ!!どうやって音楽を流すんだ??」
「まずいまずい、どうすれば……」
スタッフの方々だろうか…凄く慌てていた。
俺はそのスタッフの1人に声をかけた。
「何かあったんですか?」
「え?……いや、何でもないよー、さ!ライブ始まってるし、ここは立ち入り禁止だから下がってねー」
俺を下がらせてどこかへ消えてしまった。
(ふむ、見た感じ機材トラブルか……どうにかしてあげたいが……)
俺はお客さんの方を見た。とても楽しそうな表情をしていて、ライブが出来なくなると大変なことになることが分かった。
(よし、助けるか)
俺はスタッフしか入れないところに入って行った。
「どうすればいい……どうすれば!!」
1人の男性が頭を抱えていた。
「まだ、楽器があるから、人を集めれば、奏でられるが、ギターがいない……このままでは……」
「力貸しましょうか?」
「へ?」
男の人が顔を上げた。俺の姿を見て、驚いていた。
「き、君は……いや、そうじゃない!どうしてここに?ここは入ってきてはいけないよ?」
「ギター困ってるんじゃないんですか?」
「!!!そ、そうだが」
「俺、ギター弾けます。だから、ギター担当やらせてください」
「!!!あ、ありがたいけれど、ライブはもう始まってるし…曲を覚えるにも時間が……」
「大丈夫です。3分程度あればいけます。」
「なっ…!3分?!そ、そんな短い時間で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。どうですか?俺にやらせてもらえませんか?」
「………いいのか?」
「もちろん!」
「な、なら……」
男性が急いでどこかに向かった。
(ふぅ、とにかくライブを止めないように出来たし、ちゃっちゃかやりますかー)
俺は、楽器を弾くため、あの能力を解放する準備に入った。
あの能力とは…蒼天奏だ。
あの能力が最近、進化して、楽譜を一通り見ると弾くことができるようになった。まあ、代償として、目眩がしたり、次の日だるかったりするが……
(この能力を使って、何とかライブを成功させないと……)
俺は、目を閉じて、目に意識を集中させた。
男性が戻ってきて、俺に楽譜を渡してきた。
「こ、この曲を弾いてほしいんだ。いけるかい?」
「もちろんです。」
「じゃあ、こっちに来て」
男性に連れて行ってもらうと、楽器を持った人たちが数人いた。
「すまない!みんな!この子がギターを弾いてくれるらしい、ほとんど練習もしていないし、合わせていないが、よろしく頼む!」
「大丈夫ですけれど……その子がですか」
ベース担当の男性が俺を見てきた。
「まあ、大丈夫でしょ?気楽に行こう」
キーボード担当の男性がそう言ってきた。
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「よし、この楽譜を覚えてくれ」
「はい」
俺はすぐに楽譜に目を通した。
「もういけます」
「本当か!!なら、よろしく頼む!」
それだけ言うとスタッフさんは去って行った。
「よし!今日だけのメンバーだが、アイドル達を、そして、ファンの人たちを笑顔にさせるぞ!!」
「「「おおおーー」」」
俺たちはステージに向かった。
◾️桜 視点
白鳥くんが突然どこかに行ってしまった。
「どこ行ったんだろう…探しに行った方がいいのかな?」
私は不安になったため、その場から離れようとした。すると…
「は、花宮さん!!」
パシッ
「え?」
私の腕を轟くんが掴んできた。
「あ、アイドルのステージ始まるよ?どこかに行ったら危ないし、ここにいようよ!」
「で、でも、白鳥くんが…」
「あ、あいつは大丈夫だよ!すぐに戻ってくるって!だ、だから…」
「うーん、でも、心配だし…」
「な、なんで?あ、あいつは頑丈だから、何かあっても、ケロッとした表情で帰ってくるって!」
轟くんの様子が少しおかしかった。なんか、必死というか、白鳥くんのところに行かせないような、そんな感じで止めてくる。
「頑丈だからって、無事かどうか分からないじゃない!」
「いや、大丈夫だって!絶対!だから、ここにいよう!ね?」
「…………友達じゃないの?」
「へ?」
「友達だから、心配するんじゃないの?轟くんと白鳥くんは友達でしょ?なら、どうして心配しないの?!」
「し、心配はしているよ!でも、花宮さんがここから離れたら、迷子になるかもしれないじゃないか!それに…風香みたいに怖い人たちに会うかもしれないじゃないか!!」
「それなら、白鳥くんだって、何かに巻き込まれているかもしれないでしょ?!」
「あいつは自分で何とかできるよ!!男子だし、喧嘩強いし!」
轟くんは必死だった。その様子を梓ちゃんも風香ちゃんもどうすればいいのか分からなくてあたふたしていた。
私の中で怒りが溢れてきていた。
(どうして?!轟くんは白鳥くんの友達じゃないの?!心配じゃないの?!なんで?!)
私は轟くんがよく分からなかった。
「離してよ!!」
「ダメだ!!」
私たちが揉め出したその時…
ジャーーーーーーーーン!!
ギターの音が響いてきた。
「「え…」」
アイドルと楽器を持った人たちがステージに現れた。
「みんなーもっともっと盛り上がる準備出来てますかー?」
「「うおおおおおお!!!」」
「うんうん!よし!この曲は生演奏でお届けします!私たちと一緒に楽しんでください!!」
私は楽器を持っている人たちを見た。
その中に……
「し、白鳥くん?!」
白鳥くんがいた。
ギターを持っていて、さっき音を鳴らしたのは彼だと気づいた。
「1、2、1、2、3!」
カウントと共に音が流れた。
私はステージに目を奪われた。
正確には、ステージでギターを弾いている白鳥くんを見ていた。
とても楽しそうにギターを弾いていた。とても上手くて、綺麗な音が聞こえてきていた。
(凄い!凄いよ!白鳥くん!)
私は興奮していた。
私の心臓が高鳴った。
◾️玲 視点
久々にギターに触れた。姉さんと兄さんがずっと楽器を弾いていたけれど、俺と瑠奈は触らないようにしていた。まだ、あの時の光景が思い浮かびそうで怖かったから。
今でもその時のことが蘇ってきて、手や足が震えていた。それでも……
(奏でる!最後まで!)
俺はギターを弾き続けた。お客さんにアイドルに響くように…
「うわぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
演奏が終わると、凄い歓声と共に拍手が巻き起こった。
俺は凄く楽しかった。
ライブが終わり、スタッフの人に感謝された後、翔達と合流した。
花宮さんや若葉さんから凄かった!って言われて、恥ずかしくなった。
「楽器弾けるんだね!」
「ああ、うん、少しだけね」
「でも、凄いよーずっと聴いていたもん!!」
「ははは!ありがとう」
花宮さんはとても嬉しかったのか、ずっと笑顔だった。
「凄かったわ、ライブ」
「うんうん!楽しかったよー」
「……」
神楽坂さんと若葉さんも楽しかったようだ。翔はまだ、じっと俺を見ていた。
「何だ?翔」
「ちっ……何でもねーよ」
何だか不機嫌になっていた。舌打ちもされたみたいだ。
「翔くん!舌打ちしたらダメだよ!」
「……」
翔はスタスタと先を歩いて行った。
騒がしいプールが終わった。
※あとがき
プール編終わりましたー!玲くん!ライブに飛び入り参加ーお客さんを笑顔にすることが出来たね!また、昔のようには出来ないみたい…いつか、できるといいなー
何だか主人公の様子が……
次回、地獄の宿題
お楽しみにー
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