第8話 涙

周りが明るく光っている。歌を歌えば歌うほど、空に太陽が現れ、光を当てていく。

俺の周りが明るく眩しくなって、俺は空を見上げた。黒い雲が少しずつ消えていく。太陽と綺麗な青空が広がっていき、雨が止んだ。

「マジか!」

フーリさんたちに、使えば分かると言われたが、まさかこんなことになるとは…

「神城くん!」

先生が俺を呼んで、こっちまで来た。

「凄い!凄いわ!こんなことできるなんて!」

「あはは、ありがとうございます。僕の歌、どうでした?」

「うん!とても良かったよ!」

「なら、良かったです。」

他の生徒もこっちに走って来て、凄いとか、上手!とか色々言われた。

(この力使えば…皆を笑顔にできるかな?)

この力と共に頑張っていこうと決めた。


音楽の授業が終わり、俺は帰宅した。

家に帰った途端、母さんが俺のところに来た。

「おかえり、さあ、始めるわよ」

「え?…ああ、練習ね、分かったー」

俺は荷物を部屋に置くと、ギターを手にした。

母さんの前で弾いた。

「!!!」

流れるようにギターを弾いていく。

(何だろう、今日は、楽に楽しく弾けるなー、指が軽い)

俺は母さんに止められるまで弾き続けた。


「玲、貴方いつの間に上手くなってるのよ」

母さんに止められた後、そう言われた。

「上手かったですか?」

「ええ、今までで1番、できるんじゃない!これからもそうやって上手く弾くこと!いいね?」

「はい!」

母さんが部屋を出て行った。

(力を使ったからだろうか…分からないが、上手くなっているなら、良かった)

俺は安心した。


夜、瑠奈が俺に聞いて来た。

「お兄ちゃん、上手になったのー?」

「うん、そうみたい」

「すごーい!わたしも上手になれるかな?」

「大丈夫!瑠奈は本番に強いから」

「ほんばんにつよい?」

「うん!つまり、上手くなれるってこと」

パァァァァァァっと嬉しそうに笑った瑠奈。

(これも、力のおかげなのかな?)

俺の目に映っているのは、瑠奈の歌唱能力とピアノ演奏技術が高いことが数値で見えていた。

ギターや、ドラムはできないからだろう、0の数字だが、ピアノと歌唱のところは86という数字が表れていた。

(やっぱり、これは力の影響で見えるようになったんだ。目を凝らすと見えるようになるみたいだな。なら、普段は切っておくか。)

俺は数値の表示を消して、瑠奈と共にみんなのところへ向かった。


父さんと母さん、姉さんに兄さん、みんながライブできる部屋にいた。

(この家、ライブハウスがある!!どんだけ金持ちなんだよ!)

俺は、ツッコミを入れながら、父さん達に聞いた。

「今から何するの?」

「今度、大型のライブをすることになった。玲、瑠奈、お前達にも出てもらう。今日はその練習のため、みんなで演奏だ」

「ら、ライブですか?僕たち、そこまでの実力があるとはとても……」

思えない、そう伝えようとしたら…

「玲も瑠奈も大丈夫よ、最近上手くなって来ていたから。」

母さんに褒められた。普段、あまり褒めない人がだ。

「まあ、出来るなら、最初からやれと言うことだ。では、始めるぞ。上手くなったと言うなら、俺の期待を裏切るなよ」

念を押され、俺は冷や汗をかく。

(とにかく、やれるだけやろう、父さんの期待に応えれるか分かんないけれど…ん?)

手に何か握られている感覚がして、そっちを見ると、瑠奈が手を握っていた。

「お兄ちゃん、出来るかな…わたし、不安だよ…」

瑠奈はとても臆病だ。だから…

「大丈夫!兄ちゃんがいるぞ!頑張ろ!瑠奈」

俺の言葉を聞いて、コクンって頷いた瑠奈。

俺はギターを瑠奈はピアノに座った。

父さんはギターを母さんはマイクを、姉さんはドラムを、兄さんはベースを持った。

「では、始めよう!カウント!」

「1、2、1、2、3!…」

演奏が始まった!


ギターを弾いている時、[ぼく]のころの記憶が蘇ってくる。

母さん達の演奏を初めてみた時、ギターに初めて触れた時、ギターを初めて弾いた時、母さんにダメ出しをされた時、父さんに怒られて殴られた時、兄さんと姉さんの演奏を聞いて自分が惨めに感じた時…そのすべての記憶が流れ込んできて、俺ではない[ぼく]の心が荒れていた。

俺は耐えきれず、[ぼく]に伝えたいことを心の中で叫んだ。

(なぁ…[ぼく]見えてるか?お前どれほど辛い道を歩んできたんだ?こんなにも苦しくなるほど、耐えて来たのか?自分に才能がないって…[俺]からしたら、十分、頑張ってるよ。演奏を見て憧れて、ギターを持って弾いたことが嬉しくて、母さん達のようにできなくて悔しくて、姉さんと兄さんの上手さに嫉妬して…お前、こんなにも才能があったのに…何で…くっ!何で!死ぬんだよ!!死のうって旅立つんだよ!!お前……こんなにも凄いのに…)

この体を借りている俺が言うことじゃないかもしれない、それでも、努力しようとしていたこと、俺にはできなかったことをやり続けていた、ただそれだけで凄いと俺は感じた。無気力にただ、誰かのサンドバッグになって生きて来た俺は、[ぼく]の努力に、過去に、苦しみに涙した。

(安心しろ!お前が心から幸せだと思えるように…俺が代わりに与えてやる!絶対、不幸になんかならねえ!いつか、そっちで会えたら、一緒に演奏しよう…)

心の中でそう言うと、演奏を続けた。


「あ、あれ?」

演奏が終わり、俺は自分が泣いていることに気づいた。

「お兄ちゃん!だ、だいじょうぶ?」

瑠奈が心配してくれた。

「大丈夫大丈夫、目にゴミが入っただけだから……ぐっ、あはは…みっともなかったね、もう、大丈夫!」

俺は目を擦って、涙を拭った。

「ふむ、瑠奈、玲、お前達…」

「「は、はい!」」

「上手くなったな」

「「!!!」」

父さんからお褒めの言葉を初めていただいた。

「これからも、その調子でな、では、今日の演奏は終わりだ。解散」

それだけを言うと、父さんは部屋を出て行った。

終わったー!って言いながら、兄さんが片付け出した。

姉さんが僕たちのところへ来て

「よく、頑張ったね?」

そう言いながら頭を撫でた。

「それと…」

姉さんがまだ、何かを言おうとしていた。

「玲、後で私の部屋に来て」

「え?」

姉さんから呼び出しをくらった。


楽器を片付けた後、姉さんの部屋にやって来た。コンコンコン、ノックをした。

「はーい、入っていいよー」

「お邪魔します…」

俺はそーっと入った。姉さんの部屋は白色の家具が多くて、全体的に真っ白な部屋だった。

「あの、お話って…」

「うん、ずっと聞きたかったことがあるの」

「は、はい!」

姉さんは深呼吸すると、こう言って来た。


      「君は、一体誰?」


         「え?」


俺は今、胃がとても痛いです。何故だか分かりませんが、俺が[ぼく]ではないことが、バレたみたいです。

「ずっと、違和感はあったの、でも、確信は持てなくて、そんな時に貴方の部屋でこれを見つけたの」

そう言って出して来たのは、1枚の紙だった。

「これは……」

「[れい]の遺書みたいなもの」

「え!」

遺書と言われた紙を俺はすぐに取って、呼んだ。


「これを見た時、血の気がなくなったわ」

「でしょうね……」

俺自身もびっくりしたからだ。まさか、遺書を残しているとは……

「だから、私はこれが嘘の遺書だと思ったの、貴方が今生きて動いているから、でも…」

「で、でも?」

「今日、貴方が泣いていたのを見て、確信した。貴方は[れい]ではないのだと。知らない人なんだって、ねえ、貴方は誰なの?」

「……………」

俺はどう説明すればいいのか分からなかった。

「ごめんなさい、貴方のことを知ったとしても、追い詰めたり、母さん達に伝えたりしないよ、ただ、確認したくて…[れい]は今貴方の中にいるの?それとも……」

「すみません、貴方の言うとおり、私は[れい]ではないです。貴方の知る[れい]は……もう…いません……」

「!!、そう…あの子は旅立ったのね……悲しい思いさせていかせてしまうなんて…私は…」

「あ、あの、これを俺が言うのは、違うかもしれませんが…」

記憶の中にあった最後の感情を彼女に伝えた。

「[お姉ちゃんをお兄ちゃんを悲しませてしまう…ごめん、ごめん…僕、何もできなくてごめんなさい、お姉ちゃん、瑠奈を母さんを父さんをみんなをお願い…僕はもう…]そう、言っていたみたいです。俺の中にある記憶がそう言ってます。多分、自分が壊れていくのを、見せたくなかったんだと思います。助けようとしてくれていたことにも気づいていたみたいで、全く恨んだりしないで、旅立ったらしいです。」

「う…ううう…」

俺は[ぼく]が伝えられなかった思いを代わりに伝えた。

「俺、彼の代わりに幸せになろうって決めました。だから、協力してもらえませんか?」

「きょ…協力?」

「はい!彼がしたかったこと、悔いがあるものそれを、叶えて、無くしてあげたいんです。そのためには、俺1人ではできないので…」

「…………」

「ど、どうですかね?」

俺は、彼女の様子を見た。

「……るわ」

「え?」

「やるわ、あの子を幸せにできなかったその責任を、その罪を償うために、あの子が安心して、天国に来世にいけるように」

「!!ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう、あの子のこと想ってくれて…」

「いえ、俺は勝手に入ってしまったので…」


「では、失礼しました。」

俺はそう言って姉さんの部屋から出た。

(まさか、遺書を書いていたなんて、それに、俺のことバレてたなんて…)

俺は、[ぼく]のために、そして、姉さんや兄さん、瑠奈、父さん、母さんのために出来ることは何なのか、考えることにした。


夜、俺は夢の中に入った。


また、真っ白な空間にいた。

(ここ、前にも来た、確か、人がいたような、いなかったような…あ!)

また、前方で立っていた。

「なあ!もしかして、君は…[れい]くんかい?」

俺は可能性のある彼の名前を口にした。

黒いモヤが消え去り、男の子…れいくんが姿を見せた。

「そうだ、貴方が僕の中に入った人…」

「うん…ごめんね、こんなキモいやつで」

「いや、優しいよ貴方は、ねえみんなは元気?」

「うん!れいくんのお姉さん泣いてたよ、君が亡くなったって聞いて」

「…そっか」

「ねえ、俺さ思ったんだよ、君に幸せって何か知ってもらいたいって、でも、俺も幸せが分からないから、どうすればいいのか分からなくてさ…もし、俺がフーリ達と同じ感じになりたいって言ったら、怒る?」

「フーリ…もしかして、白黒の天使?」

「う、うん!知ってたんだ…」

「死んだ後、会ったから」

「そっか…」

「いいよ、多分できると思うから」

「うぇぇ!いいの?」

「僕も音楽に関わりたい、それに君がいれば、僕の見れなかった景色が観れると思うから」

「分かった。でも、どうやるの?」

「この夢の世界から出ると、僕は君の体の中に潜む。心の中で、僕に話しかければ、僕と会話する事ができる。入れ替わることもできる。」

「マジか!すご!なら、それでやろうか、よろしくな![ぼく]」

「よろしく、[俺]」

俺の意識がまた、消えて行った。


※あとがき

なんとなんと!![れい]と[玲]が合体しちゃった

そんな2人が、これから、受ける試練とは?

次回をお楽しみにー

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