2:ワオン(拳聖)VSコウベ(巻物)

 巨大映像空間の中、”簀巻きスマキ系ファイター:米沢首ヨネザワコウベ”の足下に追従スナップする白い丸。


 そして、もう一つ。対戦申請受理受けて立ちまぁすよぉと同時に、”猫耳拳聖にゃんばる”に追従いたくっついた白い丸。

 それは、暴走した”自動屋台ディナーベンダー”が、飛ばした白線表示しろまるによく似ている。


 二つの白丸は、弧を描く白い点線・・・・・・・・で連結されている。

 それは、モノケロス戦でNPC米沢首ヨネザワコウベの体表面に現れた、配線パターンによく似ていた。

 点線は、双方・・の位置取りにより、刻々と、曲がり具合を変化させていく。



 一方、シルシの1メートル先の空中に、浮かんでいる『格ゲービュー』。

 サイズ的には、アーケードゲーム機筐体に付けられている、32インチのワイド積層モニタと同程度。


 そこに表示されているのは、地面を切り取る曲線を軸辺として、横から捉えた映像だった。


 正確に表現するなら、こうなる。

『2プレイヤー間を繋ぐ、リアルタイムに算出される、”ベジェ曲線”。

 ソレをまっすぐに伸ばした状態イコール格ゲービュー』。


「それじゃぁ、いっきまぁすぅよぉおっ!」

 にゃんばるは、簀巻きコウベへ、一瞬で駆け寄った。

 足の裏から、推進剤の燃える青白い炎が飛び出ている。

 ダッシュと同時に、上体をウェイビング。

 その流れのまま繰り出された、ジャブのような変則パンチ。


 ガコン。

 シルシは、レバーを後ろへ入れ、ガード状態を取った。

 簀巻きコウベに到達した一発の拳が、3発程度のヒットエフェクトを発生させた。

 座るサイボーグシルシの尻の下、トゲ付きの白丸が、ゆっくりと回転している。


 拳聖のジョブ名は、伊達ではなかったらしい。

「ネッコブロウぅ、3連ー」

「からのぉ……ヒジ暗器ぃコンボぉ!」

 ガシャコン、ドドドドッ!

 超至近距離の3連撃。その攻撃による、硬直状態中に、肘先に飛び出した小銃から弾丸が発射された。

 ガキュン、ガガキュン、チィイン!

 シルシはレバーをガード状態にしたままだ。


 ”にゃんばる”の操作は、スターバラッド標準のバトルシステムに寄るものだ。パワーアシストが付いた超人スーツを着た感覚で、実際に生身の体では不可能な速度での移動や、跳躍力を発揮している。

 フルダイブ中の体の操作は、その外装に慣れることで、最大限のポテンシャルを発揮する。

 以降あとは、ゲーム内での、ステータスアップにより、外装の能力を上昇させていく事になる。

 スターバラッドの取扱説明書トリセツに書かれている事だが、読まなくても当たり前に理解されている基本だ。


 派手な跳弾エフェクト。簀巻きコウベは衝撃を受け、後ろへ下がるノックバック


「白ダメ、すっげーゼ!」

 刀風カタナカゼが、”にゃんばるワオン”の攻撃力を褒める。


 トグルオーガのバトルシステムでは、攻撃をガードされた場合でも、体力ゲージを減らすことが出来る。ただし、ヒットした場合と比べたら、微々たるモノだ。

 にもかかわらず、そこそこの減らし具合けずりを見せた、環恩ワオンの攻撃力は、なかなかのモノだったのだ。


 だが、その白っぽく減った状態、”白ダメージ”は、時間経過とともに回復していく。

 そのうえ、回復しきるまでに、攻撃をヒットさせられなければ、その”白ダメージ”は水の泡となる。


 それでも、白ダメージを累積し、有効打を叩き込もうと攻撃するのは、格闘ゲーム『トグルオーガ』のプレイスタイルとして、有効であり、基本だった。

 白ダメージを維持したまま、有効打を当てた場合、白ダメージは即座に実際のダメージとなる。


「こっちも何かないか!?」

 コン!

 シルシは、にゃんばるへ向かってジャンプした。

 ペチ!

 そして繰り出された、ボタン入力。


 ジャンプ攻撃:ダブルニーパッド!

 >ひざをわずかに曲げただけの放物線。

 ゴツン!

 猫耳ヒューマノイドに、ヒザ蹴りが命中した。


 ペチ!

 続くショートレンジショルダータックル。

 >直立不動のまま、斜めになっただけ。

 ドガッ!

 連続して攻撃が命中する。


 ペチ!

 さらに続く頭突き。

 >折れ曲がっただけ。

 バゴンッ!

「うにゃぁぁぁっ!」

 拳聖はった。


 ガゴコン、パパン!

 トドメに、ドロップキック。

 >直立不動のままだが、横になった分だけ攻撃のリーチが伸びた。

 ドゴォォォン!


『FIRST ATTACK!

 4HIT COMBO!』

 すべての攻撃が繋がり、4連撃となった。

 例外はあるが、連撃コンボ中は、敵に割り込まれることはない。

 大ダメージを奪うために、コンボの初撃を狙うことも、プレイスタイルの基本だ。



「おお! コウベの野郎め、簀巻きのてもあしもでない癖に結構、コンボ繋がってくれる!」

 ガッツポーズのシルシ少年。

 ”にゃんばるワオン”は、盛大に吹っ飛んだが、空中で立て直し、華麗に着地した。

 白ダメージが回復して、簀巻きスマキサイドの体力ゲージは、再びMAX満タンになった。


「おっまえ、技表も無えーのに、よくコンボ繋げられるゼ!」


「技の見た目の長さリーチ順に、小技から出してみただけだけどなっ!」

 グリグリグリグリ、ペチペチペチペチン!

 レバーと、ボタンを、無意味に操作している。気持ちが乗ってきたようだ。


「……なんか、ふつうに格闘ゲームになってるわね」


「ほんと、びっくりだゼ。でもまあ、こっちの3D空間じゃ、結構、間抜けにも見えっけどな」


「直線的゛な攻撃゛まで、……横゛に避゛よ゛けずに、……きっちり゛回避し……とり゛ま゛すから゛なあ」


鋤灼スキヤキ、……2D格ゲーの利点って何なの?」

 禍璃マガリのオネエ声を聞いたシルシは、レバーをココンと進行方向まえに倒した。

「それはな、―――」

 荒縄ぐる巻きヨネザワコウベは、器用にも直立不動のまま急接近ダッシュした。


「―――これだ!」

 シルシは、近距離から、にゃんばるくいなへ飛びかかる。

 そのジャンプ攻撃の軌道は、にゃんばるを通り越して反対側に着地す―――る直前に、ヒザ蹴りが命中した。

 背後のにゃんばるへ、なぜか攻撃が命中し、簀巻きシルシは投げモーションに入る。


「えぇーーー!? なぁんでぇでぇすぅうぅかぁぁぁっ!?」

 彼女からしてみれば、自分を飛び越えたはずの相手から、不可能なはずの攻撃を食らったようにしか思えないだろう。

 そういうトリッキーな背面攻撃技もあるだろうが、一般的ではない。

 環恩ワオンは、投げ飛ばされ、ダウンした。


『2HIT COMBO!』


「『メクリ』どすな゛。……攻撃判定の゛形状゛の゛……せい゛で、後ろ゛に攻撃……゛が当゛たったみ゛たく……み゛えるっていう゛」


「お、歌色カイロちゃんは格ゲー判ってるゼ」

「メクリがないと、『2D格ゲー』って感じがしないからな~」


「あれぇ? 起きあがぁれぇなぁいぃー?」

 地面に倒れ込んでいる、猫耳ヒューマノイドが、口を膨らませた。

 スターバラッドのバトルシステムとは違って、タイミング良く起きあがらないと、一定時間のダウン時間を取られてしまうのだ。

 格闘ゲームの対戦システムとしての、根幹の部分だけは、トグルオーガに合わせてあるようだ。


「でもそれだけ? 一本線の上しか動けないなんて、不利なだけじゃない?」


「それがな、そう不利なことばかりじゃないんだなコレが」


「どういうことよ?」

「え? なんか有利な事って有るか?」

刀風カタナカゼ、お前まで、何言ってるんだよ」

 シルシは、再び、レバーとボタンを、グリグリペチペチしている。


「相手との攻守を、”距離”で一元化できる!」

 再びコウベをダッシュさせ、起きあがる寸前の環恩ワオンに密着させる。


「距離の一元化?」


「間合い管理の事か?」

「―――そうだっ!」

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