6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その10

 ぎゅるりっ!

 ―――ねじれた少女コウベが、元に戻っていく。

 地面についていたひざが、苦もなく持ち上がり、構えたひじが、敵を正面にとらえる。

 少女はつかんでいた手首を、開放リリースした。


 ヴォン!

 前腕と上腕。その間に発生した、爆発的な反発力・・・

 曲がる関節ひじを境に、電流の向きがになる為に発生する、電気的な駆動力だ。

 ナックルガードは、今までの直線的な加速ではなく、ひじ関節の自由度に沿って、射出され、振り下ろされていく。

 腕に浮かぶ黒い点線。コスチューム表面を切り取る謎の配線パターンの、ほとんど全部が黒くげていた。

 そのせいか、オレンジ色の放電は整頓せいとんされず、所々、放電が切れかかっていて、全身にまとうオレンジ色はまだらになっている。


「表面の配線パターンはボロボロだけど、裏地のぉ、昇圧回路しょうあつかいろ、……画素による手製の・・・・・・・・雷撃発生回路・・・・・・はぁ、かろうじて大丈夫ー、みたいですねぇー」


「あの、”切り取り線てんせん”ってさあ、……ヒソヒソ……”自動屋台ディナーベンダー”の……ヒソヒソ」

「そうね……”自動屋台ディナーベンダー”が飛ばしてきた・・・・・・マル”に似てるわよね……ヒソヒソ」

「そう考えっと、……ヒソヒソ……ちょっと物騒ぶっそうだぜ……ヒソヒソ」

 ”自動屋台ディナーベンダー”に関する一連の事件は特区条例に基づいて、取り交わした契約条項により、”特区外秘まるひ”となっている。


 ―――上半身の回転によって、斜めに振り下ろされる拳。

 ひづめの先端にピンポイントで打撃を与え、青黒い雷撃の直撃を回避した。

 チィーーーーーッ、

 遅延信管は正常に作動し、弾かれた青黒いひづめは、即座に距離を詰めてくる。


この技・・・、さっきも使った―――」

 コウベは体が回転するまま、回し蹴り・・・・を放つ。

「―――のと違う・・!?」

 シルシは近影カメラにもなってる”金属球”を、コウベの全身が映り込む位置で自動操縦オートに切り替える。

 白焚シラタキの操作していた”金属球”も、遅れて、一角獣モノケロスを追従する。

 プロトたんの、両サイドに『米沢首ヨネザワコウベ』と、『MΘNΘCERΘSモノケロス』の全身映像が固定表示された。


 その映像の中で大写しになった、コウベの蹴りは、上体の回転に相殺うちけされ、腰を回す力が入れられ無かったようで、失速していた。

 振り抜けなかった脚を、そのまま、ヒョロヒョロと下ろす。何とか、得意の裏拳バックフィストを放つが―――


 裏拳を、このまま振り抜くと速すぎて、一角獣モノケロスには当たらない・・・・・。それどころか、一角獣の”ダブル後ろ脚”を、カウンターで食らってしまいそうだ。

 コウベは、肩を回転と逆方向に入れ込み・・・・・・・・、真っ直ぐ伸びた腕を、その場に残す・・・・・・

 それでもタイミングが早すぎて、命中しそうに無い。

 踏み降ろしたばかりのコウベの蹴り足へ、環状放電リップルスパークが、大量に流れ込んでいく。


 バリバリバリリッ!

 ドゴッ!

 直線的に射出されたブーツのかかと。わずかな距離ながらも爆発的な速度を、余すところなく接地面に伝えようと、靴先つまさきに入るちから

 コウベは、降ろしたばかりの、不発のキックを”電磁加速リニア”で直下へ射出。”回転スピン”をかかと踏んで・・・押さえ込んだ。

 ーーッ、ピピッ♪

 ようやく作動するナックルガードに搭載された信管爆破スイッチ


 シュドドドドドドドドドッ、ガアン!

 ガコーンッ♪


 爆音に混じる、クリティカルヒット効果音SE

 プロトたんの、背後、コウベの迎撃技を、図解説明する、ガイドパネルが更新される。

 キックを正常に撃てなかった為、”裏拳の攻撃判定”を持続した結果・・・・・・、クリティカルヒットが叩き出された”と言うことらしい。


ひねった体を戻す力で、連撃を叩き込もうとしたら、タイミング合わなかった? ……みたいだぜ」

「でも、そのお陰で、クリティカル出ちゃったってこと!?」

 刀風カタナカゼの座る座席に、取り付いていた禍璃マガリが、唖然あぜんとしている。


「だから、……こんなん、……教えてへん……のやけど」

 そして、”コウベ設計師たこ焼き大介”は、設計に無い行動を再び愚痴グチってる。


 パリン。パリン。

 コウベの胸の、時計の針で言えば4時半と7時半の、赤い三角ロックオンマーカーが消えた。

 だが、一角獣を包み込む青黒い、”当たり判定凶器”は、なおもコウベに接近せっきんする。

 はじかれた一角獣モノケロスは、後ろ脚を引っ込め背を向けた・・・・・

 そして、後ろ足の内の一本を、横から繰り出してきた。その脚には青黒い濁流だくりゅうが、際限さいげんなく流れ込んでいる。

 ―――鹿ソバット・・・・・だ。


 3撃目までは、何とか防いだが、コウベが置かれた状況は最悪だった。

 流血でふさがれてしまった左眼側の、削られた視角。

 不発の蹴りで、崩れたバランス。

 裏拳を放ったばかりで、直ぐに撃てる次弾も無い。

 ”重力補正”による、自重コントロールをもってしても、脚が伸びている状態では、次の行動に、数拍すうはくの、遅れが生じる。


 ピピチュイ♪ ピッピチ♪

 小鳥が、試作コード65が、直上を見上げ、何か言った。

 見つめ合う少年と小鳥。

 その丸い眼は、やや、吊り上がり、「ソコだ! 叩き込め!」と息巻いている様に見えなくも無い。


「コウベ! な何でもイイ! 有りったけ、ぶち込めっ!!」

 シルシが、顔を上げ、公園中に響くほどの大音量で、叫んだ。

 驚く、VRE部一同&管理者。

 金属球を介し、シルシの声は、米沢首ヨネザワコウベに、届いたようだった。


 ゴウンン―――輝く頭上の真空管ブラックボックス

 少女の身体のどこか、何かの機能に、大量の送電が開始された。


 裏拳から吐き出された”オレンジ色の爆炎”は、まだ放出していて、回転をわずかながらも継続させる・・・・・

 背骨を軸にして回転する半身。

 ひづめを避けるため、上体を後方へ反らす半身。

 両半身はつながっているため、自然とコウベの手足が開く形・・・になる。開いていた左手にナックルガードが再装填リロードされた。


 突き出される凶器ひづめから逃れようと、コウベは、更に上体を反らせるが、両者とも、今の攻撃ではヒットバックせず、中々、距離が開かない。

 これはコンボ扱いの後ろ足3連撃で―――、とプロトたんの解説が入る。


 右眼を凝らし、モノケロスの一点を見つめる、美少女の頬を、演出効果の汗が伝う。


 カカカカッ!

 真空管ブラックボックスが、光量を増し、少女の姿が掻き消える。

 今回の爆発じみた光は、”強すぎる光で出来た放射状の影”をも、飲み込んでしまった。

 チィーーーーーーーッ、信管の作動音だけが会場に届く。


「見えへん、……でっしゃろ! 続きー見せ……とくれやすー!」

 と、歌色カイロは”映像空間決戦場”に瓶を投げる。

 観客達ギャラリーも、”超小型銃”や”特選おやつ”や”空き瓶”なんかを投げ始める。

 『決戦中に持ち込めるのは、パーティーメンバー間のチャット経由の”各種起動コマンド”程度に限られます。』

 『それ以外の、VRアイテムはすべてイベント主催側で回収し、設営費用に当てられます事をご了承ください。』

 という注意ダイアログくらいしか見えなくなる。


 消える瞬間のポーズは奇妙なもので、上半身を低くしたまま、地上でクロールの息継ぎをしているかのような。


 ピピッ♪

 シュドドドドドドドドドドッン!

 バリーーーーーーンッ!

 光に包まれている中、蹴る一角獣と、殴る少女が激突した瞬間。

 かすかに見え隠れした、ソレ・・を目撃し、シルシは、声を出す。

 次いで刀風カタナカゼも、声をあげた。


 光の幻惑が薄れ、半歩押し戻された位置へ、姿を現した少女コウベ

 左右入れ替わったが、光にくらむ前と、だいたい同じポーズで立っていた。左拳、左ひざ同時に・・・前に付きだしている。

 頭の上の真空管ブラックボックスは見事に粉砕され、土台の金属部分と壊れた内部構造を残しているだけだ。


米沢首ヨネザワコウベ__/LV0』

『HP_1/50』

 少女の頭上の表示HUDに変化は無い。


 一角獣モノケロスは、コウベの前に座っている。

 しかも、女の子座りっぽく、ペタリ。


「―――何があったのよ!?」

「―――わからん……どすな!」

 ―――ガヤガヤガヤガヤ!?

 勝敗を決する一瞬が見られなかったために、右往左往する、女子部員2人と観客達ギャラリー


 VR専門家ササキワオンと、運営サイドのシステム管理者シラタキルウイは、デバッグツールを展開し、滝のように流れていく、ログやシステムメッセージと格闘している。


「おい鋤灼スキヤキィ、……こいつぁ・・・・!?」

「おう刀風カタナカゼェ、……間違いねえ・・・・・!!」

 そんな中、男子生徒2人には、なにやら、思う所があったらしい。

「「―――必殺技だっ!」」

 声を揃えて叫んだ!

 ―――へー、必殺技かーそりゃ凄いもんだなあ。ガヤガヤ。

 ―――お嬢ちゃん、やったじゃないのよさー。キャアアア。

 シルシ達の声を聞いて納得している観客達。

 現に、米沢首ヨネザワコウベは運営サイドの管理下の中、レギュレーションにのっとって、―――とうとう青い獣を追い詰めたのだ。問題も文句も無い。


 ただ、女子部員2名は、

「ちょっと、必殺技ってどう言うことよ!?」

「なにか、……見えたん……どすか!?」

 とシルシ達に詰め寄っていく。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_1/6400000』

 ビロロロ。

 獣の頭上の表示HUDが変化し、頭の上で星が円を描く。

 敵は絶賛気絶ぴより中だ。

 フラフラしている鹿頭、垂直に立つ巨大なツノ。


 沸き上がる歓声の中、米沢首ヨネザワコウベは、右拳にナックルガードを再装填リロードする。

 怒号一発ギャーッ! 繰り出される光点無しの、正拳突き。


 ごつん。

 ドズズン!


 パリン。パリン。

 コウベの胸に残っていた、赤い三角ロックオンマーカーが、時計回りに、全て消えた。


 落ちたツノは、アイテム在中入りののコンテナに変化し、米沢首ヨネザワコウベは、真後ろへ倒れた。


『YOU SUCCEEDED IN DESTRUCTION OF THE BOSS MONSTER.』

 ピロン♪

『〝MΘNΘCERΘS:LV52〟 WAS DESTROYED.』

 ピロロン♪

 勝者を称えるファンファーレと共に、決戦終結のダイアログが大量に表示されていく。


 最近では、その実在さえ疑われて始めていた、超レアキャラPLOTーANが右手をかかげ、高らかに宣言する。


勝者ウィナー、―――」

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