2:決戦準備その2と、そのころのシラタキ

「何だとう? 小鳥の癖に生意気だぞ!」


「ザザッ―――試作コード68、……やのうてコウベ・・・、……試作コード65やのうて……小鳥コトリは、何て言うて……はりますの?」

 映像空間からの音声には通信距離の、隔絶や距離を表現するために、ノイズが入ってしまう。映像自体も低FPSでカクツキがあって、余り快適とは言えないが、解像度自体は高いので、意思の疎通そつうに支障は無い。


設計師カイロの、頼みじゃ仕方ない、おやつ100個で教えてあげる」

 胸を、反らせてふんぞり返る、コウベ。

 設計師:たこ焼き大介、もとい、項邊歌色コウベカイロの”初期ボディー”に、瓜二つ、SFテイストでピタピタのコスチューム。一部スタイル補正が掛けられている様で、禍璃マガリ歌色カイロと比べれば、胸元にボリュームがある。ぷるぷると揺れる動きから、眼を逸らせずにいたら、映像空間からの圧禍璃の視線を感じたようで、シルシ少年は、即座に立ち上がり、尻の土埃つちぼこりを払った。


「ザッ―――コウベオマエ、いっつも無料ただで通訳してくれてんじゃんか」

 勿体付けるNPCにツッコム、魔女っ娘カタナカゼ


「ザッ―――じゃあ、それ教えてくれたらぁ、見事ぉ、モノケロス討伐成功の暁にはぁ、あなたたちNPC組にー、特選おやつをー100個進呈するって事でぇー、どうかしらぁ? ……確か、作り置きのが、70個くらい残ってたはず」

 折衷案のような申し出を、切り出す、VR専門家にして、『VRエンジン概論アウトライン』特別講師。又の名を笹木環恩ワオン、現在、メカ猫耳を付けたヒューマノイドと化している、推定25歳。


「いーよ! じゃあ、教えてあげる。『コウベだけ、おやつ貰えるのはズルイ!』 だってさ! 生意気~!」

「ザザッ―――なんだよ、そんなことかよ。勿体ぶる事じゃねえぜ」

「ははは、まあ、LV差52は半端じゃ無えだろ。どうせ、おやつは無しだ」


「■《ワルコフゥ》ソウイエバー、シルシキュンノー、バトルレンダーノ解析ワー進ンデルノー? ネエ、環恩ワオンチャアン?」

 ワルコフは、飽きてくると、ふざける。具体的には、模索中のキャラ作りを披露し出す。


「ザッ―――鋤灼スキヤキ君のぉ、データログも見せて貰ったけどぉ、キャラクタアカウント設定後のしか、無かったからー、重要な発見は無かったのですぅー」


「ザッ―――おい。宇宙服ワル、笹ちゃんに気安いぞ?」

「ザザッ―――あんたも、気安いわよ!」

 ひっぱたかれてる音が、映像空間を通じて届く。


「ザッ―――バトルレンダ起動時・・・のぉ、ログを見ればぁ、構造の概略・・・・・とぉ、主機能の詳細・・・・・・とぉ、使用方法・・・・が判明しますぅー」


「ザッ―――はぁ、……先生センセは、又、……凄まじくむつかしい事を、……気軽に……言いはりますなあ。……じゃあ、鋤灼スキヤキはんが、……もう一回、謎の、……余剰リソース解消バトルレンダモード……を起動させてくれたら、……ええんどすな?」


「ザザッ―――ええ。でもぉ、今回はぁ、バトルレンダはぁ無し・・で、お願いしますぅー」


「ザッ―――さっきしてた、鋤灼スキヤキたちの、LVUPの為には、正攻法で、真っ向勝負した方が、特だぜって話か?」


「ザッ―――鋤灼スキヤキ君たち自体がぁ、スターバラッドのボス戦に慣れることもぉ、もちろん重要でーす。ですがぁ、今回は”ボス戦なんてぇ、負荷のかかる環境でぇ、より高負荷なバトルレンダをー多重に使用することになったらぁ、エリアごとクラッシュぅしかねないからでーす」


「ザッ―――クラッシュ? なんか、有ったわねー。会話型NPC1体が、高難易度のクエストをクリアした後、クリアイベントほったらかして、消えちゃって、タスクが滅茶苦茶になっちゃった、とか何とか」

 映像空間の中で海賊が、頬に手を当てて、考え込んでいる。


「ザッ―――PLOTーANプロトたんと言い、そいつと言い、スターバラッドは大丈夫なんか?」

 心配する刀風カタナカゼに、項邊コウベは言った。


「ザッ―――だから、……あてぇ達、……VR設計師に、……御鉢おはちが回って来た……のとちゃいますか? 刀風カタナカゼはん」


「ザザッ―――そりゃそうだ。歌色カイロさんの、言うとおりだぜ」

 結局、米沢首ヨネザワコウベは、”コウベ”。

 |項邊歌色コウベカイロは、”項邊コウベさん”や、”たこ介・・・”ではなく、”歌色さん・・・・”と呼ぶことになったらしい。


「ザッ―――いややなぁ、……刀風カタナカゼ君。……同学年やないの、……歌色カイロって、……呼び捨てでもかましまへんえ」

 映像空間の中。歌色カイロの背後に立つ、海賊が、やや、渋い顔をしている。


「ザッ―――じゃ、俺は、……歌色カイロちゃんって呼ぼうかな」

「ザッ―――そうどすか? なんだか、……照れますなあ」

 流石と言わざるを得まい。天性のイケメンは、又もや正解を選んだ。


「あのー、ワルコフの野郎が、フザケ始まってるんで、そろそろ……」


「ザッ―――もうー、行きますかぁ? 時間無いしねぇ、まあぁ、ダメもとでぇー」


「ザッ―――そうね、まあ、鋤灼LV0だからって、瞬殺って事もないでしょう?」

 午前中、鳴き声だけで、撃破されたことを、忘れている。


「ザッ―――そうだぜ、鋤灼スキヤキだからって、そう、諦めんじゃねえぜ」

 もはや、LVではなく、本人の性能スペックに、疑問があるらしい。


「ザザッ―――鋤灼スキヤキはん、あんじょう、おきばりやす!」

 はんなりした口調で、応援してくれている歌色カイロ。口角が上がるシルシボーグ。

「特にウチの……試作コード65やのうて、小鳥・・だけは、……撃破消失ロストせんように……守ったってや」

 はんなりした口調で、強く・・懇願され、口角がやや下がるシルシボーグ。

「まあ、試作コード68……やのうてコウベ・・・は……放っといたって……かましまへん」

 ……重要度はやはり、”コトリ>コウベ”の様だ。


 ダンボール質感の地面に置かれた、決戦申請証エネミーチケット

 その大きさは、昼食時のそれとは違って、パーティー全員が楽に・・・・・・・・・・乗れるほどの大きさ・・・・・・・・・だった。第珊VR教室の座席に付いてるスキャナボックスに投函したままの、デザインでソコにある。

 決戦申請証エネミーチケットに印字された、受諾ボタン。

 シルシは、カーボン装甲で包まれた、ブーツのつま先で、ソレを踏んだ。


 その横に、積み上げられている、山のような銃。

 その横に、置かれたように鎮座ましましている、顔の長い猫達。

 その横に、環恩ワオン歌色カイロの手による、強そうには見えない数点のアイテム。

 シルシの目の前、決戦の場に、有るのは、それだけだ。

 あとは、なんか、遠くから届く、獣の雄叫び。


 シルシボーグは、足下の床に落ちている、もう一つのモノ・・・・・・・に気がついて、拾い上げた。

 それはギザギザした円盤ギヤ状の木板で、断面が透けて見えた。



   ◇◇◇



「小型ボスの中では最難関の、”MΘNΘCERΘSモノケロス”。信号途絶ロストして1ヶ月。まっさか、こんな所に・・・・・隠れてるとはねぇーん。シルシ君の血は争えませんねー。ほんっと、秀逸にして数奇に満ちあふれすぎでしょうー」

 腕を組み、往来の真ん中で、高らかに1人ごちている。


 そのウェイトレス、タンジェリンオレンジのカーディガンを羽織り、腰に巻かれたエプロンを、シュッと外す。

 そのウェイトレス、前髪にくしを入れ、髪を引っ詰めていた黒リボンのシックな髪留めバレッタを外す。

 そのウェイトレス、は丸眼鏡という最後の変装を解き、ヘッドセットを装着した。

 ”VRE研究部”とは日は浅いが、そこそこ交流のあるその人物が完成・・した。


 スターバラッド運営にして、特区のシステム管理者シスアド

 推定……27歳……位? 一見優しげで、巻き毛モコモコ美人。内面が見え隠れするような、つり上がった目尻。深くスリットの入ったリクルートスーツタイトスカート

 ガガン。周囲の通行人が、振り返るほど、強烈に歩道を踏みならし、仁王立ち。

 白焚畄外シラタキルウイが、ソコにいた。


起きなStartさいUp

 背後の空間に”自動屋台ディナーベンダー”が出現する。

 視線の先には、シルシ達のいる、学園β。


 コツコツコツと、ソールの音を響かせ、歩き出す白焚シラタキ

 いつものヒールは、履いていない。ウェイトレスにヒールは無理があったのだろう。

 そして、カフェレストランでの給仕は、隠密行動ではなく、単に、趣味のバイトであったと思われる。


「行くわよ! 赤点號RED・NODE!」


 背後のノイズ混じりの・・・・・・・自動屋台ディナーベンダー”が、ヘッドライトを点滅させ、無音で歩き出す追従

 その全身は、明るいビビッドな赤で、覆われてカラーリングされていた。

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