4:SIGN†OGRE爆◯!

『ROUND36』


 結論を先に言えば、キャラメイクはことほか、難航していた。


「ザッ―――そこで、キャッ@C装備@Eして……コレを投げ@Tたら……」

「ここで、『@C @E』して、アレを『@C』したら……」


「ザッ―――全力で倒されますえ・・・・・・・・・!」

「全力で、倒すぞー!」


 4頭身のコウベ可憐なワンピース姿が、ぽきゅぽきゅるると、裸足の音をとどろかせ、全力疾走@F @Fしてくる!

 映像空間パーティチャットの中、映り込んでいる対戦空間の中央あたりに、張り付いてるメカ猫耳。

「ザザッ―――きゃぁー! ガワイーッ❤」


 迎え討つは、『ガトリング・マシーナリー』。点滅する図鑑のページと、瓜二つの4頭身ハンサム

 奥行きのある対戦用映像空間の背後、胡座あぐらをかいて座りこんでいる、約7頭身の彼は、締まりの無い顔を、ハンサム顔に点滅させている。


「ザッ―――あと20秒だぜ!」

 映像空間パーティチャットの中で、手に汗を握る、魔女っ娘カタナカゼ


「うおおおおおおおっ!」

 叫ぶ彼は、大きめな、顔の長い猫に、おいでおいでをしている。

 叫ぶ声に、恐れをなし、後ずさる。おいでおいでにつられて、歩み寄る。

 その、行ったり来たりは、なんか別のダンスに発展しそうな気配。


 映像空間パーティチャットから、こっちを覗き込んで、眉間にしわを寄せる、筋骨隆々の海賊ササキマガリ

「ザッ―――こら鋤灼スキヤキ手に汗握るのか、猫をかまうのか、どっちかにしなさいよ」


 シルシは、行ったり来たりする猫達を見てから、そうだな、と手を引っ込めた。


 キャラメイクに本来利用できる、基本的なパーツ種別ごとの、位置合わせ機能なんかが、当然のように、シルシには適応されなかった。

 ROUND32にして、初めて両手両足頭と体が、規定の位置に装備できたくらいだ。

 ちゃんと、キャラ身体パーツが揃うまでは、毎回、試行錯誤が必要なのだが、揃ってしまえば後は、シルシがコウベ(アバター)を倒すだけだ。

 データウォッチへ入力してある、連続コマンドをチャットウインドウへ流し込んだら、ROUNDタイムアップまでに、勝敗が付くことを、願うだけ。


 ROUND35で、引き分けドローを達成。アイテムや装備の正式譲渡にはいたらず、落胆。

 それでも、今のは惜しかった! ってことで、早速、綿密な手順の最適化を行い、先行入力を、突き合わせ、詰め将棋のように解法を導き出した。


 受け取り、装備してアタックするのに、3コマ。

 キャッチして直接アタックすると、2コマ。

 前者は、攻撃力にして1/10ゲージ。

 後者は、攻撃力にして1/14ゲージ。


 1攻撃に対して、1入力分の、節約に成功。

 単発銃を使用して、7割程度当たる攻撃に対し、直接、単発銃を投げて、ぶち当てた時の攻撃力は低い。だが、ほぼ100%命中する。

 命中率を勘定に入れなくても、単純な、攻撃回数だけでも、倒しきるか切らないくらいで、あとは、直接攻撃の方が、総攻撃力が大きくなっていくはず。たぶん。


 あとは、コウベ4QUARTER HEADS頭身 HIGH GIRLを、撃破するだけだ。


 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

 ガチャッ、ぶん、ボゴン!


「ザザッ―――やめてぇ。やめてあげてぇ! コウベちゃんのぉおでこが真っ赤ぁ!」 映像空間パーティチャットの中で、猫耳ワオンが、骸骨リアコウのオデコに手を当てて、泣きながら懇願している。


「ザッ―――姉さん。これゲームだから。しかも、これミニゲームだから、本人関係無いでしょーがっ」

 体格の良い海賊男が、細身のメカ猫耳を背後から羽交い締めにした。


「じゃあ、俺のキャラが無事出来たら、真剣勝負っを、1回やるってのはどうですか?」


「ザザッ―――手抜きなしぃー?」

 肩の力がゆるんだ風に見える映像空間パーティチャットの中の、猫耳。


「ザッ―――それ、いいどすな……いっちょ、稽古でも……つけてあげましょか」


 ガチャッ、ぶん、ボゴン!

YOUゆぅー_LOSEるぅーず!』

 えっ!? 負けた!?


 一瞬目を離した隙に、何か、手順違いでも起きたのかと、慌てて、対戦空間へかじり付くシルシ。その姿は、パーツ図鑑の中の、『ガトリング・マシーナリー』とほぼ同じで、その顔は、締まりの無い少年の顔に、点滅して……切り替わらない。


YOUゆぅー_WINういぃん!』

 パッパパパパパパパパーン♪


 何か、不測の例外処理でも、間に入ったのかもしれない。

 一瞬遅れて、シルシの勝利が称えられた。

 映像空間パーティチャットの中の、対戦画面の負け表示が一瞬先に処理されて彼の耳に届いたのだ。


「あっぶねー! 一瞬、また何か、手順ミスったかと思ったー!」


 よし! 出来たー! やっりー!

 と新しくなった自分の体を、大喜びで、動かしてみるシルシ


 手のひらをひらひらさせた後、顔をまさぐり、ペチペチと両頬をはたく。

「あ、こりゃ、基本ヘッドか!? あせった!」

 腰をひねり、ブーツの踵や、膝の裏や、ふくらはぎの複雑な機構などを注意深く見ていく。猫達のフサフサした色も、どういう仕組みか解らないが、ちゃんと両腕の太めのラインに沿って、グラデーションになるように移植されていた。


「ザッ―――”自動機械化マシンナイズドサイヴォーグパーツ”は、後から送りますよって、ひとまず、1キャラ分のパーツ装備、うまく行きましたなあ!」


「点滅しないし、もう、ちゃんと、俺のボディーになった実感がありますよ?」

 腕の部分に、HUD表示がでているのに、気づく。

「あれ? なんか腕の中身が動きそう・・・・・・・・・?」

 実際に、腕の中から、内部構造が動く、振動や音が伝わってくる。

 作動はしているが、その動力を実際に伝達する、大事な部分が抜けているのだ。

 彫りの深い俳優顔の、眉間にしわを寄せていると、


「ザッ―――でもぉ、キャラクタアカウント作成ダイアログがぁ、でないわねぇ」

 再び映像空間パーティチャットに、舞い戻ってきた猫耳が、メカなのに、器用に口を尖らした。


「そっか、キャラクタアカウント、出来て無えから、中身・・が動かねえのか」


挑戦者現るニューチャレンジャー!』

 ズダッズッダン♪


「ザザッ―――なぁんどすか!? ……キャラメーカーズには、……こんな仕様有らしまへんえ!?」

 慌てる悪夢の処刑人美少女設計師


 奥行きのある対戦画面のちょうど中央。最初に出てきたタイトルロゴと、同じフォントで書かれたソレが、爆発する噴煙のように、モコモコと膨らむ。

 そして、噴煙が凝縮逆再生して、アレになったモーフィング

 ついさっき、勝敗表示が遅れた原因の例外処理


「「「「ザザッ―――ワルコフ!?」」」」

「ワルコフ!?」


 対戦空間の中の宇宙服は、対戦空間の片奥で、尻を突き上げヘタり込んでいる美少女キャラを見やる。その上に、ピヨピヨと浮かぶ『YOU_LOSE!』。

 敗者に用は無いとばかりに、4頭身の ガトリング マシーナリーを振り返る宇宙服。宇宙服ワルコフも4頭身なので、いつにも増して、シルエットが丸っこくて、立体的な落書きにしか見えない。


「うわ」

 シルシから漏れた声。

 そんな声が漏れるのも仕方がないだろう。

 その宇宙服の顔色・・は、とても悪かった・・・・

 とてもとても悪い色合い・・・・・をしていた。

 ここ、特区、ひいてはVR空間内部でも、例外ではない、明るい赤色・・・・・


 強い疾走感を伴う情熱色。そして―――ホラー映画や、Z指定のゲームインタラクティブでお馴染みの、”血”を表現する色。ただし、俗に言う”動脈色”というやつで、かなりビビットな鮮やかな印象を受ける色合い

 だが、ここにいる、メカ猫耳と、魔女っ娘と、工場出荷ロールアウトしたばかりのハンサムサイボーグは、その色の具体的な意味を直接・・体験していた。


「ザザッ―――ワ、ワルさぁん!? い、いけませんよぉーお! め、めっですよぉーお!」


 コツコツン。

 それほど広くはない奥行きを進んでくる宇宙服。

 その、腰に付いている下げられた小さな黒い箱。

 その丸っこくデフォルメされた、南京錠のロゴアイコンは、開いている・・・・・


「ザザッ―――おい!? ワルコフ!? その、目の前に居んのは、シルシだぜ!? 眼ぇー覚ませーっ!!」


 もう眼前に迫る、宇宙服。そのなりは4頭身でも、迫力があった。

 コツコツ。

 ハンサムサイボーグシルシがフリック入力をしようと、両手をかざ―――

 ……空中を滑空するように、加速するまま飛び込んでくる、危険な色の、丸いバイザー闘争本能


 ゴッガッキュン!

 顔面頭突きを喰らい、何の演出も無く消失する、4頭身のサイボーグ。


 シルシは、手に入れたばかりの、”ガトリング・マシーナリー”の体を、落

書きにしか見えない宇宙服に、喰われた・・・・


「ワル―――――――――」

 言い掛けの断末魔を残し、約7頭身のハンサムサイボーグも姿を消した。


YOUゆぅー_WINういぃん!』

 パッパパパパパパパパーン♪


 乱入者挑戦者の、勝利を称えるファンファーレ。

 鳴りやむと同時に、乱入者挑戦者の顔色が、元の、”周囲を薄暗く反射する濃い”グレーに戻った。

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