第五章 明日の朝
目を開いた先には、朝日が飛び込んできた。
見た事もない女の子が、不思議そうに覗き込んでいた。
右目が琥珀色で左目が青色の綺麗な瞳の少女。
「お姉ちゃんはだれ?」
「私か? 私はリリトだ」
陸緒は身体を起こすと、その少女と、その後ろに、ナナがいる事を確認した。
「陸緒、よく頑張ったな。手術は成功だ! 一ヶ月後には、学校も行ける。運動も少しずつだが、出来るようになる」
陸緒は泣いた。
「僕、生きられる? 生きられるの?」
「おぉ、おお? 何処か痛いのか? 泣くな!」
おろおろしながら、リリトは陸緒を抱きしめた。
「リリトお姉ちゃん……」
「うん、私がいる。辛い時や悲しい時は、こうすると良いと、ナナが言ってる」
「嬉しいんだ。僕、嬉しい」
リリトは陸緒の額にキスすると言った。
「嬉しい時は笑うんだ」
リリトは笑ってみせた。
「陸緒、せわしくて悪いが、次の手術の為に、私達は次の国に行く。達者でな」
「そんな! もう行っちゃうの?」
悲しそうな顔で、陸緒は俯いた。
「陸緒が、助けて欲しい時は私が守ってやる」
リリトはそう言うと、ウィンクした。
そして、病室から二人は退室する。
「おいおい、リリトぉ、お前中々良い事言うじゃんか?」
ナナはリリトをからかおうとしたが、肩を振るわせているリリトを抱き寄せた。
「お前の紛れもない友達だ。たまに会いに行け。リリトの忘れ形見のお前が、こんな成長してくれて、私は大満足だよ」
リリトが自分自身を素材に、ゼッハの蘇生には成功した。
アーベルが様子を見に来た時、左のカプセルには心音のあるゼッハ、右のカプセルには七歳くらいのオッドアイの少女がいた。
アーベルは自身の罪を償った。
精神異常が認められ、罪は随分軽いものとなった。
ゼッハと、恐らくはリリトであろう少女を、養子にするのに、非常に長い時間と問題をクリアする必要があった。
色んな非難を受ける事もあったが、アーベルはその全てを自身の贖罪として受け入れた。
「リリト、フォークを逆手で持たない! ちゃんと野菜も食べる!」
ゼッハの言う事を、コクコクと頷きながら従うリリト。
「ぜは……」
「私はゼッハ! 言ってごらん?」
「ぜは」
「う~ん、あっ! ナナ! ナナって言ってごらん?」
「なな?」
「よし、じゃあ私の事はナナ!」
「なな! なな!」
「そうそう、偉いぞ!」
ゼッハは以前以上に、勉強に力を入れた。
リリトの面倒を見ながら。主席で中学、高校と入学、卒業を繰り返した。ゼッハが大学の受験勉強をしている時に、ゼッハは言った。
「ねぇ、リリト?」
「ん? 何?」
ぴったりとゼッハにくっついて離れないリリト、それを愛おしく思うゼッハだったが、七年の歳月が経っているのに、リリトがあまり成長していない事に気がついた。
「う~ん、以前のリリトはスタイル抜群のモデルみたいだったんだけどな?」
リリトを上から下まで見るが、凹凸の殆どない体型をしていた。
というのも、見た目は少し大きくなっただけの小学校中学年と言った所だった。
リリトは、ゼッハと同じ勉強をしていた。ゼッハが大学を卒業し、大学院に進んだ頃に女性らしい身体つきなってきていた。
「まだまだ小さい胸だな」
ゼッハがリリトの胸を揉むと、リリトはブルブルと震えて手を払った。
「なんなのさ? ナナ!」
「いやぁ、揉んで大きくしてやるかと、生物学的にも揉むと大きくなる説は正しいらしいよ?」
「いいよ。別に! 動きにくいしさ」
リリトはゼッハの膝の上に座った。
「えへへ!」
リリトの頭を撫でながら、ゼッハは聞いた。
「お前、友達いないのか? 毎日毎日、私と一緒にいるけど」
「ナナがいればそれでいいよ」
ゼッハが医師免許を取って、名医となるのに時間はかからなかった。ゼッハが三十二歳になった時、難しい心臓の病気の子供が日本にいる事を知った。
「へぇ、まだいたんだ。私の血筋、よしリリト! 日本に行くぞ!」
「旅行?」
ポテトチップスを食べながら、リリトは幼児向けアニメを見ていた。
「いいや、可愛い日本の女の子に会いにな!」
「やだ! 絶対行かない!」
リリトは、ゼッハが自分以外の誰かに取られると思った。
「じゃあ私一人で行くよ」
色々揉めたが、実際に日本に行くと、リリトは友達を得た。友達を得て六年後、ずっと手紙のやりとりだったが、リリトは最初ゼッハが少女と間違えた伊万里陸緒に会いに行く事になった。
「ほんとにお前一人で大丈夫か?」
四十を手前に控えたゼッハだったが、若々しい姿のままだった。
「大丈夫だよぉ!」
リリトの見た目は、人間の高校生くらいにまで成長していた。
髪の毛を後ろでポニーテールにしているのは変わらないが、男なら誰もが振り返るような、そんな美少女になっていた。
ただ、言動や行動が彼女を幼く感じさせる。
軍の訓練後すぐ飛行機に乗り、陸緒の住む北海道に向かった。
「びっくりするかな? 陸緒」
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