第6話
「じゃあ、俺はこれから開店前の準備があるんで行きますね」
「え……」
右京君の言葉に僕は思わず引き止めそうになった。
この状況で、アイスピックの潜む厨房に桜季さんと置いていかれるのはひどく心細い。
完全なわがままなので行かないでとは言えないが、それでも縋るように右京君を見てしまった。
すると、右京君はふっと笑った。
「大丈夫ですよ。何かあったらすぐに飛んできますから。ほら、手を出して」
言われた通り手を差し出すと、厨房の壁に掛っているホワイトボードからペンを取り、僕の手の甲に何やら書き始めた。
そして、書きあげると顔を上げ、ニカッと笑いかけた。
「これ、俺の電話番号。困ったらいつでも掛けていいですから」
それじゃあ、おいしい飯作ってくださいね、と言い残して右京君は颯爽と去っていた。
か、かっこいい……!
自分より一回り以上年下の男の子だが、その男らしさと優しさに尊敬の念すら覚える。
憧れの気持ちいっぱいで彼が去っていた方を見ていると、ふいに肩をポンと叩かれた。
「それじゃあ、まずは皮むきからはじめようかぁ」
桜季さんが、ピアスのついた口端をにたぁと吊り上げて言った。
「は、はい……」
僕は蚊の鳴く様な声で返事をしながら、右京君が残してくれた手の甲の電話番号をぎゅっと握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます