第13話
「それじゃあ話は済んだし、僕は失礼するね。仕事中に失礼しました」
スッと足を下ろすと、吉井は心にもない言葉を言い置いて颯爽と扉へ進んで行った。
少し前の乱暴な振る舞いなどまるでなかったかのような、洗練された足取りだ。
「……待てよ」
低い声で呼び止めると、吉井の足がぴたりと止まった。
「ん? 何?」
振り向いた余裕綽綽の吉井の顔に、苛立ちを覚えながらも口を開いた。
「好き勝手言ってくれたが上等じゃねぇか。絶対あんたの思い通りにはさせない。幸助さんは、俺が守る」
決意を胸に、吉井を睨みつけ宣戦布告を放った。
しかし、それを寄越された吉井は、ぽかんと呆けた顔をした後、腹を抱えて笑い始めた。
「な、何がおかしいっ!」
明らかな嘲笑に、顔が熱くなる。
目尻の涙を拭いながら、吉井が答えた。
「いやぁ、元ホストなのに安い台詞だなぁ、と思って。あ、別に馬鹿にしているわけじゃないよ。よくそんなことでホストが務まったなぁ、って感心すらしているよ。それともあれかな? ホストはそういう非現実的な台詞の方が逆にモテるのかな?」
「う、うるせぇ!!!!」
あまりの怒りと恥ずかしさに、思わずテーブルに置いていた菱田の携帯電話を吉井へ投げ付けたが、するりとかわされてしまう。
「君がどう出るか楽しみにしているよ、それじゃあまたね」
吉井はひらひらと手を振って退室した。
残された七橋は頭を抱えてその場で地団駄を踏んだ。
(あのクサレ腹黒むっつりスケベ大魔王がーーーーー!!!!!!)
「失礼します。お客様にお茶をお持ちしまし……って、わぁぁぁ!! 俺の携帯がぁぁぁ!!」
茶を持って戻ってきた菱田が、顔を青くし床に落ちた自分の携帯に駆け寄る。
吉井に投げた際、よけられてしまったため、壁にぶつかり床に落ちたのだ。
「な、なんで、こんな所に俺の携帯が!?」
「すまん、ちょっとイライラしてつい投げてしまった」
「つい!? 投げた!? 一体さっきの奴と何があったんですか!? つーか、俺の携帯にあたらないでくださいよ!」
「あー、はいはい、すまなかった、すまなかった。携帯は弁償するからよ」
自分が悪いのだが、ぎゃんぎゃん騒ぐ菱田が煩わしく、適当に謝る七橋。
「弁償とかそんな問題じゃないんですよ! 昨日やっとアプリのゲームでラスボスの魔王の城まで行ったのに、データが消えてたらどうするんですかぁ~」
魔王の城……――。
恨めしそうに睨んでくる菱田を無視して、七橋は大きく溜め息を吐いた。
「魔王ってどうしたら倒せるんだろうな……」
この後、七橋の言葉を勘違いして受け取った生粋のゲーマーである菱田から魔王撃退講座を数時間受けることとなった。
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