第6話

「あ、う、うん。そうしたいのは山々なんだけど、仕事がなかなか見つからなくてね……」


情けない実情を話すと、テツ君は一度僕の手を放し「うーん、そうですよね……」と言いながら椅子の背にもたれて目をつぶった。

顎に手を当て真剣に思案するテツ君に、なぜここまで必死に考えてくれるのか不思議に思っていると、彼が薄く目を開けた。

そして、


「もし、幸助さんがよかったらなんですけど、俺の店で働きませんか?」

「え!」


話の流れが突然で僕は言葉の意味をなかなか飲み込めずにいた。


「テツ君のお店ってどういうこと?」

「いや、実は俺、店を三つくらい経営してるんですよ。それで、よかったらそのどこかで働いてもらえないかなぁと思って」


僕は驚きのあまり口を開けて固まっていた。

しかし、通りで羽振りがいいはずだ、と同時に納得もできた。


「す、すごいね。三十ちょっとでお店を経営するなんて……」

「い、いえ、店って言っても小さな店ですからっ」


驚嘆する僕に、テツ君は謙虚に手を振って否定した。

だが、自分より年下の彼が経営をしているとは、本当にすごいとしか言いようがない。


「店ってどういうお店? 飲食店?」


興味と、もしかしたら雇ってもらえるかもしれないという期待から、気付けば身を乗り出していた。


「あ、はい、まぁ、飲食店っていうか酒が主なんですけどね」

「じゃあ居酒屋さん?」

「あー、まぁ、働く時間帯としては似てますけど、それよりもっと客と距離が近いというか……」

「あ! じゃあバーとか?」

「んー、そうっすね、まぁ近いっちゃ、近いですね」


先ほどから歯切れの悪い返答が続く彼に首を傾げていると、意を決したようにテツ君が大きな息を吐いた。


「正直に言いますね。俺が経営しているのは、ホストクラブです」


ほすとくらぶ、ほすとクラブ、ホストクラブ……――。

あまりに非日常な単語に一瞬、頭の動きが止まったが、またすぐに動き始めた。


「ああ! ホストクラブか! 確かにテツ君かっこいいもんね、人気ありそう!」

「いや、俺は経営の方なんで今はもう引退しているんです」

「そっか、そういえばお店を経営していて、それで俺に仕事を紹介してくれるって言う話だったね……、って、えええ! ホストクラブ!? 僕が!?」


ガタンっと今度は僕が立ちあがって、絶叫に近い声で叫んだ。


「幸助さん声デカイです。目立ってますよ」


苦笑しながらテツ君に指摘され、僕は慌てて腰を下ろした。


「ホ、ホストクラブって、あれだよね。若くてかっこいい男の子たちが女の子を接客する仕事だよね?」


僕の知るホストクラブと、彼の言うホストクラブが同じものなのか一応確認する。


「はい、そうです」

「ど、どう考えても僕が働けそうな職場ではなさそうだけど……。あ! もしかして厨房の仕事?」

「いえ、厨房は専門のスタッフがいるので」

「じゃあ……、清掃スタッフ?」

「いえ、それは業者が入ります」


じゃあ他にホストクラブで何の仕事があるというのだろうか。

自分にできる仕事が思い当たらず首を傾げていると、


「幸助さんにはホストとして接客をしてもらいます」

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