第37話

「ちょ、ちょっと! 桜季さん!」


右京が慌てて桜季を晴仁から引き離した。


「もぉ、急になに~?」


桜季は不満げに唇を尖らせた。


「何じゃないですよ! アンタこそ何してるんですか!」

「ん~、何って……宣戦布告ぅ?」

「はぁ!? ちょ、何してんだアンタ!」

「だからぁ、宣戦布告って言ったじゃぁん。あ、四文字熟語はラッキョウには難しかったかぁ」

「言葉の意味を聞いてるわけじゃねぇ!」


ギャアギャアと二人が騒ぎ出したので--正確には右京だけが大声を上げて桜季はへらへら笑っているだけだが、晴仁は人差し指を立てて二人の間に入った。


「幸助が寝てるから静かにね」

「あ、す、すみません……」

「あはは~、ラッキョウ怒られてるぅ。恥ずかしい~」

「アンタもだろうが!」


右京はキッと目を吊り上げた。


「ところでさぁ、面会謝絶ってなってるけどおれたちも入れないのぉ?」


ドアにぶら下がる札を弄りながら桜季が訊いてきた。

その質問にため息を零したのは、右京の方だった。


「当たり前でしょ。なんで俺たちが特別に入れるんですか」

「えぇ~! だってせっかくお見舞い持って来たのにぃ」


唇を尖らせる桜季を無視して、右京は晴仁の方へ向き直った。


「あのこれ職場のみんなからなんですけど、渡せないですかね」

「よければ僕が看護師に預けておくよ」

「そうしてくれると助かります。すみません、よろしくお願いします」

「ちょっとぉ、おれ無視して話進めないでよぉ」


晴仁と右京の間で勝手に進むやりとりに桜季がむくれる。

その様子に右京が冷ややかな目を向けた。


「……アンタ何歳なんですか。もういい歳なんだからそういうのやめた方がいいですよ」

「えぇ~! 可愛ければいいじゃん~」

「いや、可愛くないからやめた方がいいって言ってるんですよ。成人男性でそれして可愛い人とかいませんから」

「えぇ~、でも青りんごがしたら絶対可愛いよぉ」

「……っ!」


むくれる幸助を想像したのか、顔を少し赤らめ「……まぁ例外もありますね」と小声で付け加えた。

そして仕切り直すように咳払いひとつすると、右京は「それじゃあお見舞いの品、よろしくお願いします」と晴仁に頭を下げた。

それに続いて、桜季も「お願いしまぁす」と言って軽くお辞儀をした。


「ああ、ちゃんと渡しておくよ。せっかく来てくれたのにすまないね。でもきっと幸助もお見舞いの品、喜ぶよ」

「ありがとうございます。それじゃあ俺たちはこれで失礼します」


ようやく二人がこちらに背を向け歩き始めた。

しかし不意に桜季が振り返った。

そこにはあの嫌な笑みが浮かんでいる。


「……確認ですけどぉ、もちろん、春雨さんも入室できないですよねぇ?」

「もちろんだよ。僕も看護師に預けたよ」


「ふぅん……」と答えながらも、晴仁の言葉を信じ切っていないのはその目を見れば明らかだった。

しかし特に追及することなく、桜季はそのまま前を向くと右京の横に並んで歩き始めた。

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