第27話
「こーすけ、どうしたの?」
「ぅわ!」
いつの間にか背後に立っていた晴仁が耳のすぐ傍で囁いたので、思わず肩が小さくはねた。
「び、びっくりしたぁ。晴仁は気配が消すのが上手いね」
横を向くとすぐに晴仁の笑みがあった。
「ふふ、こーすけがぼーっとしているから驚かそうと思って。ところでこーすけ、お腹空かない?」
「あ、そういえばお腹ぺこぺこ……って、あ! ごめん! 今日ご飯作って待ってるって約束したのに全然準備できてない! あ、あとベッド使わせてもらったからシーツ替えもしないと!」
あわあわと挙動不審になっている僕を見て、晴仁がくすりと笑った。
「大丈夫だよ。シーツは交換したよ。それとご飯は疲れてるだろうから作らなくていいよ。せっかくだし久しぶりに二人で外に食べに行かない?」
「晴仁……っ!」
優しい笑みと完璧すぎる気遣いに僕は感激した。
彼の奥さんになる人は本当に幸せだろう。
なぜこんな彼が結婚していないのか不思議だ。
いっそ大きな声で「ここに素敵な男性います!」と言って回りたいくらいだ。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えてご飯は外で食べよう。僕こんな恰好だからちょっと着替えてくるね」
だらしない部屋着から着替えるべく、僕はタンスのある寝室へ向かった。
シーツはきれいに整えられていてまるでホテルのようだった。
さすが晴仁だなぁ、と感心していると、ベッドの横に黒い大きなゴミ袋を見つけた。
何だろう?
燃えるごみなら今から外に出るついでに捨てていこうと思って袋の中を開けた。
最初は何か分からなかったが、取り出すとビリビリに破れた白い布が姿を見せた。
何の布だろう? と首を傾げていると、
「……それは僕のだよ」
またもや背後のドアに晴仁が気配なく立っていた。
「え! あ、晴仁の?」
「うん。実は出張の時に上司が酔ってホテルのシーツ汚してしまってさ。恥ずかしさもあったみたいでフロントに言い出せなくてね。シーツだけ新しいのを買って来て取り替えたんだ。で、汚れたシーツは一人暮らしの僕が持って帰って処分することになったんだ」
晴仁が苦笑しながら肩を竦めた。
「そうなんだ。それは大変だったね……。あ、勝手に開けてごめん。燃えるごみなら外出るついでに持って行こうと思って」
「いいよ、いいよ、僕も早く捨てたかったからね。そんな汚いもの一秒でも早く家の外に出したいくらいだよ」
晴仁が傍に来てしゃがみ、僕の手をスッとどけた。
「え? そんなに汚いものだった?」
パッと見ただけでは、真っ白で汚れているようには見えなかったし、きつい匂いもなかったけど……。
「うん、すごく汚いものだよ」
晴仁はギュッときつく袋の口を結んだ。
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