第2話 桜小道のショタと天パ


―――4月7日(水) AM8:20


「高校、かぁ……」


 俺は、校舎までの桜子道を歩みながら、再びぼんやりと思索に耽っていた。今度はこの新しい学校、私立エヴリス学園に対する思索である。


 一体どんな楽しいイベントが待っているのだろうか。可愛い女の子はいるのだろうか。そういえばさっきの色白な女子はどこへ行ったのだろうか。同じ制服を着ていたからこのエヴリス学園の新入生のはずだ。

 ああ、ちゃんと友達はできるだろうか。中学とはどのくらい違うのだろうか。この癖のある髪もイメチェンすべきなんだろうか。エヴリス学園といえばこの国屈指の最上位校。入試は突破できたが、これからの勉強はついていけるのだろうか。そういえば、この学校には変わった校則もあるということも聞いたことがあるな――


 緊張のせいだろうか。その思索は、今度はいつもと違って散発的なものばかり。俺の胸中には、期待の数だけ、不安も存在していた。それらが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。


 しかしふと周りを見渡せば、辺りの新入生も同じような事を考えているかのような浮かない表情をしているじゃないか。このまま何も知らないうちにくよくよするのは、なんとなく道理に合わないな。

 俺は一度考えを改めると、頭を振って思考を一旦停止させた。


「あ、やっほー! ミードリー!」


 すると背後から、聞き覚えのある声が俺のあだ名を呼んだ。俺は秒速で後ろを振り返る。見ると、身長がやたら低い男子が、手を振りながら俺に近づいてきているではないか。ああ、あいつは――


「おお、アルトじゃないか!」

「会いたかったよ~!」

「ぐわっ」


 奴は俺の元に一直線に駆け寄ってきたかと思うと、その勢いのまま俺に抱き付いてきやがった。そのまま、俺の制服にすりすりと頬をすり付ける。


「うわっ! お、おい! 何で抱きつくんだよ!」

「いいじゃないか~。親友との再会だよ? もう感激で感激で……」

「ったく……ほら、離れろ」

「ひ~ん」


 全く、過剰なスキンシップである。俺が奴の頭をぐいと押すと、変な声を漏らしながら奴は俺から離れた。少し長い黒髪には桜の花びらを何枚か乗せている。


「まあ、久しぶりだなアルト」

「久しぶりだなんて、中学の卒業式以来でしょ」


 なるほどいい指摘だ。そんな良い突込みを返す彼はアルト・サトウ佐東。名前から分かる通り、外国人と日本人のハーフだ。だが髪は黒い。少々彫の深い顔をしているが、イケメンというよりもどっちかっていうと美少年に分類されそうな感じだ。まあ、150センチもあるかないかの身長で、幼さに少々バイアスがかかっているのかもしれないが。

 奴は俺の小学校時代からのクラスメートだった。まあ広義の幼馴染ってやつだ。俺はそんな馴染み深い顔の出現に、つい緊張をほころばせる。


「ああ、そうだった。どうりでお前の身長が変わっていないわけだ」

「な、失礼な。僕だってこの高校を卒業する頃には、きっと180センチを超えて、みんなを見下ろす側になってやるんだからね!」

「なるほど、1年で10センチも急成長するわけか。そいつは楽しみだ」

「へんだ。人間身長だけで決まる訳じゃなくて、中身も大事なんだよ? ミドリのその髪の毛みたいなひねくれた性格じゃ、高校生活も寂しそうだね~」

「な、髪の毛は関係ないだろ髪の毛は」


 俺は不意にコンプレックスを突かれて困惑してしまった。流石3年来の皮肉相手、こちらの弱点も熟知してやがる。


「それに……ほら、天パに悪い奴はいないってよく言うだろ? ま、つまりはそういうことだ」

「えー、そんなの唯の迷信だよ? 第一髪の毛の癖と正確にどんな科学的な関係があるのさ。言ってごらんよ」


 ニコニコと黒い笑顔を向けてくるアルト。ちっこい見た目の癖に腹は中々黒い。いつか天罰でも下ればいいのに。


「うっ……ほら、あれだよ。性格が良い奴は男性ホルモンの分泌が促進されてだな、髪の毛が癖っぽくなるのと同時に身長がよくのびるんだ。あれ? アルト君もしかして……」

「うわっ、また身長の話? しかも男性ホルモンとか性格にも髪の毛にも全く関係ないでしょ……」

「ふん。俺の独自理論だ」


 俺は渾身のどや顔を奴に噛ましてやった。低身長のアルトに向かってそこそこの身長から繰り出すどや顔。どうだ。反撃してやったぞ。


「ふーん。でも男性ホルモンって多すぎると確かハゲるんだよ? ミドリはせいぜいその大事な天パとは短い余生を楽しむことだね」


 しかしそのどや顔は鋭い逆撃によって脆くも崩れ去ってしまった。


「うぐ……まあ、もうやめようじゃないかアルト。互いのコンプレックスを刺激し合うのはもうやめるんだ。不毛すぎる」

「えぇー? 僕は別にこの身長もコンプレックスとは思ってないよ?」

「へっ? なんでだよ」

「だってほら……小っちゃいとみんなが可愛がってくれてちやほやしてもらえるじゃない!」

「……」


 再びアルトが黒い笑顔を浮かべる。そうだった。こいつはそういう奴だったな。中学校時代からこの稀有な容姿を駆使して学年中の女子にちやほやされまくっていたんだ。毎年のバレンタインデーのチョコなんて数えきれるもんじゃない。俺はそんな奴の様を横で見ていつも悔しい思いをしていたのだ。

 極めて自由で自分好き。俺には程遠いスキルだが、ここまでくると逆に好感を持ててしまう。不思議な奴だ。


「ったく。相変わらずお前もそういうところが性格悪いな」

「えっ⁉ なんで? 僕は別に生まれ持ったスキルを活用してるだけだよ。ミドリも頑張ったらその天パをどこかで使えるんじゃない?」

「だから天パ天パうるさいんだよっ! しょうがないだろ生まれつきなんだから!」

「あーっ! ミドリが怒った~」

「あ、待ちやがれこのっ!」


 アルトは更に俺を煽り抜いて校舎の方へと駆けていく。俺は奴を追い駆けて、校舎までの桜小道を全力疾走していくのだった。

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