第29話 東棟2階戦争 (後編)

―――PM4:48


 第二理科室での戦闘の後、俺は鶴野を始めとした20組警察の面々と共に東棟一階を一気に南に向かって駆けていった。残った20組警察のメンバーは16人。それに盾要員の俺を足してこっちの戦力は17人だ。残りのクラスメート達はアルト共に第二理科室に置いてきた。


 評議会メンバーの全滅、もしくはクラスメート38人の内35人以上の魔法被弾、もしくは領土の消滅……このどれかが満たされてしまえば20組国の敗北は確定する。そのためには少しでもクラスメートと評議会メンバーを分散させてリスクを回避しなければならない。


『やっほー、聞こえてる?』

「ああ、嫌と言うほど聞こえてるよ」


 そしてウォッチからはアルトの声が聞こえてきた。第二理科室から常に通話をかけて連絡を取りあえるようにと言っておいたのだ。アルトの情報網は相当に役に立つからな。


「アルト君、2階の様子はどう?」

『うーん、見えているところではまだ変わったところは無いね。24組の教室付近は相変わらず見えないけど……もしかしたら本当に敵はアヤちゃんたちが東棟一階を通ってくるとは思ってないのかも』

「まあそうだったらそうだったでラッキーだ。一気にカタを付けるぞ」


 俺達は第二、第一職員室の前を一目散に駆けぬけ、東棟の南に位置する階段へとたどり着く。ここから上へ登れば24組の教室は目と鼻の先だ。


「皆、いくよっ!」


 鶴野が先陣を切り、階段を駆け上がっていった。俺も鶴野のすぐ後ろにつき、更にそのあとを20組の警察員が続々と続く。


「!!」


 すると、目の前を駆けていた鶴野が突然その足を止めた。踊り場の上、階段のど真ん中で静止し、2階の方を見つめている。俺もそんな鶴野につられて咄嗟に2階の方を見た。


「あれは……」

「お、本当に来やがったぜ。山口の言う通りじゃねえか」


 目の前には東棟二階のトイレが位置し、やたらとでかい窓が張られた東棟の二階廊下。そんな廊下と階段の中間地点に、生徒が20人ほど待ち伏せていた。制服を改造し、袖を半袖にして頭髪も染めたり固めたりで自由奔放。いかにもごろつきといった印象の奴らだ。先ほど第二理科室に現れた連中と同じような雰囲気である。さっきと違うのは女子生徒も半分くらい混ざっていたことだろうか。女子といえど雰囲気は変わらず。髪の色を明るく染め、スカートはパンツが今にも見えるんじゃないかというほど短い。


「待ち伏せか……アルト、そっちでは掴めなかったのか?」

『うーん……ごめん、上手いこと死角に入られちゃってるみたい。カメラの見える位置まで把握されてるみたいだね』

「こうなったら戦うしかないよミドリ君!」

「ああ、俺も同意見だ。俺は何とか防御魔法で援護するから、鶴野、全員でここを突破するんだ。そしてそのまま24組に強襲をかける!」

「おいおいどうした? さっさとかかって来いよ!」

「言われなくても! 間接攻撃魔法(中)!」


 鶴野は先頭にいた男子生徒に向かって先制攻撃を加えた。鶴野の右手に浮かぶ魔法陣から炎の球が召喚され、それを思いっきりその男子生徒に向かって投げつける。


「防御魔法(大)!」


 しかし、その球は男子生徒が召喚した特大の盾によって阻まれてしまった。光の壁とも言える巨大な青い半透明の壁。鶴野の魔法を相殺し、互いの魔法が粉々に砕け散る。


「っててて……大クラスの魔法が粉々かよ。マジ強えって話は聞いてたがこいつはやべぇな」

「さすが疋田、防御だけは一流だな」

「く……」


 鶴野は少し苦そうな表情を示す。今まで散々実力と才能の差で現れる敵をいとも簡単に倒してきた鶴野だったが、珍しく手こずりそうな様子である。第二理科室での戦いの疲労を引き継いでいるのだろうか。敵も全体的にレベルを上げてきたか?


「皆、敵も少し手ごわくなってるみたいだから気をつけてね。あとはミドリ君の作戦通りに。全員突撃!」


 鶴野の号令に合わせて、俺を含めた20組警察員が全員突撃を開始した。狭い階段を駆け上り、間接攻撃魔法と近接攻撃魔法で敵に攻撃をかけていく。


「おら野郎ども! こいつらはここで食い止めるぞ! 山口さんに高木の様にされたくなかったら突っ込め、突っ込めぇ!」

 

 瞬く間に東棟二階の階段付近は激しい戦場と化した。大小さまざまな3つの魔法が飛び交い、弾き合い、交差する。俺はひたすら中クラスの防御魔法の盾を構え、迫り来る間接攻撃魔法から20組警察員を守り続けた。一方の鶴野は華麗な動きで敵を圧倒し、40センチ程の炎の剣と飛翔する炎の球を使って一人二人と着実に倒していく。あらゆる魔法を回避していく様はまるで魔法の方が鶴野を避けているかのようである。


「ぐわぁぁっ!!」

「くっ……」


 断末魔と共に、俺のすぐ横にいた男子警察員が間接攻撃魔法に被弾して階段を転げ落ちていった。鶴野の活躍もあってか、俺達は少しづつ敵を圧倒し、前進を得ていった。とはいえ味方の被害もそろそろ無視できる範囲ではない。


 ようやく階段を登り切った辺りで、俺はアルトに連絡を入れた。


「アルト。例の作戦を実行するぞ」

『あいあいっさー! 向こうも準備万端みたいだよ?』

「よろしく頼むと伝えてくれ、今すぐにな」


 俺はそれだけ言うと再びウォッチを下ろした。そのまままた盾を構え、無数に飛びかかってくる魔法の球を弾くことに集中する。


「おらおらもう少しだ! あとはあのやたら強い女さえ倒せば俺たちの勝ちだぜ! 数でおして取り囲むんだ!」

「うっ……しまった!」


 すると、鶴野がふと前進した隙を突いて敵は鶴野を包囲してしまった。前後左右に6人が寄ってたかって鶴野1人に魔法陣を構える。まずい、ここで鶴野がやられたら……


「ははは! チェックメイトだ!」


 敵の頭、疋田の笑い声と共に鶴野を取り囲む全員が魔法を撃ちだす構えに入る。魔法陣が煌めき、今にも鶴野を魔法の雨が包み込もうとする。


「鶴野!」

「間接攻撃魔ほ……!?」


 しかし、その時だった。東棟廊下に張られた窓の外に何かが映ったのである。


 バリィィィン


 その何かは窓をぶち破り、廊下の中へと飛び込んできた。外国人交じりの整った顔、長い金髪をツインテールに纏め、両手には氷の大剣を構えている。身長は低く、俺の胸ほどしかないことだろう。グレーテル・サトウ。20組警察の長官である。


「ふぅ、待たせたのう鶴野殿」

「グレーテルちゃん!」

「な、馬鹿な、窓からだと!?」


 一気に同様の渦に包まれる敵の生徒達。俺達に対し数で優勢だと思われた状況から一変、グレーテルが背後に出現し、挟撃を受ける形となったのだ。


「さぁ、儂の剣の餌食にされたい者はかかってくるがよい!」

「お、おいまじかよ……」

「あんなの聞いてないぞ……?」

「あれってあのめちゃくちゃ強いって噂のあいつじゃないか……?」


 突然背後に現れた新たな脅威に敵は動揺を示し始めた。その一瞬の隙を俺は逃しはしない。


「今だ! 今攻撃するんだ!」

「油断は禁物だよ!」

「きゃぁぁぁっ!」


 俺の声に合わせ、鶴野は包囲陣の一角を担っていた女子生徒を炎の剣で切り捨てた。グレーテルの出現に気を取られた女子生徒は防御する暇もなく鶴野の剣の餌食になる。そのまま、鶴野は不完全な包囲陣の中から脱出しようとした。それと同時に、俺の近くにいた警察員たちも一気に総攻撃を開始した。


「しまった、もう一度あいつを取り囲むんだ!」

「そうはさせんのじゃ!」

「うおおおっ!」

「鶴野さんを助けるんだっ!!


 すぐに体制を立て直し、鶴野を再包囲せんとする敵。だが、その試みは背後から迫るグレーテルと、総攻撃を開始した残りの警察員の攻撃によって阻まれる。


「ぎゃぁぁぁっ!」

「うわぁぁっ!!」


 一気に総崩れに陥る敵。前後どちらに目を向ければいいか分からず、次々と魔法の命中を受けていく。


「おいお前ら!……クソ、まずい!」

「貴様が頭か!?」

「!」


 そんな中、状態の収拾をつけえず佇む敵の隊長疋田の下へグレーテルが到達した。会話を交わす間すら与えず、彼女は氷の大剣を疋田の頭上に振り下ろそうとする。


「く、防御魔法(大)!」


 そこで、疋田はすんでのところで防御魔法を発動した。魔法陣が奴の腕に浮かび、青い壁が奴の頭上に現れる。さっき鶴野の間接攻撃魔法を防御したあの光の盾だ!


「成敗っ!」

「なっ……ぎゃぁぁぁぁっ!」


 しかし、グレーテルの氷の剣はいとも簡単に疋田を光の盾ごと両断した。巨大な青い壁はガラスが割れるような音を立てて粉々に粉砕し、氷の剣が疋田の身体を一刀両断する。そのまま、奴は数メートル吹き飛び、廊下の床に叩きつけられてそのまま伸びてしまった。


「ひ、疋田!!」

「やばい、逃げるぞ!」


 頭をやられた敵は戦意を喪失してしまった。残った人数は最早残った20組警察員とほとんど同じ。グレーテルの強襲で一気にもとの半数以上を失ってしまったのである。最早戦線を維持するのは不可能だろう。


「おっとどこへ行くのじゃ?」

「もう逃げられないよ」

「う、うぐっ……」


 しかし、彼らは逃げられなかった。狭い廊下の北側にはグレーテル、南側には鶴野以下20組警察員。完全に挟まれ、退路は断たれている。


「大人しく降伏するなら切り捨てるのだけは勘弁してやるのじゃ」

「わ、分かった! 降伏するからその剣を下ろしてくれ!」


 グレーテルが敵の男子生徒の一人の首筋に氷の剣を宛がってみせた。震え上がった彼はいとも簡単に降伏を受け入れる。他の敵の生徒達も、同じく降伏を大人しく受け入れていった。


「ふぅ……何とか突破できたか……」


 俺は一度辺りを見回した。東棟二階南側の階段付近、何人もの生徒が気絶して倒れ、今までの激戦の爪痕を生々しく残している。まだ残っているのは俺を含めた20組の面々が7人。そして降伏して腰を下ろす敵の残党が4名である。


「取りあえず状況を整理しよう。こっちの被害は?」

「残ったのは緑風殿と儂、鶴野殿、そして残りが4名のみじゃな」

「大分やられたな……アルト、19組の様子は?」

『はいさ。19組と22組の20組教室を巡る戦いはまだまだ拮抗しているね。互いに被害はほとんど同じ。まだ勝敗がどうなるかは分からないよ』

「そうか……」

『それにしても、よくミドリは生き残ったね。僕は真っ先にやられてゲームオーバーだと思ってたのに』

「馬鹿言え、これも鶴野の訓練の賜物さ」


 俺は渾身のどや顔をウォッチに移るアルトの顔に見せつけてやった。まあそうはいったものの、あの飛び交う魔法の中よく生き残ったなと自分でも感心する。自分でついて行くとは言ったものの……ひたすら防御魔法で防御に集中していても、流れ弾でやられていてもおかしくなかったかもしれない。そう考えると運が良かったかもな。


「そんな、私なんて何もしてないよ! あれはミドリ君の実力だからね」


 そして何故か顔を赤くする鶴野。今一この温度差がよく分からん奴だ。


「身を挺して戦場に赴き、戦況を支配せんとするその手腕……このグレーテル、緑風殿に今一度惚れ直しましたのじゃ!」

「えっ、惚れ直した……?」


 一方のグレーテルはそんなことを言いながら俺の目の前に跪く。やっぱりいちいち反応がオーバーである。

 そして今度はグレーテルの発したワードに反応した鶴野。なんでそこで反応するんだよ。


「分かった分かった。悪いが今は無駄話をしてる暇はない。急いで24組教室に突入するぞ!」

「……分かった」

「ははっ! 皆の衆、敵の本丸へ突入するのじゃーっ!」


こうして、俺達は山口の待つ24組教室へと飛び込んでいった。



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