挿  話 24組始動



―――緑風らが国際会合を開いているのと同じ頃 東棟2階、24組教室にて


 夕焼けの光が斜めに差し込む教室。放課後なのにも関わらず、そこは静まり返っていた。教室の至る所には落書きが散見され、机もほとんど整理もされずにプリンとやらなんやらがはみ出たものばかり。縦も横もバラバラに置かれ、制服をだらしなく着込んだ生徒達がそれらにだらしなく座っている。一目見れば、まさかここが私立のトップレベル高校の教室だとは思えないことだろう。


 そして、教室前面に置かれた教卓には1人の生徒が太々しく座り、各席に座るクラスメート達を見下ろしている。席に座るメートたちも心なしかガラの悪い男子生徒が多い印象を与えるが、教卓に座る彼はさらに一回り以上は柄が悪い。


「ったくよぉ……情けねぇ話だとは思わんか? あぁ? 高木よぉ」

「うっ……す、すまねぇ、山口さん……俺は……」



 真っ赤に染められて逆立った髪、耳にはピアス、まくった袖からはタトゥーの散りばめられた腕が飛び出している。その上、その腕は太く、強靭というよりもむしろ残虐な印象を与えてくれる。


 山口雄介。24組クラス長であり、24組国の王として君臨するエリス狩りの長であった。


 彼は今、目の前で顔を俯かせる男子生徒に鋭い視線を宛がっている。24組の高木、彼が19組の生徒達の襲撃に失敗した責任を追及しているのだ。


「俺は、何だって? てめぇ自分から19組の忌まわしい野郎どもを始末すると言っておいて失敗するとは何事だ? あぁ?」

「ち、違うんだ山口さん。だから邪魔が入ったんだって!」

「邪魔? お前前もそんなことを言ってたよな。20組の、しかも女子にやられたとか。おちょくってんのか。攻撃魔法ランクAが聞いて呆れる」

「だ、だからあいつら並みじゃないんだよ……明らかにランクSはある……」

「……近接攻撃魔法(中)!」


 山口は魔法陣を右手に展開させると、刃渡り70センチ程の長剣を召喚した。炎に縁どられた真っ赤な剣である。それを、彼は瞬時に高木の首元に宛がった。

 合わせて、高木の顔も一気に血の気が引いていく。


「ひっ……」

「いい加減ナめたこと言ってんじゃねえぞ? ランクSだ? んなもんは関係ねぇ。てめぇのせいで俺達24組の仲間全員が舐められちまってんだよ。19組だけじゃねぇ。あの20組警察とかいうふざけた野郎どももそうだ。調子に乗って俺達がエリスを狩ろうとするのを邪魔してきやがる。これほどムカつくことはねぇ」

「そうだそうだ!」

「20組のクソ共が!」


 不意に揺らめく24組のクラスメート達。しかし高木の首に宛がわれた剣はいまだ高木を離そうとはしない。


「とはいっても……あいつら本当に強いんだぜ……?」

「まだ言うかこの雑魚が! ふん。まあいい。俺には策があるんだ。この状況を打開し、憎き19組と20組を纏めて葬り去る策がな」

「さ、策……?」

「ああそうだ」


 にやりと頬を釣り上げる山口。そして、一旦鋭い目線を高木から反らすと、兼はそのまま、席に座るクラスメートの方へと向き直った。


「聞け24組の同志ども。俺は今22組と23組にいる仲間達に連絡を取り、『ある計画』を進めている。実は22組と23組のクラス長はもう俺の仲間が完全に抑えてあるんだ。そこで、ボンッ。クーデターを起こす。22組と23組の実権を俺達24組が握り、22、23、24組のクラス連合を立ち上げるのさ。その上で19組と20組に戦争を仕掛ける。1.5倍、いやそれ以上の戦力で奴らを叩きつぶし、俺達に盾突いていた奴らをこの学園から追放するんだよ!」

「おぉーっ!」

「す、すげぇよ! すげえ!」


俄かに盛り上がる24組の生徒達。山口の口調も最高潮に達する。彼も実力でクラス長までのし上がった身、人望もある程度の戦略思考も十分に持ち合わせているのである。


「で、でも大丈夫なのか? 20組はあまり舐めてかからないほうが……」

「あぁ? てめこの期に及んでテンション下がること言うんじゃねーよ。殺すぞ」

「で、でも……」

「分かった分かった。臆病な野郎はせいぜい後ろでこそこそ隠れてるがいいさ」


そう言って、山口はため息交じりに高木の首に宛がった剣を下ろして見せた。


「……ほっ……」

「だが、てめぇのエリスは俺がありがたく貰っといてやるよ!」

「ぎゃぁぁぁっ!」


 ボゥッっという炎が駆ける音。同時に、山口は炎の剣で高木の首辺りを切り捨てた。傷こそつかないものの、その苦痛は確かに熱い炎の剣で両断されたものとそこまで相違はない。高木は灼熱の痛みに鋭い叫びを上げると、そのまま卒倒した。最前列の椅子と机にデカい体をぶつけ、ガタガタと激しい音が教室を満たす。その光景に、流石に先ほどまで意気を紅潮させていたクラスメート達も息をひそめる。


「分かったか。俺は失敗をこうやっていつまでもいつまでも言い訳する奴が大っ嫌いなんだよ。決行は2週間後だ。詳しい作戦はまた説明する。てめぇら、絶対漏らすんじゃねえぞ?」

「は、はいっ!」


 こうして、つい24組が始動した。戦争の火ぶたは切って落とされようとしていたのである。

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