第22話 20組警察の躍動

――PM4:00



 LHの時間も終わり、無事俺達の考えた20組国は独立の時を迎えた。


国民投票でもまあ白票2を除けば全員賛成だったし、まずまずの滑り出しなんじゃないだろうか。


 今は思ったより早いLHの終わりに、クラスメート達が喜々として寮への帰途へ着こうとしているところである。ざわざわと様々な会話が飛び交う教室内。だが、その会話の中にエリス狩りへの不安だとか、魔法戦闘を引き起こす類の言葉は含まれていない。20組警察の発足により、クラスメートには確固たる安全が訪れたのである。



「ふぅ~! 終わったぁ……」

「お疲れ様ミドリ君。国家申請、うまくいってよかったね」


 コの字に並べた机を皆で戻し終え、一息ついた俺。そこに、横から鶴野が笑顔で労いの言葉を述べてきた。いやいや、俺なんかよりもずっとプレゼンでしゃべり続けた鶴野の方が疲れて然るべきなんだけどな。


「ああ。思ったより反対なんかも出なかったし、出だしとしてはベストだろうな。鶴野にも悪かったな、いきなりあんな大役を任せちまって」

「ううん。ああやって人の前に立つのには慣れてるから大丈夫だよ。それに20組国のシステムを考えてくれたのはほとんどミドリ君だし……」

「なーに言ってんだ。俺はあくまで原案を提示しただけだぜ。細かい調整は鶴野がちゃんとやってくれたじゃないか」

「うん、そうだね……でも、ありがとうミドリ君。これからもよろしくね」


ここで再び笑顔。こいつ、本当に笑顔を乱発してきやがる。それも、可憐で、どこまでも真っ直ぐな笑顔。俺なんかには到底真似できない表情だ。


「緑風殿、緑風殿!」

「わっ!」


そんな俺達の間に、あのグレーテルが下から割り込んできた。俺もグレーテルも同じく立っているはずなのに、ツインテールを生やしたグレーテルの頭だけは俺の胸ほどの位置にある。アルトと同じ……いやそれ以上の低身長系高校生だ。


俺はそんなグレーテルの姿を直前まで認識しえず、変な声を漏らしてしまう。


「グレーテルちゃん?」

「どうしたんだグレーテル。何か用か?」

「ははっ。緑風殿もこれより帰途にお付きになるところじゃろう? それならこの佐東グレーテルがバス停までお送り申し上げるのじゃ」

「お、おう……」


キラキラと輝く青い瞳で俺を見つめるグレーテル。上目遣いがまたうまいぐあいにその童顔に似合ってしまっている。


 何かと思ったらまたそんなことか。こいつ、俺に仕えるなんて言ってから毎日この調子なのだ。何度か断ったものの、また自分に信頼が無いのかとか言って切腹しだす始末。それには俺も従わざるを得ない。


 ああ、周りのクラスメート達がまたざわざわと変な噂話を立てているのが分かる。や、やめてくれ、だから俺は関係ないってば!


「だが、今日はまた20組警察のパトロールがある日だろ? なあ鶴野」

「うん。今から5人づつ2チームに分かれて校舎北棟周辺と南棟周辺を回るんだ~」

「ほら、それじゃあ俺なんかよりもそっちを優先しないといけないんじゃないのか?」

「うっ……も、もちろんそれは承知の上じゃ……しかし! 家臣たるもの心より仕えると決めた君主殿を優先するのが道理! 万が一緑風殿に何かあっては、儂の立場が無いのじゃ!」


 うーん、参ったなぁ……ここまで言われてしまうと断れない。グレーテルの業務に忠実な所は良いのだが、いささかこういうところで俺に依存しすぎている気がするのだ。できれば、俺よりももう少し別の場所を優先してもらいたいんだが……


「とか言って、本当はミドリと一緒に帰りたいだけなんじゃないの~? グレーテル~」

「なっ!」


そこにグレーテルの双子の兄、アルトが乱入して来た。おいおい、これ以上この場をカオスにしないでくれよ。

グレーテルは予想外の横槍に、顔を真っ赤に染める。


「な、何を言うか兄上! べ、べべべつに、儂はただ純粋に緑風殿の安否が心配でじゃな……」

「へぇー。安否っていってもここからバス停なんて3分もかからないよ? それだったらわざわざ20組警察のメンバーを待たせなくてもそのままミドリなんか放っておいてパトロールにいけばいいじゃん。あれれ、20組警察の長官ともあろう者が公務よりも私情を優先するなんて良くないんじゃないかな~」

「なっ……」


へらへらと痛いところをついて行くアルト。俺の言いたかった問題点を尽く網羅してしまった。思わぬところでナイスフォローだぜ。


「そうだね。ミドリ君が心配なのも分かるけど、やっぱり20組警察の方を表向きは優先した方が良いと思うよ、グレーテルちゃん」

「むむむ……分かったのじゃ……」


 鶴野にまで言われて、流石に語気を弱めるグレーテル。少しは俺の意図も伝わってくれただろうか。


 だが、奴は何か閃くような仕草を見せて、再び表情をぱっと明るく転換した。


「それなら緑風殿、是非これからのパトロールについて来てはくれぬか⁉」

「へっ?」


まさかの提案である。俺はまた思わず変な声を上げてしまった。


「20組警察の活動、それを是非緑風殿の目で見ていただきたいのじゃ。そして、パトロールのなかで緑風殿をバス停まで無事にお届けすれば、公務もおろそかにしてはおらんじゃろ?」

「う、ま、まあそうだな……」


俺はちらりと鶴野とアルトの方を見た。しかし鶴野は納得したような表情を返し、アルトはやれやれと呆れた表情。なんか根本的な解決になっているわけじゃない気がするんだが……しかし、反論も思いつかない。

 まあ、逆にいい機会かもしれない。20組警察の活動風景、鶴野やグレーテルに完全に一任していたものの、一度この目で見ておきたかったという感情はある。やれやれ。ここはこののじゃロリJKの言う通り見に行ってやるか。


「分かった。分かったよ。折角だし今日は20組警察のパトロールについてってみよう。そうと決まったらグレーテル、鶴野、準備してくれ」

「わぁっ! ありがとうなのじゃ!」

「ぐわぁっ! だから抱きつくなって!」

「み、ミドリ君⁉」


そこで俺の胸に一直線で飛び込んでくるグレーテル。俺は奴の過剰なスキンシップに耐え切れず奴を振りほどこうとする。グレーテルのこんな行動は以前からではあるが、当然慣れもクソもある訳が無い。それに鶴野やら横でせせら笑うアルトやらも加わって混沌の限りである。


俺は早々にその混乱を収拾すると、そそくさと20組警察を集めてパトロール見学へと向かっていくのだった。



――PM5:00


 さて、20組警察のパトロールに同伴して20分ほどが経った。今俺達がいるのは校舎南東側の校舎裏。南棟と東棟が繋がる角付近の校舎外を、東棟方面に向かって歩いている。相変わらず傷一つない綺麗なコンクリート製で、外側の白い漆喰と窓が見事に夕焼けの赤い光を反射している。とはいえ、ここは校舎南東側、校舎の大部分はそんな日光の陰になって黒く染まり、そんな赤い壁と黒い壁のコントラストをそこかしこに演出していた。外縁に植えられた雑木林も中々夕暮れのもの悲しさを演出してくれている。


「なんだ。今日は特にエリス狩りはいないみたいだな」

「そうじゃのう……なんじゃあやつら、儂が緑風殿に活躍をアピールしたいというときに限って臆しよって……」

「まあまあグレーテルちゃん、エリス狩りなんて本当はいないほうがいいに決まってるんだから、ね」



 20組警察は、長官であるグレーテル、副長官である鶴野を中心に現在は20組クラスメート10名で構成されている。通常、その10名は5名づつグレーテル傘下のA班、鶴野傘下のB班に分かれそれぞれ別のルートでパトロールを行っている。報酬は、エリス狩りから更に奪ったエリス全額そのままである。エリス狩りを狩れば狩るほど報酬が上がるシステムというわけだ。まあもっとも、班長2人が余りにも強すぎて他のクラスメート達の報酬はほんのお小遣い程度にしか残らないらしいのだが。


さて、今俺はグレーテルと鶴野と共に、3人でここまで来ていた。


本当は今の通り5名づつ2班に分かれて行動するのだが、今日は特別俺が加わった日。特別に班を再編成し、鶴野をA班に加え、残った警察員を全てB班に回してしまったのだ。中々の権力の濫用である。まあ、今頃は残った警察員もトップ不在の中、18人がかりでエリス狩り争奪戦を繰り広げてくれていることだろう。不正が無かったかどうかだけ後でちゃんとチェックしておいてもらいたいものだ。


「ああそうだぜグレーテル。俺も20組警察が出来る前に何回か襲われかけたことがあるくらいだからな。まあ、たまたま全部鶴野が撃退してくれたからよかったものの……」

「な、何じゃと⁉ 緑風殿が? ぐぬぬ……やはりエリス狩り、許せん!」

「ふふふ、やっぱり悪いことは駄目だよね。ちゃんと私達がお灸をすえてあげないと!」

「…? 待て、何か聞こえるぞ?」

「……む?」


そんな会話を続けていると、ふと俺は前方の校舎の角の向こう側、校舎東側の校舎裏の方から声がするのに気づいた。


「……だな……」

「……いよ……!」


何だろうか、誰かがいるようだ。しかも数人て規模じゃない。声の種類、数から考えて……10人はいそうだぞ? 一体そんな大所帯で何をしているんだ?


「なんだ? こんな大勢で何をしているんだ?」

「待ってミドリ君。何か様子が変だよ?」


鶴野はそう言うと、さっと前へ出て校舎の角から校舎東側の校舎裏をそっと覗き始めた。俺達は言葉をつぐみ、静かにそれを見守る。


「……あ、あれは!……くっ」


すると、鶴野は角の向こうの光景を見てやたらと驚いたような表情を示した。そのまま、俺達を残して角の向こうへと駆けていく。


「お、おい待て鶴野!」

「鶴野殿⁉ どうしたのじゃ⁉」


俺とグレーテルもそんな鶴野に続き、校舎東側の校舎裏へと突入していく。


校舎南東、ちょうど黒く影に染まった校舎の角を曲がる俺達。すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。

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