第28話 東棟2階戦争 (前編)


 国家間の戦争は生徒会執行部が主に運用する校則によってルールが規定されている。

 その主な点としては、戦争中の生徒の扱い、及び戦争後の勝敗決定と戦後処理の方法の二つに大別されるだろう。


 戦争中、互いの国家に属する生徒は敵国内に侵入したとしてもその国の法律の制限を受けることは無い。法律の中には魔法の使用禁止など生徒会側からシステム的に強制執行されるものもあるが、そう言った法律も全て無効となるのだ。


 さらにもう一つ、通常の戦争ルールでは一度魔法に被弾した生徒、もしくは降伏を受け入れた生徒はその戦争が終結を迎えるまで魔法を使うことはできなくなる。事実上の戦死扱いとなるのだ。


 そして、戦争の終結は2つのケースが想定され、戦後処理もその終結の仕方によって大分変わってくる。


 1つ目はどちらかの国家が降伏または講和を申し出、もう一方の国家がそれを受け入れた場合。その場合は戦争の終結後に講和条約や休戦条約などが結ばれ、戦後処理はその条約によって専ら決定がなされる。


 そしてもう1つは……恐らく戦争中の国家が両方降伏や講和を申し出なかった、若しくは受け入れなかった場合に起こる物だろう。どちらかの国家の三大要素(政府、国民、領土)の内どれかが欠損した場合である。具体的にはクラス長や国家の執行機関の全滅、国民の9割の魔法被弾、そして領土の消滅である。


 この場合は強制的にその国家は敗北となり、条約すら結ばれないまま戦勝国の采配に戦後処理と敗戦国の生殺与奪は委ねられることとなる。


 もしこの条件が満たされないまま戦争が継続されても互いに兵力を回復させることが不可能な以上、いつかは決着がつくことであろう。


 さて、俺の今まずやらねばならないことは何か。それは領土の確保だ。20組の教室が24組に占領された以上、このままでは領土消滅で20組の敗北が決定してしまう。


 そこで俺は戦争の開始と同時に第二理科室を20組の領土として上塗りした。以前国際会合で公領にすると定めた特別教室だが、今は緊急時だ。一時的に領土として登録させてもらった。


 そして、その上で俺は19組代表の峯山さんに連絡を取ることにした。


『あら緑風さん。どうなさいましたの?』

「峯山さん! 聞いてくれ」


 立体映像にあの気の強そうなお嬢さんの顔が現れる。俺は今の状況をコンパクトに峯山さんに伝えていった。


 第二理科室の中は阿鼻叫喚の戦場と化していた。20組警察10名が前面にでて、襲い来るエリス狩りクラス連合の生徒達に立ち向かう。他のクラスメートたちは背後に回り、机の陰などに隠れてその戦いを怯えながら傍観することしかできないようだった。基本青色の間接攻撃魔法が飛び交い、直接攻撃魔法同士が激しくぶつかり合って火花のエフェクトを散らす。敵の数は21名。警察員の約2倍である。


『な、なんということですの……』

「峯山さん。同盟国として頼みがあるんだ。今すぐ19組にも参戦してほしい。20組の教室を占拠する敵を倒してほしいんだ」

「現在20組教室を占拠している敵は主に22組の生徒達。数は男女合わせて15人だよ」


 アルトがカメラを駆使し、追加情報を峯山さんに伝える。


『分かりましたわ。以前の恩、ここで返させていただきますわね。19組国もこれより24組以下エリス狩り連合に向けて宣戦を布告しますわ!』

「ありがとう」


 そこで通信を切る俺。外交担当として出来ることはやった。あとは……


「アルト。東棟二階と一階の情報を教えてもらってもいいか?」

「うん。東棟二階の最北にあるここ第二理科室にて20組警察員10人とエリス狩り22人が交戦中。そして今の通信を受けて19組国の生徒達が20組の教室に向けて攻撃を開始したみたいだね。20組に居座っている生徒は15人、22組と23組の教室では軟禁された生徒達と見張り役が数人いる。そして恐らく24組教室に残った30人ほどの生徒がいるはずだよ」

「そうか。一階の方はどうだ?」

「一階? 一階は別に何の変哲もないけど……」

「分かった」


 俺はアルトの情報をもとに、この状況を切り抜ける最適な作戦を構築していった。一階に何も変哲が無いということは奴らは一階には警戒を置いていないということなのだろう。それならこの第二理科室を突破した後、下から回り込めば東棟二階の最南部にある24組教室を直接強襲することが出来るんじゃないだろうか。エリス狩りクラス連合の盟主。元凶を叩いてしまえばその他のクラスも戦意を残すことは無いだろう。


 俺はその考えをそのままアルトに話した。


「流石ミドリ軍師だね。……でも、24組がそんな簡単にそれを許してくれるかな」

「ん? どういう意味だ?」

「いくらなんでも不用心すぎじゃない? こんな大掛かりな罠まで仕掛けてきた24組がそこまで考えていないとは考えにくいじゃない? それに……この東棟一階、ね」

「変哲が無さすぎる?」

「うん。まだ7限が終わったばかり、いつもなら他の生徒が歩いててもおかしくない時間帯なのに今は誰もいないんだ。人っ子一人ね。不自然じゃない?」

「誰もいない、か……確かにそうだな」


 アルトの指摘も最もである。20組をこんな罠に陥れた24組なら、裏をかいてきているということもあり得る。それなら俺はその更に裏をかかなくちゃいけない、か……?


「わかった。それじゃあ……」

「ミドリ、危ない!」

「!?」


 咄嗟に叫ぶアルト。見ると、俺めがけて一直線に流れ弾の間接攻撃魔法が飛んできているじゃないか。属性は無し、立体映像と同じような成分でできた青い光球が俺に迫ってくる。


「く、防御魔法(中)!」


 俺は咄嗟に防御魔法を展開した。魔法陣を展開し、すぐに丸い盾をその魔法陣から召喚する。


 ガァァン


「ふう、危ない危ない」


 幸い間接攻撃魔法の威力はそう高くは無かった。いとも簡単に俺の展開する盾に阻まれ、そのまま四散する。


「およよ。ミドリも大分魔法の使い方がうまくなったねぇ。アヤちゃんの特訓のお陰かな?」

「まあな。パソコンしか使えないお前よりはちっとはましになったもんだぜ」

「ふふふ。発達した科学はそれ即ちほとんど魔法と同じである。なんてね。エヴリス学園の情報を科学の力で集めきった僕は魔法使いと一緒なのさ~」

「何だその理論は……」


 あざといポーズで俺を見上げてくるアルト。お前のキューティーショットなんぞ需要は無いぞ。


 引き続き東棟二階内の情報を整理し続ける俺達。刻一刻と変化していく状況の中、俺は数度作戦を練り直し、最適なものを状況に応じて選択できるようにしておいた。


 そして完全にグレーテルと鶴野傘下の20組警察に任せざるを得なかったこの第二理科室の戦いも、少しづつ収束の陰りが見え始めた。


 グレーテルと鶴野は傘下の警察員を完全に統制し、組織的な反抗を持って23組の生徒達に立ち向かったのである。


 特に第二理科室内に入っていた23組の生徒を真っ先にグレーテルと鶴野が排除し、そこから第二理科室の入り口を固め、入ってくる生徒を取り囲んで一人ひとり各個撃破していくという戦法は見事というしかなかった。狭い第二理科室の入り口を利用して数での優位を完全に殺したのである。あとは窓から侵入しようする生徒達も複数人の警察員で待ち伏せし、次々と敵を排除していったのである。


「せいっ!!」

「ぎゃあああっ!」


 そして、敵はあっという間に最後の一人となった。グレーテルが巨大な氷の剣を振りかざし、その最後の敵を粉砕する。最後の男子生徒は、かざした防御魔法ごと大剣に粉砕され、数メートル吹き飛んで伸びてしまった。


「ふぅ……ようやく片付いたのじゃ」

「やったねグレーテルちゃん!」


 鶴野がそんなグレーテルに駆け寄る。第二理科室の入り口付近には伸びた男子生徒が20人気絶して転がっていた。なんという戦闘能力だ。一度も魔法に被弾すること無く倍近い相手を蹂躙するなんて……やっぱりあのグレーテルと鶴野は化け物らしいな。


「いひゃー。これはすごい。皆のびちゃってるよ」

「大丈夫かグレーテル、鶴野。こっちの被害は?」


 俺はアルトともに鶴野とグレーテルの元へと駆け寄った。戦闘も終わり、静寂に包まれる第二理科室。クラスメート達も、敵がいなくなったのを確認して皆胸をなでおろす。


「ああ。敵は全滅したが……こちらの警察員も4名魔法に被弾してしまったのじゃ。あとは……」

「他のクラスメートの方にも被害が出ちゃったみたい……」


 見やると、背後の机の陰に隠れていたはずのクラスメートたちの中にも何人か気絶してしまっている生徒が見受けられた。その数は大体5人くらいだろうか。恐らく先頭の流れ弾に当たってしまったのだろう。


「くそ……でも2人が無事でよかった。とにかく、今は次の手を考えよう。取りあえず20組警察以外のクラスメートはここに残って20組国の領土を保持してもらうことにしよう」

「20組警察員はどうするのじゃ?」

「それも考えてある。さっきアルトと話していたんだが……どうやら東棟一階の廊下はノーマークらしい。そこで、20組警察員は一階から東棟の南側へと回り込み、直接24組の教室を強襲するんだ」

「カメラの映像では22組と23組の教室に山口雄介はいないから、恐らく24組の教室にいると思うよ」

「電撃作戦……ってこと?」

「そうだ鶴野。さっき19組国に参戦要求をかけたところ応諾してもらえた。東棟北側は19組が抑えてくれるはずだ。背後に回られる心配もないと思う。ただ……」


 俺はさっきのアルトの指摘一度2人にもう一度話した。そして、それの解決策も同時に提示する。


「どうだ。これならきっと奴らの防衛ラインも突破できると思うんだが……」

「うん! 流石ミドリ君、策士だね」

「軍師の才能も兼ねておられるとは……このグレーテル、ますます感嘆の極みなのじゃ!」

「天パだけどね」

「アルト! ともかく、それで頼む。俺は20組警察について行くよ。少しでも力になりたいし、指示もその場で出した方が早いからな。アルトはこの場に残って俺達に必要な情報を提示してくれ」

「承知したのじゃ!」

「行こうミドリ君! 反撃開始だよ!」

「いってらっしゃ~い」


こうして、俺達のエリス狩りクラス連合への反撃は始まった。

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