第27話 第二理科室事件

―――PM4:00


 あの後、俺は急遽峯山さんとの対談の末、エリス狩りクラス連合に対する警告文を作成した。内容は先述の通り、22組国と23組国の解放、そしてエリス狩りクラス連合の即時解体である。支配された22組国と23組国ではエリス狩りでなかった生徒達が魔法の使用権を奪われ、ほぼ軟禁状態にあるという話だ。そんな残虐な行為は看過することはできない。


 結局、7限が終わるまでには警告文の返答は無かった。あれだけの強硬な文章を送ったにもかかわらず、無視。これは放課後にもう一度19組国と21組国の代表を集めて会議するしかあるまい。


「はい、じゃあ今日の授業はここまで」


 その日の20組の7限は化学だった。場所は東棟二階の北の果てに位置する第二理科室だ。今日の昼休みにエリス狩りクラス連合が発足したことを受け、教室移動には細心の注意を必要とした。クラスメートの外側に鶴野やグレーテルといった20組警察員を配置し、厳戒態勢で教室を移動したのである。唯の教室移動でここまで神経を張らないといけなくなるとは、流石の予想外だった。


 まあ、その効果もあってか20組教室から第二理科室までの道のりは特に襲撃も無く安全だった。今はちょうどその7限が終わったところである。


 白衣を着た髪の薄い先生がテキストを纏め、足早に第二理科室を去っていく。昼休みからの緊張状態もあってか、クラスメート達は長い一日の終わりに身体を伸ばし、雑談に花を咲かせ始める。


「グレーテル、お疲れ。帰りもまた頼むよ」


 俺は近くにいたグレーテルに歩み寄り、低い頭に向かって話しかけた。


「緑風殿! 承知しておりますのじゃ。すぐに20組警察員を集めるのじゃ」

「ああ。行きは何もなかったが、もしかしたら帰りに……」


ピピッ


「ん?」


 その時だった。俺のウォッチに着信が届いたのである。いや、俺だけじゃない。クラスメート全員のウォッチに同時に着信が来ているのだ。何となく嫌な予感が俺の頭を駆け抜ける。


 俺はすぐにウォッチの画面を見た。


『グループ通話着信 受信のみモード:山口雄介より20組国所属生徒全員』


「緑風殿……?」

「……まさか……」


 俺はすぐにその着信にでた。ウォッチから青い立体映像が投影され、1人の男子生徒の姿が映し出される。第二理科室の所々でも全く同じ光景が見て取れた。そしてその男子生徒とは……山口雄介。エリス狩りクラス連合の長である。


『よぉ20組の諸君。山口だ。元気してるか? 実はお前らに一つ大事な知らせがあって連絡させてもらったんだ。……東棟二階の領土図を見てみな』

「領土図?」


 俺は咄嗟にウォッチの画面をタップし、東棟二階の領土図を同じ立体映像に表示した。


「……なっ!」


 するとそこには驚くべき情報が記載されていた。今20組のクラスメートがいる第二理科室が真っ赤に塗りつぶされている。赤い領土は……24組の領土、つまりエリス狩りクラス連合の領土じゃないか! そしてよく見ると……20組の教室まで半分が赤色で塗りつぶされてしまったいる。


「バカな……エリス狩りクラス連合の領土だと?」

『どうかな諸君。お前たちが今第二理科室にいるのは分かっている。分かるか? お前らは嵌められたんだよ。今23組の連中が第二理科室を包囲している。そして22組はお前らの教室を占領した。どうだ? これでお前らは手も足も出ねえだろう! 俺達の領土じゃお前らは魔法を使えない! その上魔法を食らえばエリスは全額支払いだぜ。せいぜい俺達にエリスをよこしてくれるこったな! ははははは……』


 な、なんてこった。やられた。以前の会談で廊下やこの特別教室に関してはどこの領土にも入れずに共同管理にしようと19組、21組と協定を交わしてしまったのだ。まさかその合間に割り込んで特別教室を領土に加え、罠に嵌めてくるとは……完全に予想外だった。


「み、緑風殿! こ、これは……」

「ああ、かなりまずいな」

「ミドリ君!」

「ミドリ、今回はしてやられたね」


 そこに鶴野とアルトも駆け寄ってくる。そしてそれと同時に、第二理科室の入り口から別クラスの男子生徒達が押し寄せてきた。


「おっと動くなよ! 動いたらお前らのエリスは無いと思え!」


 奴らは理科室の入り口を完全に封鎖し、20組のクラスメート達を脅しにかかる。まずい、このままじゃあ……


「ミドリ君、もうここは戦うしかないよ!」

「そうじゃ! こんな不当な扱いは許せんのじゃ! 今すぐ宣戦布告すべきじゃろう!」

「でも宣戦は評議会の議決がいるんじゃなかったの?」


 アルトが現実的な指摘を横から差し込む。こいつ、こう見えて多少のハプニングでは動じない冷静な判断力の持ち主なのだ。いや、揚げ足取りと言った方が正しいか。


「そんなことを言っている場合じゃないじゃろう兄上! 今にもクラスメート全員が無抵抗のまま襲われようとしておるんじゃぞ!?」

「そうだよアルト君! ……でも、確かに正式な手順なしで決めるのはまずいかも……」

「ああ、俺も同意見だ。だが今は緊急事態。20組国民全員が突然敵国の領土に放り出され、その上20組国の領土は不当な占拠を受けている。多少の横着は許してもらわないといけないだろう。鶴野、今すぐ臨時の評議会を開いてくれ。形式だけでも、例外を作るわけにはいかない。その上で直ちに宣戦を議決するんだ。そうすれば戦争状態とみなされて敵国の法律は通じなくなる」

「分かった。それじゃあ直ちに臨時の評議会を開始するよ! 議題は24組を始めとしたエリス狩りクラス連合への宣戦布告。賛成者は挙手を!」

「賛成」

「賛成じゃ」

「まあ、賛成するしかないよね」

「よし、これで宣戦布告は議決された。20組国は、直ちに22、23、24組国に向けて宣戦を布告する!」


 俺はウォッチの領土図の中で赤く輝く24組の領土をタップし、この国家に向けての宣戦布告を発動するボタンをタップした。直ちに24組の表示に交戦中の文字が現れ、敵国につき24組国法無効のメッセージが表示される。


「おいお前ら! いったい何をごちゃごちゃと喋ってやがる! 状況が分かってんのか? お前らはもう……」


 敵の男子生徒のうちの一人が、威圧を駆けながら俺達の方へと歩んできた。完全に油断しきった態度。まさか魔法の使えない相手に抵抗を受けるとは思っていないのだろう。


「間接攻撃魔法(大)!」

「はっ!?」


 だが彼の予想は見事に裏切られた。24組が無効になった俺達、グレーテルが真っ先に氷の塊を魔法陣から錬成し、その男子生徒へと投げつけたのである。


「ぎゃあああっ!!」


 流石魔法ランクSの魔法使い、その威力もスピードも並みではない。俺の顔ほどもある氷の塊は恐ろしい速さで男子生徒の顔面へと飛んでいき、彼をそのまま数メートル吹き飛ばしてしまった。氷の塊はその衝撃で粉々に砕け、さらに立体映像のような青い魔法陣の残骸へと変わって消えていく。


「野郎やりやがったな!?」


 それが合図となって、敵の男子生徒達が一気に魔法陣を構え、攻撃態勢に入った。第二理科室内に次々と駆け込み、俺達を更に包囲しようとする。


「20組警察員は前に出てクラスメートを守るのじゃ! 他の者は下がれ! ここは儂らが相手をする!」

「B班は私の近くに集まって! 防御を固めてクラスメートを守るんだよ!」


 20組警察のツートップが率先して前に出る。一方の俺とアルトは後方に下がり、一度全体の状況を整理することにした。


 こうして、東棟二階戦争はその幕を唐突に開けたのである。






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