第26話 エリス狩りクラス連合発足


―――6月16日(火)12:45


 ことの第一報が入ったのは、国家申請から2週間ほどが経った日の昼休みだった。


 授業が終わり、購買へとパンでも買って来ようかと席を立つ俺。教室内は和気藹々とした雰囲気に包まれ、グレーテルや鶴野なんかは今から20組警察のパトロールへ向かおうというところ。警察員全員に向かって声をかけ、気合を入れさせているようだ。


 俺はアルトを誘ってやろうと、奴の席へと向かった。奴は4限の授業が終わったばかりだというのに、もう白いパソコンを開いてじっとそのモニターに注目しているようだった。まあそんな奴の風景はいつものことなのだが、なんとなく今日はその真剣さが違う気がする。


「おいアルト、一緒にパンでも買いに行かないか?」

「わっ、なんだミドリか。驚かせないでよ……そうだ、そんなことより見て欲しいものがあるんだ」

「見て欲しいもの? なんだそりゃ」

「とにかくいいから! 22組と23組が面白いことになってるんだよね~」


いつになく楽しそうな口調で話すアルト。そんな奴の口調に押され、俺は文句も言わずに奴のパソコンのモニターを見た。2つほどのウインドウに、それぞれ教室の風景らしき映像が流れている。恐らく教室前廊下に設置された監視カメラの映像だろう。


『22組のクラス長は俺達が倒した! 22組国はこれから俺達のものだ!』

『23組のクラス長も大したことねぇなぁ……この国はありがたくもらっていくぜ?』


映し出されたのは驚くべき光景だった。エリス狩りと思われる、制服を同じように改造したチャラい男共が十数人、それぞれの教室を牛耳っている。皆ブレザーの袖を切り落として半袖にし、頭をツンツンに逆立てさせている。彼らの周りには魔法に被弾して気絶したと思われる男子生徒が数人。力の無い女子生徒達は教室の隅に追いやられ、震えた眼差しでそのエリス狩り達を見つめている。こ、これはもしや……


「見て、ここに倒れているのは22組クラス長だった根岸君。こっちは23組の園山君だよ!」


俺はすぐにその光景の意味を読み取った。教室を陣取るエリス狩り達。そして倒されるクラス長たち。間違いない、エリス狩りが22、23組各国の長を撃破し、それぞれの国を乗っ取ったのだ。


「ば、馬鹿な……こいつら、何組の奴らだ?」

「それが……ここにいる生徒は皆それぞれのクラスの生徒達なんだ。他の国の生徒は入ってないよ」

「なんだと? ってことは……クーデターか!」


 なんてことだ。22組、23組の中にいたエリス狩り達が内乱を起こしたってことなのか? いやまて? それにしては……


「しかし、2クラス同時にだぞ? タイミングが良すぎないか?」


ピリリ


そんな疑問をアルトに投げかけた直後、俺のエヴリスウォッチの着信が鳴り響いた。いや、俺だけじゃない。周りにいる生徒、20組全員のウォッチから着信音が響いているのだ。


「何だ?」


ウォッチを咄嗟に確認する俺。画面には……『グループ通話着信 受信のみモード:山口雄介より東棟2階クラス国家所属生徒全員へ』の文字が。電話の機能も果たすエヴリスウォッチのモードの一つだ。一対一だけでなく、この学年の特定のグループにも同時に通話を持ちかけることができる。そしてこれは……19組から24組までの東棟二階クラスの生徒に対する一方通行の発進である。発信元は、24組山口雄介。24組のクラス長じゃないか。


俺は一度アルトと顔を見合わせると、ウォッチのボタンをタップし、着信を受けた。すると、途端にウォッチから青い立体映像が飛び出し、男子生徒の姿が小さく投影された。さっき22組、23組にいたエリス狩り達と同じように改造された制服、ツンツンの髪、そして耳にはピアス。気怠そうに立ち、ポケットに両手を突っ込んでいる。その立ち振る舞いといい、目つきといい、立体映像ごしにも唯者ならぬ雰囲気を感じることが出来た。そしてその立体映像はアルトのウォッチからも飛び出ている。それだけじゃない、クラスのあちこちでその映像が投影されている。


『よぉ東棟二階クラスの皆。24組の山口だ。今日はてめぇらに大事な宣言があってかけさせてもらった。よく聞け? たった今、俺の仲間によって22組国と23組国のクラス長は倒された。そこで、24組国が22組国と23組国を支配し、東棟二階クラス連合を成立させる! 悪いがこれは校則内、国家の内乱の項に記された正当な行為だ。生徒会に泣きこんでも相手にはされねえぜ?』

「な、クラス連合だと!?」

「うわぁー。これは一本取られたねミドリ」


事の重要さにもかかわらず、軽い口調でそう漏らすアルト。そのまま、金色の髪をひとかきした。いやいや、一本どころの問題じゃない。24組国が22組国と23組国を支配するだって? てことはあのクーデターも24組が裏で糸を引いていたってのか? そ、そんな馬鹿なことが……

しかし、本当かどうかはともかく校則まで振りかざしてくるとは。こいつ、ただの不良じゃなさそうだぜ?


『さらにもう一つ宣言がある。俺達クラス連合は東棟二階の廊下全域、そして男女トイレを領土として登録する! 悪いが、俺達の領土じゃあクラス連合に属していない奴らは魔法は使えなくてな。そしてもし魔法を食らったらエリスの全額、100%になるんだ。ハハハ!! せいぜいエリスを俺達に落としていってくれれることだな!!』


そこで、山口からの通信は途絶えた。20組の教室を、すーっと嫌な沈黙が駆けていく。


「緑風殿、これはどういうことじゃ!?」

「ろ、廊下が領土なんて……それじゃあ20組警察も対処できないよ!」


今にもパトロールに出ようとしていた鶴野とグレーテルが一斉に俺とアルトのもとへと駆けてきた。2人とも顔面蒼白。非常事態にまだ状況を把握しきれていないらしい。


「お、落ち着いてくれ2人とも。アルト、今までこれの兆候は捉えられなかったのか?」

「それが……先月に入ってから24組前のカメラは壊されちゃっててさ。24組の動きを捉えることは出来なかったんだ。僕も元々24組は不良っぽい生徒が多かったからカメラの故障もいたずらだと思ってたんだけど……」

「なるほど……」


奴ら、カメラを壊してまで動きを知られまいとしていたなら、この行動、先月の時点から計画されていたということになる。周到な計画の元行われたということだ。ということは……


「恐らく、これだけじゃないな……?」

「ミドリ君?」

「どうするのじゃ緑風殿。魔法が使えないとなっては儂らも手出しができんぞ」

「待ってくれ。流石に今じゃあ急すぎる。放課後までに対応策を練るから待って欲しい。とりあえずは……」


俺はエヴリスの通話機能を起動した。第一学年の検索窓をタップし、通話をしたい相手の名前を入力していく。相手は19組クラス長、同盟国元首の峯山さんだ。


 通話はすぐにつながった。ウォッチに峯山の顔が映し出される。


『緑風さん。あ、あれはどういうことなんですの? 東棟二階クラス連合って……』

「ああ。まだ俺達にもわからない。今うちの国でも必死に調査しているところさ……ところで峯山さん。20組国としては同盟国である19組国と共に、彼らクラス連合……エリス狩りクラス連合と呼ぶことにしよう。そいつらに抗議文を送ろうと思うんだがどうだろうか。東棟二階廊下やトイレまで領土と不当に言い張られるのはまずいだろう?」

『ええ……緑風さんの言うことも最もですわね。19組国としては全面的に賛成ですわ。文面はどうなさいますの?』

「まあ効果があるとは期待しちゃいないが……今すぐに不当に支配した22組国、23組国の主権を回復させ、東棟二階廊下及びトイレの領土主張を取りやめること。受け入れられないなら……仕方がない。宣戦布告も辞さないと」


俺が発した宣戦のワード。その言葉に、周りにいた鶴野やグレーテル、アルトの表情に緊張が走る。


『宣戦布告……ですの? い、いきなりそこまで言うんですの!?』

「……彼らのやりかたは相当強引でかつ強硬だ。それならこちらも強硬手段を取るしかないだろう。話し合いで解決できる相手なら二週間前の会合にも参加していたはずだろうしな。もちろんすぐに戦争に持ち込むつもりはないぜ。少なくとも廊下の領土だけでも取り下げさせられるようなら取りあえずはオーケーだ」


俺はあえて鶴野やグレーテルたちを諫めるかのようにわざとらしい口調で峯山さんに説明していった。そう簡単に戦争を起こすわけにはいかない。外交官の使命として、不利益と浪費しか生まない戦争など回避しないという選択肢は無いのである。それは歴史上の国家を見てもそうだ。戦争をして真に栄えた国なんて存在しない。


『分かりましたわ。それならまた大至急会議室に起こしなさってくださいな。抗議文の文面を固めましょう』

「よし。今すぐ行く」


俺はそう言って、峯山さんとの通話を切った。


「……とのことだ。俺は今すぐ会議室に行く。鶴野、グレーテル、今日のパトロールは中止だ。ほとぼりが冷めるまで様子見をしてくれ」

「分かったのじゃ」

「許せない……他のクラスの生徒を巻き込んでエリス狩りをしようなんて……絶対許せないよ!」

「ああそうだ。24組はともかく、22組や23組まで占領するなんてやりすぎだぜ。ただ、合法なのは何とも言えないところだが……移動教室の際にも気を付けないとな。鶴野、今日の午後で移動教室の授業はあったか?」

「今日は……7限が化学で第二理科室だよ」

「そうか……鶴野、グレーテル。いざとなったらクラスメートの安全はくれぐれも守ってくれよ」

「承知いたしましたのじゃ!」

「うん! ミドリ君も、気をつけてね」

「早速襲われたりしないようにね~」

「分かってるさ!」


そう言って、俺は混乱に包まれる教室を後に、会議室へと駆けていくのだった。

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