第24話 作戦会議

――PM9:00


 さて、校舎裏でのあんな騒動があった夜。俺、アルト、鶴野、グレーテルの評議会メンバーはまた俺とアルトの部屋、男子寮3006号室に集まり、今後の方針の作戦会議をしようとしていた。というよりも、グレーテルと出会ってからというもの、ちょくちょく鶴野とグレーテルは俺とアルトの部屋に遊びに来るようになっていたのだ。何故わざわざ鶴野とグレーテルが男子寮のど真ん中にやってくるのかはよく分からないが……まあ俺達が奴らの女子寮に侵入するよりかは幾分もましだということにしておこう。


 ちなみにこれは正式な評議会ではない。評議会は鶴野の宣言の後、決まった時間に20組教室でクラスメートに公開の上行うことが定められているからだ。まあ、これは非公式の密会とでもいうやつだ。


 今、俺とアルトはそれぞれ自分の机に座り、鶴野は二段ベッドの上に、そしてグレーテルは鶴野の膝の上に腰かけている。中々ちょうどいいサイズ差の二人だ。ま、俺は膝の上にアルトを乗せるようなことは絶対しないけどな。


「さーて、国家申請も無事に終わったことだし、大事なのはこれからどうやって20組国を繁栄させていくかだな」

「そうだね。その為にはまずしっかりとした制度を整えなきゃ。ミドリ君、明日の第一回評議会でも大事な法律をたくさん申請する予定なんでしょ?」

「ああ、まあな。まあそこまで大それたものは無いが……警察組織のしっかりとした法的基盤やエリス狩りについての扱いなんかは必要だろうしな」

「それなら緑風殿、今のうちに緑風殿が提案する法案をもう一度整理してほしいのじゃ。それなら明日の議論もスムーズになるじゃろうからな」

「そうだな、分かった。そうしておくか」


 そう言って、俺はエヴリスウォッチの立体映像を展開させた。俺が考えておいた法案は粗方このウォッチのメモ帳機能に記録しておいた。明日の評議会で発表するためのプレゼン資料として用いるつもりだったのだ。


 まず説明していったのは20組警察の詳しい組織図やシステムなどについてだ。それらは主に20組警察法として纏めておいた。


「まあ要約すると、20組警察の長官は国防担当が着任する。メンバーの任命や罷免は長官に一任される。報酬はエリス狩りを倒して得たエリス全額とする……ってとこかな。まあこれまでの20組警察の仕組みと全く一緒だよ」

「ふむふむ……しっかし、20組国基本法もそうだけど、ミドリはよくこんな堅っ苦しい文章を書けるもんだねぇ。髪の毛は天パの癖に」

「だ、だから天パは関係ないだろ! まあこの辺は全部いろんな国の憲法とかを参照にしたんだ。もちろん歴史書も参考にしてな。だから自然とあんなふうに堅い文章になっちまったんだよ」

「へぇ~。もうちょっとフランクな文章の方が分かりやすいのに~」


 フランクな文って……逆に法律関係の文章でそんな柔らかい文体のものを見たことが無い。逆にフランクな方が気持ち悪いんじゃないだろうか。『20組警察の長官くんは国防担当ちゃんと一緒だよ~☆ よろしくね♡』 ってか。意味不明である。


「まあまあアルト君。私はああいう文章も結構好きだよ?」

「そうじゃそうじゃ。君主に相応しき格調高い文章じゃろうに」


 そこで謎のフォローを入れてくる女子2人。文章だけでここまで盛り上がってどうするんだよ。


「まあいい、あとはエリス狩りについてかな。エリス狩りについては20組領土内外で全面禁止させてもらうよ。もし破ったら罰金。酷けりゃ追放もありうるな」

「そうだね。エリス狩りはしっかり予防しなきゃね……」

「人があくせく勉強してためたエリスを奪うなんぞ許されるものではないからのう」

「でも、それって勉強しても点数が取れない人への救済措置なんじゃないの? その点はどうするのミドリ?」


流石アルト、鋭い指摘である。


「良い質問だアルト。俺もそのことについては考えているところだ。クラスメートからいい案が浮かんで来ればそれを採用するし、俺自身もいい考えが無いか探しているところだよ。せめて退学の危機にあるクラスメートだけでもなんとか救済しないとな」

「私の国民の安全と自由を守る義務にも反しちゃうしね。この場合は学習する自由になるのかな?」


 早速20組国基本法の中身を振りかざしてくる鶴野。なんとまあ適応が早いこと早いこと。

 鶴野とグレーテルはまたそれぞれふわふわパジャマとジャージでこの部屋にやってきていた。相変わらず女子力の差が激しい2人である。しかし、ジャージ姿で綺麗な金髪を下ろして、鶴野の膝に座るグレーテルは何となく人形のような印象も与えてくれる。ただ、ジャージだ。


「そうだな。鶴野の言う通りだ。自由と安全を守る義務は俺達評議会自体にも課せられているからな。ちゃんと考えておくよ。あとは……そうだ、アルト、校舎内の他のクラスの動向はどうだ? 情報戦略担当として情報提供を頼むよ」

「はいはい。もちろんちゃんと把握してるよ」


 アルトはそう言いながら、パソコンのキーボードを乱打し始めた。パソコンとエヴリスウォッチを同期させ、立体映像にパソコンのモニターを投影させていく。

 すると、その青白い立体映像には第2校舎の平面図が表示された。見ると、その平面図はいくつもの色に色分けされている。それぞれの色には20組国だとか国名らしき名前が。どうやら領土図のようだ。


「生徒会長の言った通り、全30クラスが全て国家申請を終えてちゃんと独立したみたいだよ。流石にまだ気になるところは無いと言えばないけど……個人的に注目しておいたほうがいいかなあと言うクラスは言っておくね」


領土図は至って平凡なものだった。それぞれのクラスがそれぞれの教室を領土にしているだけ。特に拡大を始めているクラスはほとんどない。


「まず1組。あのラインヘルツとか言う学年首席が所属しているクラスだね。どうやら彼女は自分をカイザーと称して帝国を立ち上げたみたい」

「帝国? 俺達20組とはえらい違いだな」

「私達は共和国だものね」

「うん。調べてみたんだけど、1組にはラインヘルツの他にも学年順位1ケタの生徒がゴロゴロいるみたいだよ。ここの動きにはかなり注意した方が良いだろうね」


学年順位一桁が多数か。そいつは危険すぎるな。


「他には?」

「次は24組。ここは同じ東棟2階にあるクラスだね。どうやらここではエリス狩りを寧ろ支援するような国家が建てられたらしい。まるで盗賊団だよ。しかも23組や22組もエリス狩りが多くて、噂では24組と繋がっているって話だよ。要警戒だね」

「まさに賊の巣窟か……許せんのう」

「そうだね。人のエリスを奪おうだなんて許せないよ」


 24組か……確かあそこのクラスはクラス長自らエリス狩りとなって俺達や19組の生徒にちょっかいを出していたというところだ。以前から俺達も因縁があるし、何らかの行動に出る可能性は往々にしてありそうだ。ここは重く警戒を張り巡らせておくべきか……?


「あとは最後、30組。このクラスも異彩を放っているね。クラス長が率先して南棟4クラスに同盟を働きかけているみたい。それで、この領土図を見てもらえれば分かるんだけど……」

「南棟廊下が全て30組の領土になっているな」

「本当だ」


 領土図には30組教室と同じ色で南棟の1F、2F、3F全ての廊下が塗りつぶされていた。生徒玄関前も同様にである。


「どうやら今のところ30組の法律では廊下の領土に関しては他国の生徒に自国の法律を適用することは無いみたいだけど……」


 なるほど、30組のクラス長は中々に外交感覚の冴えたクラス長らしい。


「うーん、通るのは自由だが、いつでも封鎖でもなんでもできるってことか」

「なるほど……そいつは厄介じゃな。20組警察の行動を抑制されるのは困るのう」

「うん、それは話し合う必要があるんじゃない?」

「そうだな。ちょうどその廊下の扱いには俺もどうしようかと迷っていたところだったんだ」

「というと……どういうことじゃ?」

「廊下といえば東棟2階の廊下だってそうだろ? もし廊下を一方的に領土にして他国の生徒を入れなくされたらいろいろ不便が出ると思ってさ」

「確かにそうだね……それじゃあ、どうするつもりなのミドリ?」


 アルトが立体映像をしまい、俺の顔を眺めてくる。今日の奴の格好はあざといウサギのパジャマだ。全身に可愛いウサギの顔がプリントされている。


「実はもう手を打ってある。さっき峯山を始めとした東棟2階クラスの代表者全員に『東棟2階クラス長会談』の招待状をメールで送っておいたんだ。まあ、簡易な国際会議ってやつだ。そこで廊下やトイレといった教室外のエリアについての領土を話し合わせてもらう」

「ほぉー。流石外交担当、伊達に天パじゃないね」

「いや天パは関係ないだろ」



 アルトはまたよく分からないヤジを俺に投げやってくる。いい加減天パネタは飽きてくれないものか……


「ミドリ君も仕事を始めたみたいだし、私達も頑張らないとね、グレーテルちゃん!」

「ああもちろんじゃ鶴野殿! 国防担当として我が20組のクラスメートには一指たりとも触れさせはせんよ!」

「いや、まあ触れさせないのはエリス狩りだけでいいんだからな……?」


 そんなこんなで進んでいく作戦会議。後は軽い今後の方針が話されたが、大体は雑談にて終わっていった。


 そしてグレーテルと鶴野が帰っていったあと、俺は自らの職務を全うすべくこれからの外交戦略について、いつまでもいつまでも頭を悩ませ続けていく。


 1組の帝国、24組のエリス狩り、30組の戦略……さすがに30もの国が一気にできるとそれを整理するだけでも一苦労である。様々な事項が絡まって、俺はいつまでもいつまでも眠れることが無いのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます