第15話 都市部へ

――PM7:50


「相変わらず充実した設備だぜ……」

「なんだか久しぶりに来た気がするなぁ」



 さて、鶴野の特別魔法レッスンをみっちり2時間弱受けた後、俺は鶴野と共に人工島中心部に位置する都市部へとやってきていた。都市部と言っても、あるのは軽い商店街やボーリング場などの娯楽施設、そしていくつかのレストランやスーパーと、小規模といえば小規模なものである。


 ここでは校舎と同じように魔法の使用が許可され、また所々で魔法戦闘が起こっているのが見えた。しかし、2年や3年の姿は見えない。というのも、この都市部自体も学年に合わせて3つのブロックに分けられており、他の学年のブロックへは侵入できないことになっているのだ。ここまで他学年を排斥している学校も他にはないんじゃないだろうか。まあ、そりゃ上級生に魔法を使われちゃあ下級生はたまったもんじゃあない。でも、他学年とのつながりが無いのは少し不満でもある。部活動なんかも無いみたいだし、そのはけ口が全て娯楽か魔法戦闘に行ってしまうのは見逃せない。


 今俺達は商店街の入り口付近でアルトを待っていた。商店街と言っても、建物の多くは西洋風のレンガ造り。まるでどこかのテーマパークの正面入り口のような様相になっている。


 奴め、直接都市部へ向かうとか言っていたくせに、連絡すらよこさないとは何事だ?


「それにしてもアルトから連絡が来ねえな」

「またパソコンとかに夢中になってるんじゃない?」

「はぁ……あのパソコンオタクめ……あいつは何でああなっちまったんだろうな」

「うーん……確かアルト君のご両親ってかなり厳しい人らしいから……その反動なんじゃないかな」

「ああ、まあそれは俺も知ってるさ。あいつも鶴野と同じで親がエリート魔法使いっていう野郎だからな。それなのにランクDって、完全に遺伝に失敗してやがるぜ」

「そうかもね。でも、アルト君はああいう自由なところが良いところだから、あのままでいいんじゃない? ミドリ君も本当はアルト君のこと結構好きなんでしょ?」

「ばっ……そうだな。憎たらしさは一級品だがハッキングの腕は確かだからな」


 俺は思わずごまかすような口調になる。確かに、俺は鶴野の言う通りアルトのことは結構な信頼を置いている。そもそも、積極性の足りない奥手な性格の俺である。あそこまで自由さが突っ切った奴を見ると羨ましいというかなんというか……まあとにかく好感が持ててしまうのだ。もちろん、こんなこと絶対に本人には言わないがな。


「もう、素直じゃないんだから」

「なんだよ。鶴野の方こそアルトのことは結構好感を持ってるだろうに。お、もしや恋に落ちてたりはしないのかい?」

「えっ⁉ そんな訳ないじゃない」

「へぇ……鶴野もアルトも中々の美男美女だからな。そいつらがそろったら結構お似合いだと俺はずっと思ってるんだが……」

「もうミドリ君たら。アルト君はあくまで私のお友達だよ。それに……」


  一瞬言葉を濁す鶴野。少し照れたような顔で俺から視線を逸らす。


「それに?」

「ううん、なんでもない」

「なんだよ」


 結局鶴野は俺に変な笑顔を返しただけだった。 


ピリリ


「ん?」


 そんな時だった。俺のウォッチが何やらメールを受信したのだ。差出人はアルト・サトウ。あいつ今更何だ? 俺はすぐにそれを開く。


『件名:ゴメンミドリ!


 さっきの例のプログラムに欠陥が見つかったから直さないといけなくなっちゃった! 結構かかりそうだから今日はずっと寮にいるね!


P.S 2人でゆっくり楽しんできてね(^^)/  ひゅーひゅー!   』


「……」


 俺は思わず言葉を失ってしまった。なーにがひゅーひゅーだ! こいつ、完全にハメやがったな? 初めから俺と鶴野の2人で都市部に行かせるつもりで……?



「ミドリ君、誰から?」

「……アルトからだ。今日は来れなくなったってよ」

「えっ? そんな、残念だなぁ……」

「どうする鶴野? 俺達も帰るか?」


少し俯く鶴野。何か緊張でも湛えているかのような雰囲気。何だ? 何か様子な変な気が……


「……ううん、折角だし……2人で行こうよ」

「……ん、分かった。じゃあ行くか」


 何故か絞り出すように言葉を紡ぐ鶴野。俺は何となく違和感を感じながらも、商店街のアーケードの中へと2人で歩んでいくのだった。



――PM 8:05


 さて、俺と鶴野は商店街の中を2人で歩んでいる。周りには週末の夜ということもあってそれなりに同級生の生徒が歩いているようだった。どいつもこいつも、こんな美少女と共に歩く俺に怪訝な目線を投げかけていく。おいやめろ男共、だから俺と鶴野は変な関係じゃあない!


しかし、この商店街へ来るのも少し久々だ。というのも、毎日の授業に加えて毎週月曜日の国、数、英の小テストの勉強で忙しすぎて自由時間なんてほとんどなかったのである。まあやっと4月も終わりに入ってきて時間の使い方とか勉強方法の工夫で時間を開けることができるようになってきた。テストで点が取れなきゃそのまま死活問題だからな。他の生徒も必死だったことだろうよ。


「あ、あのお店なんかどう?」

「ん? あれは……」


そんな中、鶴野が商店街の一角を指さした。それは少し不思議な雰囲気に包まれた雑貨屋、通称魔法ショップである。発達した魔法技術で作られたグッズが販売されている女子高生御用達のショップだ。


「魔法ショップか。いいんじゃないか?」


そう言って、俺は鶴野と共にその魔法ショップへと入っていく。見た目はまあそこいらの雑貨屋と同じだ。間違ってもドクロやお札なんかが置いてある禍々しい道具屋なんかじゃあない。


魔法の力で浮かぶ棚や絶対に刃こぼれしない包丁、はてまた魔法で加工された幾何学模様のキーホルダーなど、実用的なものから普通のグッズまでおいている便利屋さんなのだ。


「あ、これとか可愛いよミドリ君!」


鶴野がショップで見つけたのはちょっとよく分からないオブジェだった。透明な筒の中に小さな火の玉がふよふよと浮かび、それがゆっくりと上下している。なるほど、これを眺めて癒されるみたいな感じなのかな?


「4900エリスか……なら買えるね」

「お、そうだな」


流石は学年3位の秀才である。5000エリスなんぞ屁でもないか。


 俺達はしばらくそのショップの中をつらつらと見回っていった。それなりに他の生徒がいたが、まあやはり大半が女子高生だった。少し場違い感がないでもない。


「ミドリ君は何か買わないの?」

「うーん、俺は特に気になるものは無いかな……」

「そう……あんまり楽しくなかったかな……」


少し表情を暗くする鶴野。おいおい、そんな顔をしないでくれ。


「いやいや、そんなことは無いぜ。鶴野と2人でこんな風に遊ぶのも久しぶりだしな」

「本当!? よかったぁ~」


 俺がそう言うと、鶴野はコロリと態度を変えてしまった。ふう、こういうときにあの騙されやすい性格ってのは対応しやすいもんだ。


「じゃあそろそろ次行くか? 鶴野もさっきの奴買ってきたらどうだ?」

「うん! ちょっと待っててね」


 こうして俺は鶴野があの謎のオブジェを購入するのを見届けると、次の店へ行こうと魔法ショップを後にするのだった。


「……そこの方、そこの方……そうそこの男女お2人じゃよ」

「……ん?」


 さて、そんな魔法ショップを出た瞬間のことである。何やら、横の方からしゃがれたお婆さんのような声が俺達2人を呼び止めた。見やると、魔法ショップの入り口横に、よく占いなんかで見るような水晶を小さな丸テーブルの上にのっけて、何やらローブを着たお婆さんがこちらを見ているではないか。何だ? こんなところに何故こんなお婆さんがいるんだろう。


「どうじゃ。1回占なってみんか? 初回サービスじゃ。お代はいらんよ」

「……? なんだ?」

「どうする? ミドリ君」


 何だかヤバそうなオーラしかしない。こんな学園の管轄下の施設に入り込んでいる時点でなんとなく怪しい感じはする。でも、逆にその明らかに怪しいオーラが俺を呼び止めたのは事実である。あまり魔法で未来を予知するなんて話は聞いたことがないが、まあタダというならやってみてもいいんじゃなかろうか。


「まあ、聞くだけなら……」

「ほほほ。まあすぐ終わることじゃ。ほれ、2人でこの水晶に手を触れてみるだけでよい」


 俺と鶴野はそのお婆さんの前に歩み寄り、水晶を眺めてみた。大きさは直径30センチ程。恐ろしいほど透明感が強くつるつると表面は光を反射している。


「じゃあ、ミドリ君」

「ああ、やってみるか」


そう言って、俺と鶴野はそっと水晶に手を触れてみた。


バチバチッ


「きゃっ⁉」

「うおっ」


 すると、水晶の中に突然稲妻のようなものが走り、幾何学模様の紋章が浮かびあがったではないか。魔法陣である。それは一度星空のような光を水晶中に散らばらせると、その一部は次第に大きく輝く2つの青い点へと収束していった。星空のような小さな青い光が散らばる中、それらが互いに引き合いながら回転し、公転する連星のような様相を形作っている。2つの青い点は互いにバチバチと火花を散らし、まるで互いに激しく争い合っているかのようだ。


 それを見た老婆は、少し興奮したような顔つきで口元をにやりと吊りあげた。


「おおお……! これは面白い」

「面白いって、何がですか?」

「ふふふ……この輝く青い点……このうちの1つはお主ら自身じゃ。眩いほどに輝いて、周りの小さな光たちをも導く存在。そう、例えるなら確固たる君主として、お主らはこれから名を馳せていくことになろう」


 そこで一度言葉を含ませる老婆。その顔も最高潮に口元を緩ませている。


「じゃがな……先刻これと全く同じ結果を導いた者がもう1人おっての……それがこのもう片方の大きな光点なのじゃよ。この2つの点は見ての通り、激しく争い合うことになるのじゃ」

「激しく争い合う……? じゃあそのもう1人っていうのは誰なんですか?」

「ふふ……名前は聞いておらんが、白銀の髪と赤い瞳が良く映える娘じゃったよ。私の占いを聞いておいて、下らないと吐き捨ておったわ」

「白銀の……?」


 俺と鶴野は一度顔を見合わせた。白銀の髪といえば……まさか、あの学年主席のことなのだろうか。入学式に挨拶した……いや、あの日俺とバスで出会ったあのアルビノの女子生徒……ということは、彼女と俺達が……?


「ま、あくまでこれは根拠も乏しい占いに過ぎん。戯れ程度に聞いてくれて構わんよ。じゃあな」

「あ、はぁ……」

「どうもありがとうございました」


水晶の中の模様がすべて消え失せた頃、俺と鶴野は老婆から離れ、再び商店街の中を練り歩いていくのであった。



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