第14話 鶴野の魔法レッスン


――5月1日(金) PM5:10


 俺と鶴野は、先ほどの通りエヴリス学園第2校舎の校舎裏へとやって来た。夕日に輝く白銀の校舎の窓たちが、俺達のいる辺りにまで赤い光を反射している。更に、校舎の周りは軽い植え込みと雑木林が整然囲っているため、視界もそこまで広くはない。放課後ともなれば、ほとんど人の気配は無かった。こんなところで魔法バトルなんかをやられていたら厄介だったが、さすがに初日じゃあまだ早かったか。


「さて、ミドリ君って魔法を使った事とかってあるの?」

「いんや。俺の親はただの歴史学者だったからな。そう言う知識は全くだよ」

「分かった。じゃあ一応魔法が何なのかの説明から軽くしておくね」


目の前に立つのは夕日の赤い光に照らされた美少女である。セミロングの黒髪がふわりと揺れて、また良い花の香りを辺りに振りまいているようだ。ふむ、中々良い眺めじゃないか……ってそんなことを思っている場合じゃないな。


「魔法っていうのはね、少し前に発見された『アーツ粒子』っていう粒子を特定の魔法デバイスでコントロールして使うものなんだよ」

「ああ、アーツ粒子なら俺も聞いたことがあるぞ」

「うん! その魔法デバイスっていうのはこのエヴリスウォッチの中に組み込まれているみたいだね。それでね、私たちのイメージや詠唱を読み取って魔法陣のような紋章を作り、そこから攻撃魔法とかを繰り出すことが出来るの」

「ふむふむなるほど……? ってことは魔法にはイメージが大事ってことなのか?」

「そう! 流石ミドリ君、飲み込みが早いね」


 鶴野が綺麗な笑顔で俺を褒めてくれる。俺は思わず少し顔を火照らせてしまった。や、やめろ、そんなふうに褒められるのは慣れてないんだ。


「魔法を使うにはしっかりイメージを持って、その上で呪文を詠唱する。あとはそれを上手くコントロールできればミドリ君もあっという間に魔法使いだよ!」

「よーし……まあやってみるか」


 取りあえず説明を聞き終えた俺である。早速俺は自分のウォッチを見た。そして、デフォルト画面の防御魔法(小)の紋章をタップする。すると、ウォッチの画面には詠唱すべき呪文が表示された。


「防御魔法(小)!」


ヴン

 

 詠唱を終えると、俺の手元に幾何学的な模様が浮かび始めた。それは青く光り、何か未知の言語のような図形を同心円状に浮かべながら回転する。バチバチと閃光が走り、周りの空気が激しくかき混ぜられているのが分かった。中々のエネルギーが集中しているようだ。


 しかし、そんな紋章は俺の目の前からすぐに姿を消してしまった。沈黙が俺と鶴野の間を駆けぬけていく。


「……あれ? 何も起きないぞ」

「あれれ、ミドリ君ちゃんとイメージを持って詠唱した? 防御魔法もどんな形の盾にするかとか、そう言うのをきっちりイメージしないと駄目なんだよ」

「まじか、中々難しいもんだな」


 俺はもう一度防御魔法の紋章をタップし、ウォッチに呪文を表示させた。その上で、今度はもう少しイメージを具体的に持ってみる。盾か……それなら光の壁みたいな感じか? 青く光る透明な壁、つるつるしてて、肌触りは良くて、光ってて……


「防御魔法(小)!」


ヴン


 もう一度俺の手元に浮かぶ魔法陣。よし、来い! 俺のシールドよ、そこから出でて俺を守りやがれっ!


バシュ!


「おおっ!」


すると、その魔法陣からは小さな四角いシールドが飛び出した。それはエヴリスウォッチにくっついたまま、大体30センチ四方の正方形の板となって安定する。青く光る半透明の板……何となくあの立体映像に似たような見た目だが、これはちゃんとした重さと形を持って俺の左腕に張り付いているのだ。


「凄い凄い! 成功だね!」

「……しかしこれ、流石に小さくないか? 流石にこれじゃあただのまな板だぜ」

「そうだね。魔法のランク自体が(小)っていうのもあるけど……でも多分もっとイメージをしっかりして練習すればもうちょっと大きい盾も作れると思うよ」

「なるほどな」


俺は一度エヴリスウォッチをタップし、自分が召喚した盾をキャンセルして消滅させた。


「そうだ鶴野、一度手本を見せてくれないか?」

「うん、分かった」


 そう言うと、鶴野もウォッチを少しいじり、画面に呪文を表示した。


「防御魔法(小)!」


ヴン


バシュ!


鶴野の腕に浮かび上がる魔法陣。流石Aランクだ、その大きさも俺とは桁違いである。そして、そんな青い魔法陣からは鋭い稲妻や閃光と共に、炎に包まれた盾が召喚された。大きさは人ひとりをちょうど覆えるほど、厚みはそこまでない。そして、その見た目はあの機動隊なんかがよく使っているライオットシールドにそっくりだ。


「どう? イメージとしてはこれくらい具体的に持った方が上手く盾を召喚しやすいんだよ」

「ほー……なるほど。しかしライオットシールドとは、流石魔法警察の娘だな」

「やだなぁ、お父さんは別に機動隊とかじゃないからあんまり関係ないよ。一番イメージしやすいものを選んだだけ。そう言うのも結構大事なんだよ?」


 そう言って、鶴野はウォッチをタップし、盾を消滅させた。一番イメージしやすいもの、か……なるほど、それなら俺の歴史オタクの知識を使えばあるいは……?


「よーし、もう一度だ! 防御魔法(小)!」


ヴン


再び俺の手元に魔法陣が浮かぶ。鶴野のものとは全く大きさが違うが、まあでもさっきよりはかなり確固としたイメージを持っているのだ。シンプルかつ、想像しやすい盾。さあ、俺の手元に現れるんだ!



バシュッ!


「おお!」


すると、今度は先ほどよりもしっかりした青い盾が召喚された。古代のグラディエーターなんかが使っていた丸い盾。少し膨らみを持ち、表には十字に帯が付けられている。大きさは半径40センチ程はあるだろうか。余り厚みはないが、身を守るには十分な大きさである。


「すごいすごい! ミドリ君って本当に上達が早いよね!」

「ははは、まあたまたまだよ」


思わずそんな謙遜を返す俺。褒められ慣れていない俺には鶴野の笑顔は眩しすぎるのだ。


フッ


「あっ」


すると、俺の左腕にくっついていた盾が消えてしまった。


「ありゃ。集中力を切らすとこんな風に魔法も消えちゃうから気をつけてねミドリ君」

「おお、そうだったのか。そいつは覚えておくよ」

「でも、この短時間でここまで出来ちゃうのなら、私の特訓なんかもいらないかもしれないね」

「さあどうかな。俺の目標は鶴野、お前の魔法を防ぎきることだからな。どうせ防御魔法しか使えないんだ。防御くらいは極めさせてもらうぜ」


少し褒められたこともあっていつになく強気に出る俺。しかしまあ、今言ったことが間違いなわけではない。確かに攻撃が出来なきゃあ勝てはしないが、逆に防御さえあれば負けもしないだろう。攻撃は俺以外の誰かに任せて俺は防御だけに徹すればいいのだ。そもそもそこまで戦おうという意思もないしな。それが適材適所ってやつだろう。


「ふふ。分かった。それじゃあ私もちょっと本気で特訓させてもらうね!」

「よろしく頼むよ、鶴野師匠」


こうして、鶴野の魔法レッスンは続いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます