第13話 アルトの妹


――PM0:55


 俺達は売店棟に入り、魔法カードを買うために購買の方へやってきていた。しかし、そこには長蛇の列。当然だ、魔法解禁の当日と来れば、大勢の生徒が魔力カードを買い求めに殺到するのである。俺達はそんな中、5000ポイントの魔力カードを持ってその列に並んでいた。


 魔力の消費は間接魔法ならば撃った球数、直接、防御魔法ならば時間に依存して決定される。まあ後は個人差にもなるのだが、平均的なランクDの人間が間接攻撃魔法(小)を撃てば大体1ポイントの魔力消費になるらしい。魔法自体や生徒の魔法ランクが上がれば、その分魔力の消費は増大していくのである。


「しかし、いくらなんでもお前強すぎじゃないか? Aランク魔法使いってのはあんなもんなのか?」

「うんうん! やっぱりすっごいカッコよかったよねさっきのアヤちゃん!」

「や、やだなぁもう……私の両親が魔法使いなのは知ってるでしょ? 特にお父さんは魔法警察の偉い人だし……だから高校に入る前からこっそり魔法の使い方とか、戦い方みたいなのをちょっと教わっただけだよ」


そう、先ほども少し触れたが鶴野の両親は『魔法使い』と俗に呼ばれる、魔法を使用する職業に就いた2人なのだ。魔法警察に軍の魔法使い部隊、魔法省官僚に魔法消防士やらなんやら……今では魔法を使わない職場の方が珍しいと言っても過言ではない。


 なるほど、そんな両親に魔法の使い方を教わっていたというのならまあさっきの強さも頷けるか。戦い方というのは……さっき見せた間合いの詰め方なんかのちゃんとした戦闘術のことなんだろう。中学時代の陸上もあるし……ランクAに加えて訓練済みと来たら、もしかしたらランクSの生徒ともまともにやりあえるなんてこともあるんじゃないだろうか。


「へぇ……あの炎でできたナイフとかも何か属性とかがついていたりしたのか?」

「うん。大体ランクB以上の人になると勝手に魔法に属性がつくんだって。私は火属性でさっきの人は雷属性だったみたい。他には水とか土とか風とか……自然現象に沿った属性がつくんだよ! そして、その属性でも相性とかが出来るんだ」

「なるほどなるほど。まあ、ランクDとEの間にいるミドリには関係なさそうだね」

「うるさいな。そう言うアルトだってランクDだろうが」

「僕は魔法には興味が無いからね。ランクSだろーがEだろーが関係ないもーんだ」

「何だそりゃ……」


 無茶苦茶である。全く、自分が関係ないとこいついつもこんな感じなのだ。自分のことなんか棚に上げるどころか大空に向かってフライアウェイである。


「まあいいさ。俺もどうせ魔法なんか大して使えないんだ。防御魔法だけでも極めて自衛に務めることにするよ」

「でも、やっぱり魔法は才能だけじゃないよ! 練習したり訓練すればランクDの人でもランクBの人に勝てたりするんだから。ミドリ君もアルト君もちょっと特訓してみる?」

「だってさミドリ」

「なんで俺に言うんだよ。お前はどうなんだ?」

「僕はパスで」

「……ったく、まあ念のためだし、放課後にでも魔法の使い方だけでも教えてもらってもいいか?」

「うん! もちろん!」

「いらっしゃいませー」


 そんなところで、レジは俺達の目の前へと迫っていた。俺は先頭に立って5000Pの魔力カードをレジへと通す。すると、レジには5000Eと表示された。


「5000エリスになります」

「はい」


 俺はエヴリスウォッチをレジ横に設置されたリーダーにタッチした。シャラーンという音と共に、俺のウォッチに入っていたエリスが自動的に支払われる。そんな光景を、アルトと鶴野も繰り返した。


 エリスの使い方は概ねこんな感じである。電子マネーやらなんやらとほとんど同じで、特に使いにくいということは無かった。


 こうして、俺達は再び魔法戦闘の渦巻く正面玄関前を駆け、教室へと戻っていくのであった。



―――PM4:30


「それじゃあ、今日のホームルームを終わります。皆さん、くれぐれも魔法の使い方には気を付けるようにしてくださいね」


 帰りのホームルームが終わった。その一言で、教室内はまたざわつきに包まれる。俺が辺りを見回すと、ふとアルトが珍しくも大人しく席に座ったままなのを見つけた。学生寮で受け取った白いノートパソコンを教室に持ち込み、カタカタとキーボードを連打している。なんだ、こんなところでスケベなサイトでも覗いているのか?


「おいアルト、いかがわしいサイトはせめて校外で見ような」


俺はアルトにそっと近づき、奴の肩をぽんとたたいた。


「わぁっ! なんだミドリか。別にいかがわしいサイトなんか見てないよ。あれれ、もしかして期待してたのかな?」

「してねーよ。そんなもん見てるくらいだったら、古代ローマの興亡史でも読んでた方がましだ」

「うわ、でたよ歴史オタク。もうそのまま歴史家にでもなったらどう?」

「そうだな、それもいいかもしれん。でも経済やら政治も捨てがたいしなぁ……」

「はいはい。やっぱり社会が毎回満点近い歴史経済政治オタクは違いますねぇっと」

「なんだよ、そんなこと言ったらお前だってパソコンオタクじゃないか」

「それはそれ、これはこれ。……ってそうだ、ミドリに言っておこうと思ってことがあったんだった」


う、人の趣味をそれはそれで片づけるとは何て奴だ。


「言っておきたいこと?」

「見て見て~」


そう言って、アルトはパソコンの画面をどや顔で俺に見せてきた。そこには顔写真付きの生徒情報や、監視カメラと思しき映像がいくつも並んでいる。


「学園のサーバーにアクセスして、監視カメラの映像と生徒情報をゲットしたんだ。これで誰が何位かとかも全部まるわかりだよ。誰が誰と付き合ってるかまでもね。あと、まだまだプロトタイプだけど、エリス市場の価格変動表を使って価格変動予想プログラムも作ってみたんだ。完成すれば、これで最適なタイミングでエリスを変換できるんだよ!」


でたこのパソコンオタク! なるほど、ここ最近学生寮でもやたらとパソコンに熱中していると思ったら、そんなものを作っていたのか。よっぽどこっちの方がいかがわしいじゃないか。まあ、こんなんだから散々魔法には興味が無いなんて言っていたのもうなずけるわけではある。


「お前、それバレたらやばいんじゃないのか?」

「大丈夫大丈夫。この学校の理念は自由だよ? 不正さえしなきゃ大丈夫だって。ただ見るだけならタダタダ」

「そういう問題なのか……?」

「何してるのー?」


すると、そこに鶴野がやってきた。


「いや、またこいつが怪しいプログラムを作ったらしくてな」

「えぇっ。どんなの?」

「見てみて、これでこの学年の生徒全員の情報が見れるんだ! しかも監視カメラの映像で誰がどこにいるのかも見れちゃう! どうどう、凄いでしょ!」

「えっ!? 流石アルト君だね。パソコンのことになったらアルト君に敵う人はいないなぁ」

「えへへ~。もっと褒めてもっと褒めて」


鶴野に褒められてデレデレと顔を赤くするアルトである。このショタ野郎。人に褒められるのが大好きなのだ。特に女の子とかだとポイントが上がるんだとか。


「調子に乗んなよ? 後で生徒会なんかに捕まったりしても知らないからな?」

「僕がそんなヘマをするはずないじゃないか~」


そう言いながら、奴は再びパソコンの画面へと視線を落とす。全くしょうがない奴だ。


 俺の方も少し呆れながら、再び視線をアルトのパソコンに戻した。すると、ふと俺の目が見覚えのある顔を捉えた。同じクラスの、あのアルトそっくりな顔で長いツインテールを下げた可憐な女子である。確か今日の昼休みにも鶴野のバトルシーンを熱心に目撃していたみたいだったし……


「あ、その子、前から思ってたけどアルトにそっくりだよな」

「グレーテルちゃんのこと? その子なら、アルト君の双子の妹だよ?」

「えっ!?」


 なんてこった。なるほど、道理で異様に似ているわけだ。よく見たら名前もグレーテル・サトウと書いてある。総合順位は学年9位。かなりの秀才じゃないか……


「そうだったのか! そういやお前妹がいるとか言ってたな」

「ミドリもしかして分かってなかったの? いくらなんでもそれは鈍感すぎるでしょ」

「いや、あんまりお前と喋ってるところも見かけなかったし……まさかとは思っていたが……」

「まあ、あいつ小学校も別で中学も私学の女子中に通ってたし……中学校に入って以降はあんまり会う機会もなかったからなぁ」

「え、そうだったの? グレーテルちゃん結構アルト君のこと喋ってたよ。変わってて面白い子だよね。まあちょっと悪口も漏らしてたけど……」

「なんだなんだ兄妹喧嘩か? 駄目じゃないか妹とは仲良くしないと」

「いや、まあ……ミドリもそのうち分かると思うよ」


 ん? アルトには珍しく顔色が悪いな。何かあったんだろうか。まあ分かるというなら期待しておくことにしようか。


「さて、この後どうする? せっかく週末なんだし、街にでも遊びに行かないか?」

「いいね! ……でもミドリ、アヤちゃんとの特訓はどうするの?」

「ああ」


俺はそこで昼休みの事を思い出した。一応念のために魔法の使い方だけでも鶴野に教えてもらおうということになったんだった。


「それなら、魔法の練習をした後に行くっていうのはどう? 終バスまでまだ時間あるし、校舎の裏の方でちょっとだけ練習しようよ」

「そうだな。アルトはどうする?」

「うーん。僕はじゃあ先に寮に戻ってるね。後から直接街まで行くから」

「オッケー」


そうして、俺達は一度それぞれ別れ、教室を後にするのだった。

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