第8話 学生寮へ


―――PM6:20


「はい。終了です。全員筆記用具を置いてください」


 5時間余りをかけて、5教科のテストのフルコースは遂に終わりを告げた。がさがさとという音と共に、最後列の生徒達がテストの答案用紙を集めていく。たった一日で全教科のテストを詰め込むんだからな……もうへとへとだ。初日からこんなんじゃあ本当に頭が持つのか心配だぜ全く。


 最後の答案を回収した先生は、「じゃあ解散」とだけ言い残して教室を去っていった。周りの生徒も、それに合わせて一斉に解放感をまき散らしていく。


「はぁー疲れた……」

「ミドリ君! 一緒に帰ろっ」

「うおっ⁉」


 くたびれて椅子にもたれかかる俺の元に、横からふっと鶴野が顔を出した。完全にテストからの解放感に浸り切っていた俺は、突然の美少女の介入に変な声を漏らしてしまう。


「もー、何をそんなに驚いてるの?」

「あ、いやなんでも。って、帰るって2人きりでか?」


 なんてこった。こんな入学初日から女子と2人で帰るなんて、完全にアウトじゃないか? テストで頭が弱った俺はついそんな如何わしいことを考えてしまっていた。しかし、そんな邪心も次に飛び出す幼い少年みたいな声に打ち砕かれる。


「なーにを言ってんのさミドリったら。僕が見えないの?」


 すると、鶴野の後ろからアルトがひょいと顔を出した。ああ、まあそりゃそうだわな。


「ああすまん。余りに小っちゃいんで見えなかったよ」

「えっ、私は別に2人でもいいんだけど……いやいやそうじゃなくて、アルト君と3人で学生寮まで帰ろうと思って」


 おや、今一瞬鶴野が変なことを言わなかったか? まだテストの疲れで頭がぼけてんのかな。


「まあそういうことだよミドリ。ミドリみたいなスケベとアヤちゃんを2人きりになんて出来るわけがないじゃないか」

「だーれがスケベだ。そんなことを言ったらお前の方がよっぽどスケベだろ」

「どこがさ。この純真潔白で清廉な少年のどこがスケベなの? 言ってごらんよ。ん?」

「そういうところがだよ……もういい、終バスも近いし行くぞ」

「あ、待ってよミドリ君!」


俺はそう言い残して教室を去っていく。それにつられて、鶴野とアルトも教室から出てきた。

こうして、俺達一行は一緒に学生寮へと向かうのだった。



――PM6:30



「で、結局テストはどうだったのミードリー?」


 夕日に染まった桜子道を、俺達3人はバス停に向かって歩んでいく。辺りでは焦燥に満ちた表情の生徒達が同じくバス停に向かって歩んでいく。そんな中で、アルトが下からテストの感想を聞いてきた。余りの身長の低さに、俺は奴と話すときいつも前屈みにならないといけない……って、流石にそれは言いすぎか。


「うーん……まあそこそこかな。400はありそうだ」


 あれだけ不安がっていたものの、終わってみるとそれなりに杞憂に終わった気がする。もちろん中学のテストよりは明らかに難しかったが、とはいえ大コケするほどでもない。最初のテストはサービスとでもいうところなのだろうか……?


「で、お前こそどうなんだよ」

「僕も同じくらいかな? アヤちゃんはどうなの?」

「え、私は……」

「まあ、聞くまでもないだろ。パーフェクトか、500点か、若しくは、満点かだ」

「全部満点じゃん」

「もうミドリ君たら、そんな訳ないでしょ! 結構難しい問題もいっぱいあったし……」


鶴野がまーた満更でもなさそうな顔で反論して来る。謙遜にしては余りにも眩しい、眩しすぎるよ鶴野。


「そうか。まあ分かった。そういうことにしておこう。ところで学生寮なんだが……アルトと鶴野は、どの部屋なんだ? まあ鶴野は女子棟だから関係ないかもしれないが」


 学生寮というのはこのエヴリス学園の都市部近くにある寮のことである。学生寮は校舎と同じ学年ごとに用意されており、更に女子棟と男子棟に分かれている。

 校舎や人工島の中心にある都市部には無料のシャトルバスも出ているし、実質バスの時間で門限が定められていると言っていい。それだけの施設が充実している代わりに、島からの外出には外出許可証が必要となるのだ。


 寮へのバスは男子棟と女子棟でも別々である。鶴野は校門前でいったんお別れだ。


「私は女子棟の7009室だったよ。最上階みたい」

「えっと、僕は男子棟の3006号室だって」

「ん? 3006?」


 俺はその番号に聞き覚えがあった。俺は自分のエヴリスウォッチをタップし、自分の部屋番が書かれたページを開いた。そこには、同じ3006と書かれているじゃないか。なんてこった、同じ部屋だ。そういえば学生寮は2人で相部屋とかも書いてあった気がするぞ?


「3006……お前と同じだ」

「えぇっ!? 本当に⁉ 良かった、知らない人と2人かぁって心配してたんだ」

「うーん、まあそうだな。これから昼夜お前と一緒ってのは少々気が重いが、よろしく頼むとしよう」

「それどういう意味?」

「そのまんまの意味だ」


俺は渾身のどや顔をアルトにかましてやる。今回の舌戦は俺の勝ちかな?


「で、鶴野の方はどうなんだ? 知り合いと相部屋になれたのか?」

「ううん。まだ誰と一緒なのか分かんないんだ。皆クラスの人と相部屋って言ってたみたいから、多分クラスの子と一緒だとは思うんだけど……」

「そうか。まあせいぜい愉快な奴と相部屋だと良いな」

「うん! 楽しみだなぁ~」


 こうして、校門前で一度鶴野に別れを告げ、俺たちはそれぞれの寮へと向かっていった。

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