第7話 1日目の昼休み


 俺は椅子を持って鶴野の席まで移動すると、そこでアルトと鶴野と共に昼食を摂っていた。こんな光景は初日にして教室中にいくつも散見されているようだ。なんだろうか。ランダムでクラス分けをしたにしては、小さなグループの数が多すぎる気がする。まさか初日から……しかもまだ入学式しかしていないのに新しく友達になったなんてこともないだろうし、恐らく中学時代からのクラスメートとか何とかで固まっているのだろう。もしかしたら、クラス分けの時点で何らかの配慮か何かが入っていたのかもしれないな……?


「ったく、どういうつもりなんだ鶴野? まさか俺をクラス長に推薦するなんて……」


 俺はさっそく先ほど起きたイベントの訳を鶴野に求めることにした。どうして俺なんかをクラス長に指名したのか。


「えっ……だってミドリ君が一番適任だと思ったんだもん。ミドリ君て、昔からやるって決めたら絶対に最後までやり遂げてくれるでしょ? だから、ね」

「う、まぁ……」


 平然とした顔でそんなことを言ってくる鶴野。まあ流石は幼馴染、的を射ていない訳でもあるまい。

 以前から何度か触れたように、俺緑風共助は親からの影響もあって歴史や経済といった事柄に関しては多大な興味を持っていた。とりわけ、戦国時代なんかで活躍する軍師や参謀といった英雄たちに強い憧れを持っていたのだ。積極性こそないものの、一度心を決めたら最後まで従うと決めた君主に尽くす。そんなスタイルの受動的責任感が俺の中でのモットーになっているのである。

 鶴野はそれを重々承知したうえで俺をクラス長に選任したのだろう。やれと言われたらやるし、一度決めたら最後までやらないと気が済まない……そんな俺の性格を見通して。


「確かに、ミドリは執念深いからねぇ」

「執念深いとはなんだ執念深いとは。責任感が強いと言ってくれ」


そんなところでアルトが横やりを入れてくる。


「責任感が強いねぇ……それならもっと髪の毛にも責任を持ってあげたら?」

「また天パかよ! お前しつこいんだよいい加減にしろ!」

「え~? 別に誰も天パなんて言ってないけど~?」

「ぐ……」


へらへらと可愛い顔して俺を煽ってくる腹黒ショタハーフ野郎である。こいつ、いつか絶対に強制パンチパーマの刑に処してやる……


「はぁ……しっかし、新入生学力テストなんて聞いてたか?」


そんなことはともかく、俺は目先に突然現れた試練にため息交じりの愚痴をこぼす。


「ううん……入学のしおりにも入学式までの日程しか載ってなかったから、やっぱり抜き打ちテストなんじゃないかなぁ」

「まあそんなに落ち込まないでよミドリ。新学期始まって最初のテストだよ? 大したことないって」

「なんでお前はそこまでポジティブなんだよアルト……」

「あれ、もしかして自信無いのかい?」

「そりゃテストなんて自信満々に受けるもんじゃねえだろ。しかも春休みなんて俺何にも勉強なんてしてなかったし……」

「大丈夫だよミドリ君! 私も一緒に頑張るから!」


一緒に頑張るって……いったいテスト中に何を頑張るっていうんだこいつは。


「あーあ、全くいいよなー本当に頭の良い奴は。抜き打ちだろうが何だろうが余裕で構えてやがる。うらやましいーぜ」


俺は弁当の中にあった梅干しを口に放り込んだ。カリッという触感と共に、心地よい酸味が口の中に広がる。俺達の弁当は平凡な日の丸弁当だった。どうやらこの学園には給食という物は無いらしい。全てエリスで用意しなくてはならないのだ。しかし初日となればエリスなんて持っちゃあいない。その配慮としての弁当なんだろう。それにしても質素だ。


「そんなぁ。全然余裕なんかじゃないよ~」


 俺の皮肉ボイスが鶴野に突き刺さる。だが、奴はそこまで満更でもなさそうに謙遜を返して来た。生まれ持ってのエリートである。余裕じゃないはずがない。


「でも、ミドリ君だって中学校時代はアルト君と同じくらい成績よかったよね?」


 すると、今度は俺達に逆撃を試みてきた。先ほどの通り、鶴野の成績は中学校時代まで常にトップをキープしていた。そして、俺とアルトはその後を追って2番手3番手争いを常に演じていたのである。といっても、鶴野の成績は毎回全教科満点。そりゃ足元にも及ぶはずなんかない。


「そりゃあ俺はだな、こう血の滲むような特訓を毎日重ねてあの地位を守り続けたんだぜ? まあアルトの方はどうなんか知らんがな」

「もちろん僕だって同じさ! 毎日腹筋100回に腕立て伏せ500回、終いにはスクワット5000回だよ? いやぁ大変だったなぁ」

「えっ⁉ 2人ともそんな特訓をしてたの⁉ し、知らなかった……」


 またまたコロッとだまされる鶴野。エリート生まれのお嬢様らしい唯一の欠点だ。とはいえ、流石にチョロすぎるだろ。


「んな訳ねーだろ。ったく、筋トレで頭の成績が上がる訳ないだろうに」

「なんだぁ……びっくりした」

「もう、アヤちゃんたら相変わらず冗談が通じないね」

「そ、そんなことないよ! いや、もちろんさっきのも嘘だって分かってたんだよ! ほ、本当だから!」


 顔を真っ赤にして狼狽える鶴野。まあこんな光景も昔からの日常風景の一部だ。


「分かった分かった。そう言うことにしといてやる。ま、しかし実際には中学校時代のテストなんて大した勉強なんてした覚えはないんだけどな。でも今回は私立トップ高校と名高いエヴリス学園のテストなわけだ。しかも点数がそのまま金になるなんてわかったら、さらに難しい可能性もあるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど……確かに……でも、点数がお金になるなんて不思議な制度だよね。高校生は勉強が仕事っていう意味なのかな?」

「どーだろーねぇ……僕たちも実際この学園に高い学費を払って来てるわけだし、完全に得をしてるってわけじゃないんじゃない?」

「そうだな。それに点数の無い奴はどうなるんだって話さ。勉強ができるかできないかだけで生活水準にまで差がつくってことだろ? 中々残酷なシステムじゃないか」

「うーん……でもミドリ君、そのために魔法だとか国家申請だとかがあるんじゃないの?」

「ああ。俺もそう思ってはいる。だがもしその国家とやらが弱者救済に動かないような制度……たとえば専制主義とかだったらどうだ? 格差は広がる一方だぜ」

「おーこわこわ。ジークカイザー! ってやつ? でも、そんな人同じ学年にいるのかなあ」


 呟くアルトの言葉に、俺はふとある人物の顔を思い浮かべる。さっき入学式のステージで新入生の挨拶を述べたあの学年主席。その挨拶はどうもただの常人が成せるような物ではなかったように思うのだ。自分には力があって、更に力の無い奴は消えろなんて……共和主義の片隅にも置けない主義主張じゃないか。もしかしたら……

 俺は一度首を振った。


「ま、いないことを願いたいね。俺もクラス長になったはいいものの、そんなごたごたに巻き込まれるのは本望じゃないからな」

「そうだね。私たちのクラスは絶対いいクラスにしようね! 格差もいざこざもない最高のクラスを目指すの!」

「ふぅー! 流石鶴野クラス長! 女神だねぇ」

「ああもちろん。最低限のことぐらいはやらせてもらうよ。ま、大体は鶴野の助けを借りることになりそうだが」

「ふぅー! 流石緑風クラス長! 他力本願だねぇ狐だねぇ天パだねぇ~」

「おいこらアルト! 天パは関係ねえだろ!」

「きゃーミドリが怒ったぁ~」


 ちょこまかと教室中を逃げ回るアルト。俺は奴を捕まえるのに相当の時間を費やしてしまった。


「この、今度という今度はお前をパンチパーマにしてやる!」

「ひ~んお許しを~」

「はい、皆さん着席してください。テスト五分前ですよ」


 ようやくアルトを捕まえた俺。しかし、直後に先生が着席の合図を告げた。

 俺はしぶしぶ自分の席につき、筆記用具を鞄から出し、テストの準備を進めていく。


 こうして、俺たちの最初のテストが行われた。

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