第3話 2人目の幼馴染


「おらっ! やっと追い付いたぞこの野郎」

「あらら~。捕まっちゃった」


 しばらくの後、俺はアルトに追い付いた。足のリーチの長さでは俺の方に幾分も分がある。しかしちょこまかと動き回るこのハーフ野郎である。捕まえるのには少し時間がかかってしまった。


 そしてふと気が付くと、さっきまで桜小道の奥にちらっと見えた校舎がもう目の前に迫っていた。白い壁には数多くの窓が張り巡らされ、近代的な意匠を感じさせてくれる。目の前にあるのは第二校舎の正面玄関。桜を象った校章と国旗とが玄関の上から垂れ下がり、入学式という晴れ舞台を祝福してくれているようだ。


 そんな正面玄関の前では、新入生たちの人だかりが出来ていた。皆、玄関の自動ドア付近に張り出された紙に寄ってたかって群がっている。クラス分けが貼り出されているらしい。


「お、クラス分けか。行こうぜアルト」

「うん! 僕たち何組かな~」


 さて、俺たちもその人だかりに分け入って自分のクラスを確かめに行こうとした。だが、俺はがやがやとごった返す人だかりに弾かれて中々奥まで進めない。下手すりゃどさくさに紛れて女子なんかにぶつかってしまいそうだ。初日から痴漢扱いされるのは御免だぜ。


「くそ……人が多すぎて進めねえな……ってあれ? アルト?」


 俺が周りを見回すも、そこにアルトの姿は無かった。あいつ……一体どこ行きやがったんだ?


 俺はしばらくその人だかりの中で悶えることしかできなかった。クラス分けの紙はちょうど文字が見えないくらいの位置に貼られている。くそ、もう少し俺の視力が良ければ……


「……よっと。ふう、きつかったぁ」

「うお、お前どこかにいなくなったと思ったら……」


 しかしそんなことをしていると、群衆の中からひょっこりとアルトが顔を出した。どうやらその低身長を上手く行かして、その中を進んでいったらしい。なるほど、これなら確かに低身長がコンプレックスにならないってのも頷けるか……?


「ただいま。緑風共助君は20組だってさ。そんで、僕も20組。やったね、同じクラスだよ!」

「お、あ、ありがとう」


 奴は唐突に俺の名前を呼ぶ。そして盛大なネタバレを俺に投下してきやがった。なんだかドキドキ感を一つ奪われた気がする。そのせいで俺の返事も変な感じになってしまった。

 それにしても、苗字が緑風だからってあだ名がミドリとは、安直なことこの上ないな。こいつのネーミングセンスだけは昔から全く理解できないんだ。


「あれ、アルト君にミドリ君? 2人も20組なの?」


 ふと人ごみの中から響く、丸い女子の声。俺達はすぐに声のした方向へと視線を向ける。すると、そこに立っていたのは身長160センチくらいの可憐な女子生徒だった。髪は滑らかな黒のセミロングでまとめている。

 彼女の纏うは赤茶色のブレザーにオレンジのリボン、チェックのスカート、脚には黒タイツと黒ローファー。どれもこれも新品ばかりで、春の朝日に当てられてキラキラと輝いているようにも見えた。エヴリス学園の女子制服である。

彼女は、これまた小学校からの幼馴染、鶴野彩華つるのあやかだった。


「あ! アヤちゃんだ!」

「おお鶴野! 俺達も20組だぜ」

「本当に!? やったぁ! これからもよろしくね!」


 そう言って、鶴野は俺の手を取って来た。柔らかくて暖かい女子の手。それに合わせて、眩しい笑顔が俺の頬を殴りつける。こんなことをされて照れない男はいないだろう。


「わっ、おい鶴野! やめろよこんな人前で……!」

「あっ! ごめん、つい……」


 俺は驚いてその手を軽く払ってしまった。はっとした顔で手を離す鶴野。周りの新入生から何となく痛い視線を感じる。全く、こういう天然気味なところも以前から全くブレていない。そのお蔭で振り回されたことも何度もあったが。ああ、言っておくが俺と鶴野は決してそういう関係ではない。あくまで唯の幼馴染だ。そもそもこんな可愛い女子に俺なんかが釣り合うはずがないのである。その点はちゃんと弁えているさ。


「わーい! アヤちゃんも同じクラスだー!」

「しっかし、鶴野も一緒なクラスだったとは。これじゃあ変わり映えしないな」


 ぱぁっと明るい笑顔を投げやるアルトに、少し照れ隠しな言葉を返す俺。しかし、中学校の時からそうだったが、高校の制服になって益々彼女の容姿は見違えたように見える。元々顔も良いしスタイルも悪くない。その上、肩下10センチ程までに切りそろえた黒髪がアクセントとなって容姿に磨きをかけているのだ。まあ、あとはもう少し胸があれば完璧か?


「えへへ、そうだね。でも、ミドリ君とアルト君と同じクラスならなんだか安心したよ~。ちゃんとお友達が作れるか心配だったんだ」

「何言ってんだよ、鶴野ならいくらでも作れるだろ? そんだけ可愛いんだから」

「えっ⁉ そ、そそそんな、可愛いだなんて……そ、そんなことないってば!」


 鶴野は俺の言葉に顔を真っ赤にしてしまったようである。俺としては特に変な意味は無い。別に鶴野に恋愛感情を持っているわけじゃないし、本心を述べたまでである。鶴野の方も、そこまで内気でもないくせに俺に対してはこんな風にやたらと過剰な反応を見せてくるのだ。ま、軽くからかう気持ちがあったのも間違いではない。


「へぇ……これだけの容姿をしておいてまだ否定しますか。あ、そうだな。強いて言うなら胸がちょっと足りないくらいか」

「もう! ミドリ君のバカ! 変態!」

「ははは」


 鶴野はすぐに柔らかい口調のまま俺を罵倒して来た。そんな優しい口調じゃあ罵倒されても罵倒された気分にならない。


「あーあ、そんなに女の子の胸なんかジロジロ見ちゃって、ミドリったらスーケベ」

「ふん、俺は本当のことを言っただけだぜアルト」

「なーにを開き直ってんのさ。言っておくけどそれ、唯の痴漢だからね?」

「うっ……悪いが俺は触ったわけじゃないからな。痴漢にはならんのだよ」

「へぇ……すいませんこの人痴漢です! この天パ痴漢です!!」


 するとアルトは辺りの群衆に向かって叫び始めた。新入生たちは突然のことに惑い、怪訝な眼差しを俺の天パに宛がってくる。こ、こいつ! ってか周りの奴らもだ! 天パは関係ないだろ!!


「おいアルト!」

「きゃー!」

「あ、アルト君!」


 俺はアルトに向き直ったが、奴はその機敏さを利用して、サッと鶴野の後ろに隠れてしまった。まずい、周りの目線が痛い。この場はとにかく離れた方がよさそうだ。

 このショタハーフ野郎。後で覚えておけよ。


「ったく。まあクラスも分かったことだし、早く教室行こうぜ。入学式もあるし」

「そ、そうだねミドリ君」


こうして、俺たち3人はそそくさと新たな学び舎へと足を踏み入れていくのだった。

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