第72話「第二ラウンド開始」
先程のスケルトンソルジャー。あれは恐らく、自分で使役するために骨だけ残していたのだろう。勇者4人の骨をスケルトンソルジャーとして使役すれば、高レベルの装備も相まって、かなり強力な眷属となる。
とてもじゃないが、まともな精神を持つ者がする仕打ちではない。遺骨さえ操り戦わせる行為は罰当たりで冒涜に値する。感情が欠落しているとはいえ、確実に精神をやられてしまっているのだろう。今にして思えば、無感情すぎる表情、淡々とした口調に平然と行う酷い仕打ちと不遜な態度。全てが恐ろしく不気味だった。
「あいつ、まったくとんでもない奴だわ」
「そうですわね……あそこまで残酷な仕打ちが出来るものですの?」
「ホント虫唾が走る」
「ハシンセル」
ホルスター内からコルラ達が奴に対する思い思いの意見を述べた。今までに見ないサイコパス系チート転移者だ。歪んでいる。
「……ん……っぅ!」
「あら? アンチ様、ネアちゃんが!? ネアちゃんしっかりなさいまし!?」
突如、ネアがふらつき始めた。そして、アンチートマンの変身を解除してしまった。コルラの呼びかけで慌てて駆け寄ると、ネアは辛そうな表情を浮かべている。頭を両手で押さえて吐息も荒い。身体中から汗が流れている。やはり体調が悪かったのか。
「おい、ネア。立てないならアンチバレットコア化するぞ? ホルスター内なら回復効果がある」
「ち、違いますアンチさん……これは体調が悪いとかそう言うのじゃありません……!!」
力無く寄りかかるネア。口調も性格も以前に戻っているが、これはいかん、かなり辛そうだ。まさか洞窟内で病原菌に感染でもしたのか。
「大丈夫だネア。無理はするな」
「違います! 私の中から何かが生まれます!!」
「……え?」
「ああ!! 声が、頭の中に声が聞こえてきます! ああこれは出ます出ます、でちゃいますよぉぉぉぉ!!!!!」
い、いかん、頭を押さえてしきりに振り乱している。これは無理やり押さえてコア化しないと。
「これは好都合だ。体調を崩した足手纏い程、仕留めやすい標的はいないからな」
背後で強いチート能力を感知した。反射的に奴と理解できた。振り返る前にネアを抱えて跳躍し、そのままマシンクロッサーに乗り込んだ。直後に巨大な光の一線が真横を通過した。衝撃波と暴風が吹き荒れる。
「惜しいな。あと少し気付くのが遅れたら身体を消滅させられたんだがな」
感情を感じさせない瞳、無表情と淡々とした口調。眼鏡。まるで罪悪感すら感じさせない。奴だ。ようやく追って来たらしい。だが、最悪なタイミングだ。ネアが体調が悪いと言うのに。
「本来なら逃げる前に仕留めるのだが、お前達の場合はそうはいかないらしい。だが、あまり無駄に命を長らえさせても意味が無いぞ? どうせお前達は死ぬんだ。どんなに逃げても数秒寿命が延びるだけだ。死ぬ運命は変えられん」
何度聞いても相手を殺す事前提で話している会話だ。しかもこちらの意見など一切受け入れない姿勢だ。いったいどのような脳改造をすればここまで冷酷な殺人マシーン状態の人間が生まれる?
「言っておくが僕はお前達に同情する気持ちなど無い。お前達が僕の邪魔をしたから殺してやろうと思ってな動くなよ?」
手をかざすと、奴の腕の周りに紋章が出現して回転し始めた。またあの攻撃を仕掛けるつもりか。だがこちらも負けてられん。両手を翳して体内のエネルギーを集約させる。奴が紋章派を放出した直後、私も両腕からアンチブラストを放出した。互いの攻撃がぶつかり合い、跡形も無く消滅した。やはりチートは普通に効いている。
「まったく、こんな状態で第二ラウンド開始とは……チェイサー、サイダー、一斉射撃頼む」
《了承した》
《任せてよ》
マシンクロッサーの全武装が展開される。私も先刻試したフェイント攻撃を仕掛ける準備に入る。
「まったく、動くなとは言ったが、反撃しろとは言っていない。もしや、言葉がわからないのか? 哀れな事だ。そうだ、いっそのこと女を狙おうか、体調が悪くて可哀想だからな」
人を煽る淡々とした口調。恐ろしいな。鉄仮面御ように無表情。再び手を翳して先程と同じ攻撃を仕掛けようとした。その瞬間、マシンクロッサーの一斉砲撃が始まった。奴は咄嗟に防御をしようとしたタイミングを狙い予め手を翳しておいた右手にアンチートアックスが飛んできた。アックスは奴の背後から来た。不意に現れた武器には流石の奴も気を取られてアックスを止めた。そのせいで一斉射撃を防ぎきれずに直撃を喰らい、大爆発を起こす。これでやったとは思えないフェイント終えて飛んできたアックスを掴み、アンチバレットコアを挿入した。
《Energy(エネルギー)Charge(チャージ)!》
ああ、待たなくてはいけないのだった。ネアからアンチートガンナーを借りてコルラ達の力を借りよう。
「くすぐった」
「「「!?……トランスフォーメーション!!!」」」
「なっ!?」
私がアンチートガンナーでコルラ達をアンチバレットコア化しようとしたら、コルラ達は突然叫びだして光り輝き、なんと自分達だけでアンチバレットコア化してしまった……。いつからそんな事ができるように……? しかも今慌てて変身しなかったか?
いや、今はそれどころではない。彼女達をキャッチしてガンナー上部に連続で嵌めこむ。チューンとジャッジメントを同時に発動してショートカットする。
《Tune(チューン)Cobra(コブラ)Corura(コルラ)! Judgement(ジャッジメント)!》
《Tune(チューン)Scorpion(スコーピオン)Pirco(ピーコ)! Judgement(ジャッジメント)!》
《Tune(チューン)But(バット)Moko(モコ)! Judgement(ジャッジメント)!》
《Triple(トリプル)Judgement(ジャッジメント)Monster(モンスター)BREAKAR(ブレイカー)!!》
両腕に鋏と鉄鞭。背面に両翼刃と毒針尾が一気に武装された。そのまま空中へ上昇してガンナー銃口から凄まじいエネルギーを放出。コブラと蠍、コウモリのオーラへと変わり、炎上している奴へと直撃して再び大爆発を起こす。
《Judgement(ジャッジメント)、Antirt(アンチート)BREAKAR(ブレイカー)!!》
アックスのエネルギー充填が完了したので。アックスを掴みそのまま帯を掴んで高速回転させる。
「行くぞ、アンチートブーメラン!」
稲光を纏ったアックスを思い切り投げた。高速で回転したアックスはそのまま煙と炎が出ている場所へと激突して巨大なスパークと共に三度めの爆発を引き起こす。
正直に言うと、もうチート反応も能力の反応も無い。確実に死んでいる。だがまた巻き戻される筈だ。そして、数秒経過した後に奴の反応が復活した。やはり巻き戻ったんだな。煙と炎の中から全く無傷の奴が歩いてきた。
「まったくいつもなら僕の攻撃が防がれる事は無い。全てきれいさっぱり消し去るからな」
やはり、生きていたか……。だがまだ落胆する事は無い。策はいくつも用意しておくものだからな。
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