第64話「街中での戦闘は避けたい」
《さて、では新チームで次の世界へと旅立とう》
《じゃあ、早速行こうか、主》
「ああ、頼む」
「行くでーす!」
ハンドルを握り、エンジンを吹かすアンチさん。私とアンチさんを乗せたチェイサーちゃんとサイダーくんは勢い良く走り出した。徐々に加速して周りの景色が歪み始める。前方に空間の裂け目が出現。裂け目の向こう側からは、何やら白い景色が微かに見えた。私達はそのまま、裂け目の中へと吸い込まれる。一瞬の次元移動を体感した後、無事に通り抜けた。あ、ちなみに私がサイダーくんに乗せてもらってるのは、アンチさんを独り占めできる権利を使ってるからでーす!
だが、この異世界へと来た瞬間、私達は今まで経験した事の無い試練を体験する事となった。
「寒いですうぅぅぅぅ!!!!!」
「ああ、寒い!!!!!」
私はもう天に轟くのではないかってくらいに叫んだ! 寒いよ、寒いよ此処!? 右も左も、上を見ても下を見ても一面真っ白な世界、しかも雨……じゃなくてこの降りしきる冷たい物体は何なんですか!?
「これは雪だな、しかも吹雪いている。雪原の大地、氷原の大地ではないか」
雪? ああ、そうか。これが雪ですね? そういえば冬が来る前はいつも冬眠してましたから、雪景色とかは噂に聞くだけで始めて見た。まさか、こんなに肌を突く程冷たくて痛いとは思いませんでした。視界も悪くてよく見えません!!
ひえぇ~こんなに寒いと眠くなちゃいます! せっかくアンチさんを独り占めできるのにあんまりです!
「おい、皆は大丈夫か!?」
アンチバレットコア化しているピーコくん達は大丈夫だろうかと尋ねるアンチさん。
「フフフ、平気ですわ」
「心配しないで旦那。大丈夫よ」
「このホルスターにセットされていれば問題ないみたいね」
「フツンセル」
良かった、それなら大丈夫ですね。
「ネア、悪いが君もアンチバレットコアに」
「ひえぇ~!! 嫌です! これで寒さを凌ぎます~!」
「あ!? まだ君に預けたまま」
私はアンチートガンナーの銃口を掌に押し付ける。確かアンチートマンの装甲は温度調節してくれるとチェイサーちゃん達から聞いた。
《Anti(アンチ)Up(アップ)!》
直ぐに銃口から赤紫色のエネルギーが放出されて私を包み込む。紫と黒の装甲が瞬時に装着されて、寒さと降りしきる雪の感触から断絶される。これで命拾いした。スーツ内は常温を保っている。寒さのあまり装甲が肌にくっつく事も無いし安心です! 体毛じゃ気休め態度にしかなりませんから。
「ネア……無駄に変身してまでも独り占めしたいか」
「そうデース!! アンチさんを想う気持ちは誰にも負けません!」
《敵わないな主? さて、どうやら私達は雪国に着いたようだな》
《でも、こうも雪が降りしきっているのは流石に辛いね》
「そうだな……厚着で本当に良かった……とはいっても、私の身体は半分が無機物だからな、寒いのはわかるが微妙な感覚だな……?」
「じゃあ、私が温めてあげますね!」
――――……――――……――――……――――……――――……――――……
此処の国は、今まで訪れたどの異世界よりも、文明レベルが発達している。
雪の降りしきる氷原の大地故、万年食糧不足と寒さに悩まされ、それらの弱点を技術力を向上させて生活水準を上げる事で補ったのだ。他所の国に負けない為か、軍事力も科学力も高く、一見するとファンタジーの世界のように見えて、現代風の世界観とマッチングしたような場所だ。
防寒設備が整っているらしく、国内は寒さが軽減されている。それでも吐く息は白いがな。この程よい温かさならネア達も冬眠せずに済む。
「はぁ~本当に眠ってしまうと思いました。私達に寒さは天敵とも言えます。眠くなっちゃいますから」
「人間でも、よく氷山で眠くなることはあるぞ?」
「私達の場合は土や寝床に潜ります。そして温かい状態で春が来るまで眠る事が出来るから、人間とは違います」
「それはそうか」
人間はそこまで眠る事は出来ていないからな。種族の違いを認識させられる。
さて、私も服装を元の紫寄りの衣装に戻したいが、いつの間にかネア達は飾り気のないローブやマフラー、コート等を着用していた。もしかして買ったのかと尋ねると、ネアとバイラの糸を紡ぎ合わせ、チェイサーとサイダーが用意したデータを元に服飾を作ったそうだ。
そんな事が出来るとは知らなかった。しかも、かなりの良い出来だ。手触りと質感、色合いなど、質素でいながら上質な作り、この肌に馴染むかのような感触は、高級品なのではと間違えても仕方のない出来栄えだ。
「ほら、私は手足が8本もあるので、獲物を取るための器用な技術を裁縫に応用しただけです。バイラちゃんも蛹状態だけど糸の扱い上手いし。ねえ?」
「ウマンセル」
これは、私も作ってもらいたいな。まあ、ネアがどんなに私に好意を寄せてくれても、私は決して彼女を1人の女性として見る事は無い。越えてはならぬ一線がある。彼女にもそれを自覚してもらいたいからな……。
さて、この街はいかんせん複雑に入り組んでいて堅牢な建物ばかり。国民の数も大変多く、この中から見つけ出すのは流石に骨が折れる。検索には引っかかるのだが、そこに行くまでが大変だ。マシンクロッサーで街中を駆けるような無粋で大迷惑な行動は避けたい。
それにしても、先程から通り過ぎる人々を眺めていると、非常に多種多様な種族が混同で暮らしているいる。獣人や亜人、人間も入り乱れている。だからこそネア達が紛れても違和感が無い。
「ん……?」
穏やかな気分に浸っていたところに水を差された。微かに異世界チート転生者の反応を感じた。視界にレッドフィルターが掛かり、点滅している。数は、幸いにも1人のようだ。だが、こんな人気の多い場所で戦闘を行うのは流石に不味い。
「アンチさん? 来たのですね!?」
ネアが私の様子に気が付いて、真剣な表情を浮かべた。
「そのようだ……行けるな?」
「私達がいるから大丈夫です!」
皆、こちらを見てガッツポーズを作る。頼もしい限りだ。いいチームを得た。皆にサポートしてもらう。自分だけ背負い込む必要はない。
「まだ近くにはいない。できれば、爆発沙汰などせずに穏便に済ませたい。皆頼むぞ」
一斉に景気の良い掛け声と返事が返ってきた。微笑まずにはいられない。
慎重に探索する。気配は常に動いているので、住民に紛れて移動しているのだろう。早歩きでひとだかりを避けて移動。気配は段々と近くなり、遠ざかりもするが、ようやく正確に捕捉。後は、気取られないように尾行していく。何処に向かうかはわからないが、もしここで気付かれて下手な気を起こされたら住民に被害が及ぶ。
「街の外れに向かっているのか……?」
これは幸運と言うか不運と言うべきか。
「ネア。見つけたら開口一番、君の糸で拘束してくれ。幸い街外れの場所だ。被害は最小限に食い留める」
「はい、私の実力見せてあげます!」
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